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【秋葉原アンダーグラウンド】第2章 5話

3人が案内された場所は、病室のようなところだった。
各部屋の外は厚いガラスで覆われ、その中には患者が1人、様々な機械から伸びた管で繋がれていた。かろうじて生きてはいる。そんな状態だった。

「ひっ・・・」

リンは目の前の光景に思わず声を上げ、ワンの後ろに隠れる。

「驚かせてしまってすまない。彼らは皆ステージ4の末期がんの患者なのだ。今の治療法では回復は見込めない。一縷の望みで、皆この試験の被験者となったのだよ。」

ロンは悲しみの表情を浮かべ、そう話した。

「それにしては、容体がかなり悪そうに見えますね。」

シンは患者、いや被験者を見ながらそう呟いた。

「うまくいってないんですね?」

だから自分たちが呼ばれたのかと思うと同時に、タイミングが良すぎるとも思った。

「それで、自分たちの理論を彼らに当てる。そんな感じですか?」

シンが呟きながらロンのほうを向くと、先の悲しみの表情は一切消えていた。

「えぇ、その通りです。自分たちの理論は完璧だ。それは研究者の誰しもが思うこと。ですが、何かが足りなかった。そこであなたたちの発表を見て確信した!これなら、これを足し合わせれば患者たちはきっと報われるとね。」

ロンの表情は先の表情とは打って変わり、喚起に満ちた表情だった。

いかれている。

そんな風に感じたシンを横目に、今度はワンが声を上げた。

「あなたたちの理論は知りませんが、オレは正直、対ヒトにするにはデータが不足していたように思っています。はやまっているんじゃないか、そんな風にも見えます。何か焦る理由があるんですか?」

的を得た質問だった。おそらくこの研究は、自分たちの理論が完成する前に始まったと思われるが、言ってしまえばなぜこの中途半端な状態でアボはゴーサインを出したのか。普段何も考えてない(といえば失礼だが)リンですらそう思っていた。もしかしたら、自分たちがここに来ることを想定して、見切り発車したのではないだろうか。

すると、ここまで一言も発していなかったアキモトが話し始めた。

「おそらく君たちが思っていることは同じだと思う。明らかに狂っている。そう思うのも無理はない。だがね、これは日本の威信をかけた研究なのだよ。」

だからって人の命を弄ぶようなことをしてもいいのか?シンはそう思った。

「このことを知っているのは、我々だけですか?」

「ここにいる6人に加え、ロンくんのチームのあと2人かな?」

アボがそう答えるとシンは、

「この事実をマスコミは?親族は?」

「もちろん知るはずもない。親族がいない検体だからね。おや?マスコミにでも公表するつもりかね?」

アボはそう言うと、懐から銃を取り出した。

「えっ?マジなやつ?」

リンは思わず声を漏らした。公表するって言った瞬間撃たれる。自分たちの研究データも持っていかれる。リンはワンの背中で震えていた。

「誰も公表するとは言ってないし、加担しないとも言ってませんよ。さっさとその物騒なものをしまってください。」

シンは冷静だった。

「それに、我々がいないと困るのはそちらではないんですか?ちなみに、データは我々の頭の中にあります。殺してしまったらそれこそ研究は二度と完成しませんよ。」

シンが挑発的な目で言うのを見ていたワンが止めようとすると、

「いやこれはすまない。ちょっとした意地悪をしてみたくてね。ほら、この銃もこの通り、モデルガンで弾は出ない。」

アボは笑ってその場を取り繕ったが、果たしてそうなのだろうか。銃を向けた時の目は、本気で殺そうとしている目だった。

「それで、何から始めれば?」

「おい、シンっ!」

ワンはまたしてもシンを止めようとしたが、シンの目は本気だった。

「まずはロン君たちのデータを見てもらう。その上で、君たちの意見を追加すればいい。」

アボはまるで、ほしいおもちゃを手に入れたかのような顔で、シンたち3人に伝えた。

#創作大賞2023  

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