見出し画像

証、或いは縛るもの

いい加減本棚の中身を片付けようと、左上のスペースの中のアクセサリー類を整理し始めた。
自分の場合何と言ってもピアスが一番多い。結局気に入ったものばかり着けるので大半はもう着けていないのだけど、自分で作ったものや人からプレゼントで貰ったものというのは何だか思い入れがあって捨て辛い。そんな事を言ってるから物を捨てられないのだけど。

白いケースがあってそれが何か一瞬思い出せなかったのだが、結婚指輪のケースだった。私は常に左手薬指に着けているが、旦那は結婚式含め最初の頃に何度か着けただけで基本していないのでケースに仕舞ってある。私の指輪はシルバーのシンプルなリングの真ん中にほんの小さいダイヤが嵌め込まれたもので、旦那のは同じ形で石が無い。細かい傷が沢山付いてちょっとマットになっている私の指輪に比べて、ずっとケースで眠っている旦那の指輪はピカピカだ。

旦那は元々アクセサリーの類を一切着けない人なので着けると気になって仕方無いらしい。おまけに趣味でベースを弾くのでその時に邪魔らしい。
最初こそ旦那が結婚指輪を着けないのが何と無く気に入らなかったが、結婚して5年も経つと別にどうでも良くなってくる。しかし何だか勿体無いのでいっそ私が普通にアクセサリーとして着けてやろうかなと思っている。人に言ったら多分びっくりされるほど激安な結婚指輪なので、勿体無いと言う程の価値の物ではないのだけど。
指輪にそんなにかけられるお金が無かったのと、私も旦那も大してこだわりが無かったので安い指輪を探して買いに行った。有名ブランドとか大手宝飾店とかそういうところは最初から全く眼中に無かった。地下にある、何ならちょっと怪しげな雰囲気の会社だったが、一応結婚式場などに卸している会社なので安く買えるとの事だった。
婚約指輪も多分一般的な予算と比較したらかなり安い物を買った。婚約指輪として売られている物ではなく、言わば普通のファッションリングだ。ただ普段自分が絶対にその値段の指輪は買わないという程度には高い。これもネットで気に入ったのを店舗に買いに行った。ゴールドの華奢なリングで、ブラウンダイヤが真ん中に付いている。
本来婚約指輪って冠婚葬祭なんかの時に着ける事も考えて買うのかもしれないけど、私はそれよりも普段から着けられる方がいいなと思った。値段は余り高くないけど(いや、私にとっては十分に高いけど)気に入っている。

結婚指輪や婚約指輪に対する考え方は人それぞれなんだろうなと思う。結婚しているという証だからこそ高いお金をかけて一生物となる指輪を買う人も多いだろうし、何なら結婚してもそもそも買わないという人もいるかもしれない。
私が最初の頃旦那が結婚指輪をしない事が少し気に食わなかったのは、結婚しているという証を何故着けないんだ…?という思いがあったのだろうか。旦那が指輪を着けない事で結婚してない人と見られる事が気に食わなかったのだろうか。
…我ながら今思うとちょっと気持ち悪い。
何度か書いているが私にとって結婚は免罪符(表現は唯川恵さんの小説より)であり数少ないアイデンティティでもあるので(結婚が絶対の価値と思っている訳ではなく自分を形作る数少ない要素として)、自分が指輪を着ける事はその目に見える証なのだろう。だから配偶者たる旦那にもそれを着けて欲しいという感情があったのかもしれない。今となっては別に旦那が着けるも着けないも旦那の自由だし誰にそれを示す必要があるんだろうな、と思うのだけど。
これで旦那が不倫してたりしたら笑えないけど、不倫なんて想像したら笑ってしまう。(信頼しているという意味)

学生の頃付き合っていた男の人と、お揃いでシルバーリングを買った事があった。私は本当は他のデザインの方が良かったのだが、彼がいいと言ったデザインのものを買った。買って1ヶ月もしない内に彼は指輪を紛失してしまった。私は大して怒らなかった。
その人と別れてしばらくして流石にその指輪は捨てようかと思ったのだが、友人が勿体無いから捨てるならちょうだいと言った。バカ高くはないけどめちゃくちゃ安物でもなかったし、物が無駄にならなかったという点ではまあいい事なのだろうけど、その友人もよく他人の恋愛が絡んだブツを進んで貰い受けたなあと思う。まあ他人の恋愛だからこそその友人には関係なく、単なる指輪として見られたのかもしれないけど。
彼が指輪を早々に失くしてしまった事それ自体もそうだけど、指輪を選ぶ時に私が自分の意見を言わなかった事も、彼が指輪を失くしても大して怒らなかった事も、全てがその人とは長く続かない事を示していたように今となっては思う。勿論そんなのは私にとって都合の良い言い分だけど。楽しかった事もその人から学んだ事もあった筈だが、私は早く過去にしてしまいたかった。友人が貰ってくれた事で私は自分の手で捨てる罪悪感からは免れた訳だけれど、彼女はまだあの指輪を持っているだろうか。

自分が欲しくて自分の為に選ぶ指輪も何かの願掛けであったりご褒美であったりする事もあるだろうけど、誰かと一緒に選んで着ける指輪はより強く意味合いを持ってその人を縛る物なのかもしれない。
私の指輪はもうすっかり手に馴染んで、ほぼ存在を忘れている。そして肉が増したせいか、いざという時に直ぐには抜けなさそう…。(何だこの終わり方)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?