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岩合さんにはなれない

夕方、地図で行った事のない公園を探してそこを目指して散歩に出た。そんなに遠くはないのだけど、案の定道に迷ってまたグーグルマップを確認する事となった。

小さな公園には誰も居なかった。ドングリがめちゃくちゃいっぱい落ちていて、見上げると木にもまだまだ鈴なりに付いていた。
子は4つあるブランコを端から順番に全部乗り、コーヒーカップのように中に座ってぐるぐる回す遊具に一緒に乗った。私の方が酔いそうだったのでいい加減なところで切り上げて公園を後にした。

また方向音痴の癖にカンで家への道を歩き始めたら、これまた案の定住宅街の中で迷子になった。しかしそう遠くない事は分かっているのでしばらくはそのままカンで歩く事にした。
ふと一軒家の前で視線を落とすと、キジトラみたいな柄の猫が夕涼みでもするようにゆったりとアスファルトに寝そべっていた。「あ、にゃーにゃだ」と私が言っても逃げる様子が無いのでかなり人慣れしているようだった。首輪はしていないけどツヤツヤの毛並みをしていた。
「写真、撮ってもいいかな」と言っても顎を地面に着けたままこちらを見ていたので、私がスマホを取り出してしゃがんだところで、子が猫を指差して「にゃーん!」とちょっと大きい声を出した。その途端に猫は起き上がって一軒家の敷地に逃げ込んでしまった。実家で飼っていた猫もそうだったのだけど、元々猫は子供が得意ではない場合が多い。急に大きな声を出されたらそりゃびっくりするだろう。くつろいでいたのに悪い事をしてしまった。

私が「あーあ、にゃーにゃ逃げちゃったね〜」と言ったからなのか、子が急にへそを曲げ始めてかぶっていた帽子を地面に投げ捨てた。だめだよ、と言って拾ってもまた私の手から帽子を奪って投げ捨てるし、鞄に仕舞おうとするとそれはそれで怒る。住宅街の中とは言ってもたまに車が通るから危ないので何とか子を宥めながら歩いていて、ふと立ち止まった時、ヤギと目が合った。

……ヤギ??

動かないので私は直ぐに「ああ、ヤギの置物かぁ。わざわざ道を通る人と目が合うように庭に置くなんてこの家の人はイタズラ好きな人なんだな〜」と思った。
しかしよく見るとヤギはこちらを凝視したままモソモソと口を動かしていた。更にその横にもう1頭、同じくらいの大きさのヤギが居て野菜のようなものを食べていた。結構なでかさの、真っ白なヤギが2頭。しかも紐で繋がれてこそいるが、柵も檻も特に無い。
とあるバラエティ番組で二度見するかどうかの検証をしていたが、今日の私も何処かから撮影しておいて欲しかった。もしかして綺麗な二度見を決めていたかもしれない。

余りに特殊な光景にちょっと思考がフリーズしたけど、子はヤギには目もくれずまだ帽子をぶん投げる事に執着していたのでそのままその場を離れた。近くの家の人が庭先に居たので、もしかして私を見て「ああ、また初めて見る人がびっくりしてるわ」と思っていたかもしれない。多分もう幾度と無く繰り返された状況だろうと思われる。

岩合さんならきっと唐突に住宅街に現れたヤギにも「いい子だね〜」とやさしく話しかけられるのだろうな。私はびっくりし過ぎてちょっと無理でした。

しかし、明日の朝起きたら夢だったと思いそうな光景だったなぁ…。

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