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『ソーシャルデザイン・アトラス』

この本は、2011-2012年にかけて鹿島建設の社内報「KAJIMA」に掲載されていた「SAFE+SAVE」という連載記事をまとめた書籍です。全14回、世界中のソーシャルデザイン事例を日本語で紹介し、書籍化に向けてさらなる事例を集めてまとめました。また、その時点までのソーシャルデザインの歴史を振り返り、1970年代から出版された関連書籍や関連展覧会などについて記しました。

2011年に『コミュニティデザイン』という書籍を刊行させてもらい、「情熱大陸」などテレビ番組でコミュニティデザインの取り組みを紹介してもらったりしたため、僕たちが取り組んでいる活動について理解を示してくれる人が増えました。一方で、コミュニティデザインのことを知ってくれたからこそ「コミュニティデザインって、コミュニティをデザインしているんですか?」と質問されることも増えました。

確かに、建築デザインは建築をデザインしているのだし、プロダクトデザインはプロダクトをデザインしていますね。グラフィックデザインもウェブデザインも、その対象が「デザイン」という言葉の前に置かれている。そこから類推すると、コミュニティデザインはコミュニティをデザインすると理解されても仕方ありません。

でも、コミュニティデザインという言葉を広げたアメリカにおいては、この言葉が住民参加型のデザインを意味するようになっていました。もともとは地域住民が話し合って自分たちの地域の道路や公園や商店や公共空間のデザインを考えることを指す言葉だったので、地域コミュニティの物理的な形をデザインするという意味でコミュニティデザインと呼ばれていたのでしょう。ところが、徐々に物理的な空間のデザインだけでなく、社会教育や貧困対策や人種問題の解決など、地域住民が話し合って地域の未来をデザインすることを意味するようになってきました。そうなると、コミュニティデザインはコミュニティの物理空間をデザインするという意味だけでは捉えきれない言葉になった。「参加型デザイン」というような意味を持ち始めたのです。

用語の定義が曖昧なことを嫌う人は、パーティシペーションデザインなど「参加型デザイン」という意味をしっかりと捉えた言葉を使おうとされるようです。でも、僕はコミュニティデザインという言葉の響きが好きだったのと、意味が歴史的に変化していくという状況も気に入っていたので、参加型デザインというほどの意味でコミュニティデザインという言葉を使い続けていました。

つまり、コミュニティデザインという言葉はプロダクトデザインやグラフィックデザインとは違った用語の組み立て方になっているわけです。むしろ、ユニバーサルデザインとかインクルーシブデザインなど、デザインの方法や態度を示す言葉のように感じてくるのです。つまり、グラフィックデザインをユニバーサルデザインで進めるとか、プロダクトデザインをインクルーシブデザインで考えるとか、そんな感じです。だから、建築もランドスケープもプロダクトもグラフィックも、コミュニティデザインの手法を使って進めることができる。もし望むなら、建築家やプロダクトデザイナーと組んで参加型デザインを進められる、というのがコミュニティデザイナーの立場だということになります。

そこで少し考えたのです。ユニバーサルデザイン、インクルーシブデザイン、コミュニティデザイン、ほかにはエコロジカルデザインなど、デザインのエシカル(倫理的)な態度についてまとめるとどういう言葉になるのだろうか、と。そこで、ソーシャルデザインという言葉が思い浮かびました。社会的な課題を解決しようというデザインの姿勢。そのソーシャルデザインのなかに、コミュニティデザインという手法も含まれているのではないか。そんなことを考えました。

そこで、自分がソーシャルデザインだなと思う事例を世界中から集めて、その共通点などを探ってみようと思って始めたのが鹿島建設の社内報で連載した記事でした。いわば、コミュニティデザインをソーシャルデザインのなかにどう位置づければいいのかを探る旅だったわけです。

そんな事例のなかで、イギリスのマギーズセンターにも出合いました。この事例を国内に紹介したことで、日本にマギーズセンターを設立しようと取り組んでいる方々とも知り合うことができました。その意味で、僕にとっては思い出深い本となりました。2012年に出版された本です。


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