2011年8月13日 北海道の道北を旅して考えたこと
2011年8月13日
北海道には開拓の歴史がある。
それはとてもではないがここで軽く語ることなどできない、苦労と困難、挫折と悲哀の日々だったことは想像に難くない。
富良野を舞台にした人気国民的ドラマ『北の国から』でもその一端を垣間見ることはできるので、おおよそその大変さを知っている人も多いと思う。
そしてその壮絶な年月は富良野だけではなく、北海道のいたるところで積み重ねられてきた歴史だ。
北海道を走ると、道路脇に多くの廃屋を目にする。 もちろんそれ以外の土地でも見かけることはあるが、その数は北海道が圧倒している。
そしてそれは山の中の道端だけでなく国道沿いにも平気で現れ、ひとつの北海道的風景としてあまり強い違和感を抱くことはなくなっている現実がある。
今日、猿払の道を初めて走った。
旅の前に知り合いから猿払の開拓の歴史を聞き、旅に出る前に少し勉強をした。
本多勝一『北海道探検記』。
読了後言葉が出なかった。
そんな哀しい歴史を感じさせる廃屋が、国道沿いのそこかしこにやはり目立つ。 かつてそこには確かに人の生活があった。そして何らかの理由でここを去った。今となってはその理由を知る術はない。
恐怖に近いような哀しさを感じさせる風景だが、夏の日差しが強烈すぎるせいか驚くほど陰鬱さを感じることはない。
ただその存在感には言葉を失い圧倒される。
そんな負の歴史の一端を意識しつつも、真夏の道が気持ちいい。
太陽に照らされた緑の草がやけに眩しい。
オホーツク沿いの道の駅さるふつ公園で「帆立バーガー」をパクつく。
過疎の進んだ町。ほんの少しでも町おこしの一環にでもなればと思う。
口の中にはホタテの海の香りが溢れた。
浜頓別、クッチャロ湖。
白鳥の湖。
「観光地化されていない」と書かれた展望台をガイドブックで見つけそこに向かう。
海沿いの国道からは牧草地の道を何度も曲がらないとたどり着けない、確かに観光地化されにくい場所にようやくその展望台を見つけた。
運良く、なのかいつものことなのか分からないけどそこには誰もいない。でも多分おそらく後者。
丘の下にクッチャロ湖が静かに広がる。
自分の旅ではよく遭遇することのある目の前の景色の独り占め。
風の音しかしない。
展望台のある高台に湖から風が吹き上ってくる。
ベンチに座り、ぼんやりと時を過ごす。
特に景色に激しく感動するわけでもなく、かと言って退屈しているわけでもなく。
一人旅の醍醐味。
周りには誰もいない。
都会での日常生活ではなかなかあり得ないそんなロケーション。
いま自分の周りでは時間がゆっくりと流れている。
穏やかなやさしい時間に包まれる。
でも写真撮影は元気に!
ベンチにカメラを置いてセルフタイマーでカウントダウンしてジャンプ!!
高く跳びすぎた(笑)
夕日のサロベツ原野を目指す。
道道84号豊富浜頓別線を西へ西へ。
この道もなかなか対向車は来ないし、自分の前にも後ろにもなかなか車の姿は見えない。
西日が眩しい。緑も眩しい。
サロベツ原野に着く前に、少し眠いことに気づく。
北海道を車で走っていて眠気を感じることは滅多にないのに、珍しい。
でも理由は分かっている。
前夜の寝不足。
若い頃は(この言い方はしたくなかったけど)、前の晩にたいして寝ていなくても眠気を感じることなんてなかった。
齢44。
世間的にいえば文句なしに「中年」。
認めざるを得ない。
気持ちだけ若いというのが一番危ない、何事に対しても。
よし。宿取ろう。
ただの自己満足の車中連泊で疲れて頑張っても誰も褒めてくれないし(元より望んではいないけど)、何より旅の楽しさにも影響してしまう。
ツーリングマップルを開き、サロベツの安そうな旅人宿を探す。
「あしたの城」。
ひとり旅界隈ではよく知られた旅人宿。いい機会だからお世話になってみようかな。
しかしベタなネーミングだ(笑)
電話を入れると、夕食は付けられないけどOKということなのでお願いをした。
今夜は布団で眠ろう。
見事な中年オヤジ、無理は禁物だ。
午前中からラジオで聞いていた天気予報は「道北の日本海側は夕方から雲が広がる」だった。
正面に見える西の空、悔しいけれど予報が当たりそうだ。
まもなく日本海が見えてくる。
サロベツ原野。
海の向こうに見える利尻島はてっぺん付近だけ顔を出して麓のあたりは雲に隠れている。
まあこれはこれで幻想的な光景だよなと納得。
日没まではまだ少し時間がある太陽の位置だ。
今夜の寝床も決まった安心感もあり、僕はシューズを履き替えランナーになった。
サロベツ原野を走る。
学生時代からずっと来たいと思い続けていた憧れの北の原野。
日本海を眺めながらは走る。
雲に覆われてはいるが、利尻島、別名利尻富士を眺めながら走る。
5分走って戻ってこよう。そうすれば2キロだ。
たった2キロでもいい。
北の旅人憧れのサロベツ原野を走ったという足跡を残さなきゃ。
北へ向かう。
背中側から風が吹いてくる。
車やバイクがゆっくりゆっくり走る自分を追い抜いていく。
大きな大きな空が頭の上に広がっている。
風もどんどん自分を追い抜いていく。
視界の中の利尻島はずっと海の向こう側に存在感たっぷりに佇んでいた。
折り返して南へ戻る。
強い向かい風が正面から吹き付ける。
時おり走り去っていくバイクのライダーからピースサインを受ける。
北の大地のライダーやチャリダー同士が交わす最高の挨拶を、走っている自分にも投げてくれる。
なんて最高の時間なんだろう。
このまま日が暮れるまで走っていたいな。
そんな気持ちになった。
海に沈む夕日は見ることができなかった。
仕方ない。
次の機会に取っておこう。
次?
次っていつかな?
20年でサロベツ原野に立つという夢が叶ったから、また20年後かな。
64歳の夏。
うん、あり得るな。
人生の楽しみがまたひとつ増えた。
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