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【番外編】2011年8月12日の事

2011年8月12日
まもなく昼になる時間、僕は新千歳空港近くのレンタカー事務所脇の駐車場に停められた車の中にいた。
レンタカーのエンジンをかける。 
心地よいエンジン音。
今日からの4日間を快適に過ごさせてくれる予感がする、そんな音。

軽く深呼吸してから車を走らせる。 

まずは以前僕が勤めていたフィットネスクラブを運営する会社の同じ支店で働いていた後輩と、その家族が待つ「滝野すずらん丘陵公園」に向かう。 

一度も行ったことのない場所だったけど、6年前の息子との自転車ツーリングで近くの国道を通ったので、だいたいの場所はわかる。 
その時に息子と走った道をトレースするようにR36を札幌方面に進んでいくと、見覚えのあるホクレンのGS。 

そう。 
リアにカラフルなホクレンのフラッグをはためかせながら走る、夏の北海道のバイクたち。 
そのフラッグを欲しいという息子。 
うん、、オレも欲しい笑
千歳の市街地を出て初めて現れたホクレンの黄色い看板がそのGSだった。 

残念ながらホクレンフラッグは既に完売しており、手に入れることができなかった。するとそこまで徐々に感じていた空腹感が一層激しくなり、国道の向かいにあるそば屋に寄ったことをよく覚えていた。 

ホクレン前のそば屋

息子に携帯でそば屋の写真を撮影してメールを送る。 
「どこだかわかるか?」 
するとすぐに「ガソリンスタンドの前のおそば屋さんだよね?」とすぐに返信がくる。
当時小学校4年生。 
まあ、覚えているか。 
でも、嬉しかった。覚えていてくれたことが。 

「滝野すずらん丘陵公園」はすぐにわかった。 
駐車場に車を停めるとほば同時に後輩から電話が入る。 
彼が埼玉から北海道に転勤して以来なので6年ぶりの再会。 
ちょうどその頃、自分は埼玉から愛媛に転勤。
一気に距離が離れた。

当時と全く変わらない雰囲気の後輩。 
変わったことと言えば、後輩にそっくりのちびっ子が奥さんに寄り添うようにそばに2名いたこと。 
年賀状で知っていたけど、6年の歳月って、やっぱり長いよなあ。
そんなことを感じる。 

その時に北海道転勤を涙を流しながら嫌がっていた後輩の奥さんも今ではすっかり北海道の虜になっていて。 
「あの時、山田さんや山田さんの奥さんが『北海道は最高だよ!』って言っていた意味が、今本当によくわかります。永住したいです!」と笑顔。 
幸せそうな一家を見て、なんかすごく自分も嬉しくなった。 
そして北海道らしくジンギスカンのバーベキューで、後輩との再会の宴を楽しんだ。 

滝野すずらん丘陵公園で後輩家族と

時計は午後4時。 
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

特に今日中に「どこまで辿り着かなきゃいけない!」というのはなかった。 
そうなるのが嫌で事前の宿泊予約は入れないようにしていた。 
ただ、翌日の夕方には『サロベツ原野で夕日を見る』という旅の目標があったので、札幌から少し北へ向かっておきたかった。 

後輩一家とまたの再会を約束し、記念撮影をして握手で別れを告げる。 
別に今生の別れではない。
また必ずどこかで会えるだろう。
駐車場まで見送ってくれた4人に手を振り、僕はまた車を走らせた。

混雑していそうな札幌の中心地はなるべく通らないように進む。ただ以前奥さんが住んでいたマンションの写真だけは撮りたかったので、地下鉄南北線の平岸駅の近くは通過して札幌の中心地を東に沿うように走る。 

しばらく走ると道路の青看板にほどなく江別、そして当別の地名が現れてきた。 
午後5時。 
北国の夏の日はまだ十分高い。 
どんどん北へ向かおう。


事前に確認して北竜町にある道の駅で温泉に入れるという情報は得ていた。 
ざっと計算して日が落ちるまでに着けそうだなと確信し、今日の目的地をその『道の駅 サンフラワー北竜』に決めた。 
着いたら温泉に入って、駐車場の車の中で寝て、夜中目が覚めたらペルセウス座流星群を見て、明日の朝は早く起きてひまわり畑に行こう! 
よし。
一瞬で明日の朝までのスケジュールが決まった。 

19時少し前に北竜町到着。 
道の駅到着直前にR275の左側になんとなく黄色い空間が視界に入った気がした。
ひまわり畑?と思ったけど、山の影に日が落ちていてほとんど見えなかったし、明日十分すぎるほど時間はある。
楽しみは取っておこう。 

道の駅で温泉タイム。 
頭の中で今朝からの一日の出来事を思い返す。 
昨日のこの時間はまだ仕事場であくせくしていたというのが嘘のようだ。 
幸せすぎる自分の現状を心の底から噛み締める。
なんて自由なんだ!最高だぜ!!

いつもは風呂は短めの自分だけど、今日はこの後の予定もないし待っている人もいないし、ゆっくりとゆっくりと過ごそう。 

ひとつだけ失敗したのは夕飯を食いそこねたこと。 
4時近くまでバーベキューをしていたので空腹感がなく、夕飯食べなきゃ!と思ったときには通過した北国の小さな街々の食堂は閉まっていたのか、それともそもそもそんなところはないのか。 

翌日の朝飯を調達する必要もあったので、北海道コンビニの「セイコーマート」に寄って、内地ではあまり見たことのないものを中心に購入した。
温泉上がりに駐車場の片隅に停めた車に戻り、東の空からきれいに上がってきた月を見ながら一人の晩餐。
こんな気分の時なら何を食べても極上のメニューだ。

東の空に浮かぶ月


極上のセコマメシを食べた後、明日の朝目にすることができるであろう一面のひまわり畑の景色を妄想しながら、後部座席にごろんと横になった。
窓からはさっき上がってきた月がいつの間にかだいぶ高い位置に上がって、明日の晴天を約束してくれているようだった。

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