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行間にメロディ


 ◆キングと共に

  私は、アメリカのホラー作家、スティーブン・キング(Stephen Edwin King 1947-)のファンである。
 今から思えば、最初の出会いは、映画『スタンド・バイ・ミー』(Stand By Me)だったのである。ただ、少年たちが死体を見に行くという展開にドキドキ・ワクワクし、原作者が誰であるかは関心がなかった。

『グリーンマイル』(The Green Miles)は内容に引き込まれ、映画も観た。『キャリー』(Carrie)や『ミザリー』(Misery)『ショーシャンクの空に』(The Shawshank Redemption)など映画で観た作品も多い。

 ◆聴かせる文学

 関東に住んでいた頃は、視覚障害者にしては新聞や文庫本なども読め、通勤の電車の中で本を手放したことがなかった。四国にUターンし、本はほとんど読まなくなった。というより、見えなくなってきたのである。そこで、ネットで映画を見ることにした。

 久々にキングの作品を観た。『アンダー・ザ・ドーム』(Under the Dome)だった。キング作というだけで、このテレビドラマの長編に付き合った。繰り返し流れていたのが、スキータ―・ディビス(Skeeter Davis 1931-2004)の『この世の果てまで』(The End of the World)だった。

「さすが、キング! うまい使い方だなあ」と感心した。
『スタンド・バイ・ミー』については、原作(The Body)でベン・E・キング(Ben E. King 1938-2015)の同名の楽曲がどんな形で出てくるのか、あるいは出てこないのか、興味深いが、確かめる根気がない。いずれにしても、私がよく聴く曲の代表である。 
  

 ◆ダイダラボッチもレノンが好き

 文学と音楽のコラボに興味を持った私は、二作目の『妖怪回生館』で試してみた。
 いろいろ訳ありの妖怪たちが、四国の盲導犬ユーザーの鍼灸師を訪ねる、という実話ともつかない小説である。

 ある時、鍼灸師はダイダラボッチのウェブ会議に招待される。そこで、ボッチたちは地球の環境保護のために、はるかかなたの星雲から派遣されたことを知らされる。ボッチが今もっとも心を痛めているのは、大国による隣国の侵略だった。しかし、介入して人類の歴史を変えることは許されない。その禁を破り、ボッチはひとり戦場に赴く。死を覚悟したボッチは、鍼灸師と盲導犬にウェブで別れを告げる。ボッチがかけていたのがジョン・レノン(John Winston Ono Lennon 1940-80)の「イマジン」(Imagine)だった。 
 

 ◆平和を愛する動物たち

 人間界だけでなく、動物の世界にも独裁者・侵略者はいる。
 四国の中央部、過疎化で消滅した村の跡に動物たちが王国をつくる。ユートピア故に絶えず、北方の熊の独裁者が狙っていた(『動物王国捕物控』)。

 しかし、熊は悪運が尽き、『続動物王国捕物控』では、山火事の中を専用ヘリで脱出を図るも王国の広場に不時着。恨み骨髄の動物たちに取り囲まれ、熊は命乞いをする。
 そこにロシアの女性ロック歌手・ゼムフィラ(Земфира 1976-)の『撃たないで』(Не Стреляйте)が流れてくる。群衆の一頭がスマホで聴いていたものだった。

 ◆恋する妖怪

 あまり知られてないが、妖怪も音楽が好きである。
『妖怪王国診療譚』は、人間に恋して妖怪王国を追われた、龍神の娘が主役である。街道脇でスナックを営む。鍼灸師が往診の帰りに道に迷い、たまたま立ち寄ったことから、懲りない娘は恋に落ちてしまう。

 後継に指名された妹は妖怪王国を継ぐ自覚はゼロ。存亡の危機に、やむなく龍神は長女を呼び戻そうとするが、鍼灸師への未練は断ち切れない。知り合いの結婚式で泥酔した長女を鍼灸師が介抱し、事情を聴く。酔いから覚め、静けさに耐え切れずにかけたのが、バーブラ・ストライサンド(Barbra Streisand 1942-)の『恋する女』(Woman in Love)だった。
 

 ◆地の果てで

 ベン・E・キング『スタンド・バイ・ミー』は自伝的小説『疱瘡小屋』で使わせてもらった。
 作中、鳥も通わぬ四国の山村に流れ着いたホームレスの母子が、貧しくもたくましく生きていく。都会に出て事業で成功した息子が、若くして自死した姉と、最期を看取った老母の位牌をクルマに乗せ、消滅寸前の村を訪ねる。
 道は崩れて行き止まりとなり、クルマはUターンする。漏れてきたのが『スタンド・バイ・ミー』だった。

『過疎化バスターズ』『温暖化バスターズ』の主人公は、サルのモンキ、イヌのドク、キジのジキータである。ジキータはもちろんスキータ―・ディビスから拝借した。
 桃太郎伝説の三銃士たちは現代によみがえり、過疎化や温暖化などさまざまな課題に挑む。ハードなミッションをこなすバスターズ。酒を飲んでは、初めて出会った東京の「三密酒場」の思い出話にふける。この時、BGM の定番は『この世の果てまで』だった。

 バスターズも寄る年波には勝てない。やや厭世的に過ぎるので、『温暖化バスターズ』では新ヒロイン、たぬきのタヌエに地球の未来を託し、サイモンとガーファンクル(Simon & Garfunkel)の『明日に架ける橋」(Bridge over Troubled Water)を挿入しておいた。

 ◆百万言を費やすより

 こう見てくると、私はずいぶん音楽に助けられている。音楽の力を借りれば、長々と叙述する必要などないのである。
 ただ、この手法は多用するとマンネリ化する。気に入ったミュージシャンや曲にも、限りがある。前出、作品集『疱瘡小屋』に収録した『残照』では、あることを試みてみた。これはネタバレになるので、口にチャックとしよう。

(出版物の詳細は 
My図書室|yamayamaya (note.com) で)
 
 
 

 

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