見出し画像

名古屋・本陣の異国飯「ローカルキッチン」

 愛知・名古屋は異国飯が面白い。

 人は陰険とか言われる(「名古屋 陰険」で検索してみよう)が、「日本は働かず住むだけなら楽しい」と高評価されるように、愛知の異国飯屋に入って食べるだけならすこぶる面白いんだ。

 名古屋異国飯の面白さは何かというと外国人構成にある。名古屋(中京)の外国人というと、中国や韓国は控えめに、ネパールやベトナムはそこそこ。本命はフィリピン、ブラジル、パキスタン、トルコなど、関東人・関西人にはあまり身近でない国籍の人が多く同胞向け飯屋を出してる点が面白い。これは愛知が工業県だからこそ。

 日本第3の都市たる名古屋の人には申し訳ないが、名古屋はあんまり観光で行かない。東京の旅行パンフレットでも京阪神はあっても名古屋は飛ばされている。だから名古屋は面白そうなのだ。異国飯のフォーカスがあてられる前の(新)大久保や西川口や小岩や池袋のように、探せば多くの人が知らないガチ異国飯をいち早く知ることができる。

 いち早く知ることは、知的快感やSNSで伝える承認欲求が満たされるだけじゃない。それまでろくに日本人が入らない店なので日本人スレしておらず、かつ日本人客にも入ってほしいと全力で自分が知っている最高の故郷の国の家庭飯を出す傾向がある。日本人に合わせた味付けになってないから、海外のリアルな食事を食べられるし、外人店長がベストだと思う日本人ではできない内装をするので舌だけでなく目で見ても楽しめる。外人店長が話好きなら話していてもなんか海外にいる気分になってくる。

 名古屋の中でも好きなのが本陣。東京で一押しの小岩くらいマイナーな街で、掘り起こすとまあ面白いこと面白いこと。

 名古屋駅には名古屋で最も忙しい地下鉄に東山線という路線が走っている。東側には栄・伏見・大須・金山といった繁華街が広がる一方、西側はいきなり下町情緒あふれる住宅地にかわる。東山線に乗って名古屋から東側の藤が丘方面行は伏見や栄があり混雑するのだが、西側の高畑方面行は一気にスカスカになる。マイナーな西側に向かって2駅目に本陣駅がある。本陣駅は住宅地の中にあり、大きな施設や大きな公園や役所があるわけでもなく、名古屋市民には縁がなくて降りたことがない人ばかりだろう。

 この本陣駅の周辺には中国、ベトナム、ネパール、インド、トルコ、ウズベキスタンのリアル食堂が駅周辺の住宅街に点在してて、日本でも珍しいウズベキスタン料理屋では「プロフ」「マンティ」「ラグマン」といったウズベク料理が食べられる。ウズベク人によるウズベキスタン料理の店が面白くないわけがない。当然何度も食べて、ウズベキスタンに行ったときの話をして敬意を表した。「ウズベキスタン 山谷」で検索すると記事が出てくるよ。

 なんでこんなに異国飯屋があるかというと、モスクがあるからだ。モスクがあるからハラルが欲しい人目当ての店があるし、おまけに栄や名駅に近く、名古屋駅から歩けないこともない便利な土地ということもあるのだろう。モスクは異国飯のチェックポイントだ。

 ある日。というか、インド圏の祭り「ディワリ」の日に本陣に行った。本陣の住宅地に突然出てくるネパール食材店「WORLD RADHIKA HALAL FOODS」には、ネパールやインドなどのお祭りディワリなのでディワリ仕様のお祭りの商品も売っていた。つまりお祭り用の食事や布や花輪などが売られていて、勢いお祭り用のスイーツや祭祀用品を買った。祭祀用品については使い方を聞いたらたどたどしいながらも心を込めて店員夫婦が教えてくれた(奥様は立派な体格で強そうだった)。店の奥はネパール人夫妻の生活空間があって、その内装というか装飾がどこかも独特でいつかあがりたくなった。

 その日は畑違いながら応援して頂いているYさんと本陣でご飯を食べた。最初にウズベキスタン料理屋に行ったんだが、なにせ厳格なので酒がでない。これではおっさん2人は盛り上がらないと2軒目の異国飯を探して本陣を歩いた。

 見つけた小奇麗なネパール料理屋「ローカルキッチン」に、ちょい飲みしますか?と入っていった。ここがビンゴ。友人の中国ルポライターにそっくりな、日本語が苦手なネパール人が、自慢の故郷の料理を提供するネパール料理店を出していたのだ。もう一人ネパール人が店にいたけど、この方は客で、だべった後店から出て行った。なので日本語でなく英語でしゃべることになる。ネパールは行ったことがあるか?いついったか?何回いったのか?レッサムフィリリという歌を知っているのか!?ポカラ出身なの?行ったよ。とかそんな感じで。

 Yさんはネパール飯が初めてだったので、異国飯を楽しんでもらおうと、既にご飯は食べてたので軽めに酒のつまみに「サデコ」をオーダーした。ネパールのインスタント麺を砕いてピーナッツや炒めタマネギと混ぜ合わせたもので、店によって結構違うが、間違いなく未知飯感があってうまい。

 サデコをオーダーしたといってもこの店というかネパール料理屋は日本人に媚びてカレーとナンしか提供してないんだが、この店にしてこの店長なら出してくれるだろうとばかりに、「サデコ好きなんだけど、ない?(笑)」と聞くと、「ワハハ、アナタよく知ってるねえ!」と反応し笑顔になって厨房で裏メニューを作ってくれた。値段は聞いていないが訊くのは野暮ってもので、結果的にYさんも驚くほどすこぶる安かった。

 僕と店長の距離感が詰まってきたところで「ついでになんかネパールの酒が欲しいなあ」と頼むと、「いいよ。ククリってネパールのラムだ。これが最高なんだ。」とばかりにお湯とはちみつ生姜で割って出してくれた。スペシャルブレンドだ。ククリというのはネパールの伝統的なナイフのことで、42.8度と非常に強いが、これをお湯で割るというのが標高の高いネパールでの体の温め方だ。割ると実に飲みやすく体が温まる。

 大宅賞受賞作家似のネパール人店長は英語で熱く夢を語ってくれた。もっと人を呼び込んで、もっと店を増やしたいと、いろんなプランを語ってくれた。異国飯はこういうのが楽しいんだなあ。

 一方紹介したYさんは、こんな楽しくてこんなおいしいものは今まで食べたことがなかったと喜んでくれた。Yさんは中国には出張するので中国飯は食べるけれど、ネパールは未知飯。そのサデコを食べた瞬間、ククリを呑んだ瞬間の、子供のような驚きの顔が忘れられない。うれしいなあ。異国飯ハンター冥利に尽きるってもんです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?