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各務茂雄『日本流DX 「人」と「ノウハウ」究極のアナログをデジタルにするDX進化論』東洋経済新報社

本書は、ドワンゴ、KADOKAWAでDX改革を行ってきた著者が、日本企業がDX経営改革を行うための方法論を解説したものである。DX改革を行うとする人、DX改革につまずいている人にとって役立つと思われる。

残念ながら、デジタル思考に基づいてデジタル技術を駆使する上では、日本的なアナログ思考は相性が悪いと言う。しかし、文化や国民性などに起因する日々の活動の違いが、アメリカ流マネジメントスタイルの持ち込みを阻害する。

DXにおいて、アイデアを出すのが得意の人、アーティストやクリエーターのような「発散型思考」ができる人材と、それを明確に定義して実装させるのが得意の人、優れたエンジニアなど、要件定義を明確にしてシステム実装までもっていける「収束型思考」が得意な人材が必要となる。

日本流DXを進めていく上では、発散型人材と収束型人材の間に立って、橋渡しとなる人材「マッチャー」が活躍する土壌を社内やチーム内につくれるかどうかが、成功を左右すると著者は言う。

アイデアを考えることに多くの時間を費やす発散型の人材と、アイデアを製品やサービスとして実現できるかについて時間を多く使う収束型の人材のマップを作成しておき、このマップの中間点にマッチャーの役割をしている人がいるという。

日本流DXの急所は「コンサル丸投げ」であるという。コンサルは外部の人間であるため、文字化できない社内の深部にはなかなか踏み込めない。また、コンサルの提案は、自分たちが本気で書いた餅の絵ではないため、実行段階で真面目に取り組まない。

DXを推進するためには、経営陣、とりわけCEO、CDTO、CIOが、会社全体をどのように変革していくかの方向性を示し、「いつまでに・何を達成するか」というロードマップを提示することが重要という。

DX推進の仕組みは、組織構成だけでなく、社内のルールや人材評価の基準にも及ぶ。日本の企業で大きな問題となっているセクショナリズムは、それぞれの立場の人が「今、自分が何を目的にしているのか、何の役割を担っているのかわからない」という問題があるからだ。

会社のDXの方向が示せても、その内容がブレークダウンできていない。「どういう人たちのグループに何をやってほしい」という期待値でもよいのではっきりしていれば、DXに意欲のある人材が積極的に手を挙げて、おのずとチームが形成される。

日本の企業は、「IT担当者」と一括りにされる。アメリカ企業のように、サービスオーナー、スクラムマスター、アーキテクト、コンサルタント、エンジニア、オペレーターなどのような役割が設定されていると、各役割に対するKGI(重要目標達成指数)やKPI(重要業績評価指数)が明確であるため、何をすべきかぶれない。これは、DX推進チームのメンバーも同様だ。

歴史ある大規模企業では、部門横断的に連携すると、他部門に仕事を奪われると考える人が少なくない。仕事の役割や内容を不明瞭な状態で、新規ビジネスに成功すると、ちょっと口を挟んだ程度の人間や部門長が「アレはオレの功績」と言い出して、手柄をかすめとろうとする。こうした人たちを「アレオレ詐欺師」と呼ぶ。

また、部門横断的なDXプロジェクトで、全員が「全社にメリットがあるのか」というDX推進チームの視点をもつようになるのは簡単ではない。所属部門の代表として自部門にメリットがあるのかないのかという視点にどうしてもなってしまう。そのため、社内権力闘争の主戦場に発展することもある。

新規ビジネスを小さく終わらせないノウハウは、「将来、伸びる可能性のあるビジネスはどの領域か」を予測してから、長期のロードマップを作成し、そこから逆算して新規ビジネスを立ち上げるアメリカ企業に学ぶ部分が多い。

働き方改革につまずいている企業が多いのは、「顧客は誰かを考えていない」からだ。従業員は会社の資産である。どのような働く環境を提供すれば、従業員の生産価値が上がるのか、効率よくパフォーマンスを発揮できるのか、それが長期的に継続できて従業員の生涯生産性が高まるのか、それらを考えることが改革の本質だ。

すべてをガチガチに決めたとおりにすることがよくないことは周知の話だが、一方ですべてを「自己責任」として野放しにするアプローチにもデメリットがある。ITを使いこなせない従業員には、カッチリしたガバナンスとフルサポートが必要だ。

働き方改革がうまくいかない、もう一つの理由は、「マイナスのフィードバックばかり見る」ことがあげられる。フィードバックはプラスとマイナスの両方を評価することが重要だ。特に失敗の基準を明確にした上で、マイナスは改善ポイントとして肯定的にとらえていく。

DX推進チームのチーム編成が重要で、社内に精通した人材がいないといけない。社内の情報の透明化が必要であり、マッチャー人材も必要である。情報システム部門との壁をなくすことも重要となってくる。

DXのゴールは、利便性を高め、仕事のスピードを上げるために、デジタル思考とデジタル技術を用いてビジネスのあらゆる事象に変革をもたらすことである。そのための注目ポイントは「バリューチェーンの最適化」である。

モノやサービスの「作り手」とそれを消費する「消費者」を近づけることである。アナログ思考で生まれたものをデジタル思考で変換する。アナログ思考とデジタル思考が融合することで、DXの成功につながるという。

野中郁次郎氏が提唱する「SECIモデル」に答えがあり、アナログ思考とデジタル思考を行ったり来たりしながら、共有ナレッジとして組織に定着させるアプローチが見えてくるという。

なぜ日本流DXが成功しないかという、現状の把握の部分について紹介したが、実際に行う方法については、本書の後半に書かれているので、是非、本書を手に取って読んでもらいたい。



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