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山本康正、ジェリー・チー『お金の未来』講談社現代新書

ビットコイン、暗号資産という言葉を知っている人は多いものの、実際にそれに触れたことがない人が多いと思われる。詳しい説明をできる人はさらに少ないと思われる。本書は、ビットコインを始めとする暗号資産や、NFTなどについて対話形式でわかりやすく解説した本である。

暗号資産のメリットは数秒で決済ができ、また匿名でできることにあるという。でもいったん成立した取引は犯罪に関係していても絶対に取消できない。

テスラのイーロン・マスクは暗号資産好きだ。キーワードは「非中央集権型」で、自由や自律といった概念に共鳴している。メタバースや、ゲームの世界では、イーサという暗号資産で取引されている。ゲーム内通貨はこれまでもあるが、暗号資産ならゲームがなくなっても持ち出すことができる。

暗号資産は、所有や送金しかできないビットコイン、ライトコイン、ビットキャッシュなど以外にも、スマートコントラクト(ブロクチェーン上でプログラムを動かす仕組み)のためのネイティブ通貨であるイーサリウムのイーサ、ソラナのSOL、アバランチのAVAXなどや、プロジェクトのガバナンス(投票できる)トークンなどもある。

ステーブルコインは、米ドルなどに連動するもので、米ドルや暗号資産を担保にしているもののほか、無担保のアルゴリズム型ステープルコインもある。8割は法定通貨を担保にしたものである。

NFTは、代替不可能な唯一無二なものであることを証明するデジタル書類のようなものであるという。NFTの技術の土台にはブロックチェーンがある。コピーができることにより、コンテンツのマネタイズが難しいとされていたが、希少性を取り戻すことができる。

しかし、日本は新しいものついての政策や法規制は米国に比べて遅れている。さらに、言語やITリテラシーの壁があり、エンジニアなどの人材もまだ少ない。

NFT(非代替性トークン)に関する大きな出来事といえば、2021年3月、大手オークションハウス「クリスティーズ」において、BeepleというアーティストのNFT作品が約6900万ドル(75億で円)で落札された。

日本のカルチャーとNFTは非常に相性がいいと言う。講談社のヤングマガジンの新連載を1ページ単位でNFT化したことや、アイドルグループSKE48のトレーディングカードのNFT化などの試みがあるという。

非中央集権化は金融の世界だけではない。音楽配信では、AudiusというWeb3サービスが作られた。ファンとアーティストがより直接的に交流でき、サービスの開発方針に影響を及ぼせる。なにより音楽売り上げの90%がアーティストに支払われる。

DeFi(分散型金融)は、銀行や取引所ではなく、無人で金融サービスを提供するようなサービスである。DEX(分散型取引所)は、個人でもマーケットメイクできる余地が広がる。DAO(自律分散型組織)のコミュニティによって自律的に運営されている。試行錯誤を通じて、効率的な新しい形態が生まれる可能性はある。

法定通貨でも完璧ではないのだから、暗号資産も並存すると考えるのが現実的な未来であるという。また、政府や巨大テック企業など中央集権的な存在が莫大な利益や権利を集める構造から転換しつつあるともいう。

現場で汗して働く人よりも、仕組みを考えて悪く言えばピンハネで儲けるビジネスモデルが横行していることへの反発が、暗号資産やNFTへの期待につながっているかもしれないようにも思える。

しかし、詐欺や、テロ資金などの犯罪収益の隠匿に暗号資産が利用されるケースが実際に起きているほか、ニセNFTの販売もあると言われている。また、アルゴリズム型ステープルコインであるテラUSDが、ヘッジファンドによるカラ売りと思われることで大暴落するという事態も生じている。

それらの課題や問題を克服しながら、ブロックチェーン技術を基礎とする暗号資産やNFTなどについて恐れず取り組んでいくことが、日本の未来のためにも必要と感じた。



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