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田原総一朗『堂々と老いる』毎日新聞出版

テレビでおなじみの田原総一朗氏が、「老い」について真っ正面から取り組んだエッセイである。今まで「老い」について取り組んだことがなかった。87歳にして初挑戦とのことである。

心身とも健康でいられることが絶対条件であると言う。田原氏は、何度も病気を経験しているので、こんなに生きられるとは思っていなかったそうだ。大学時代に十二指腸潰瘍、42歳でフリーランスになったとき、文字が読めなくなるという謎の症状に襲われる。還暦を迎え、オーケストラの指揮を頼まれたとたん、自律神経失調症になり、さらに腸壁の大出血も起こす。見かけより繊細なのだろうか。

毎月1回の「朝まで生テレビ!」の司会は、しっかり仮眠を取るそうである。面白ければ疲れなど感じないとも言う。滑舌の悪さもプラスにとらえ、言葉が出てこなければ、謝ってまわりにいる誰かに聞く。物忘れも脳を鍛えるチャンスであり、調べればよいとも言う。

補聴器をつけ、疲れを感じたら横になり、悩まない。「自分は運がいいから、きっとうまくいく」と気持ちを切り替えることも秘訣なのだろう。「ひとりだけ耳が遠いなんて運が悪い」と嘆くのでなく、「性能のいい補聴器が見つかった自分は運がいい」と思うのだそうだ。

歯の噛み合わせが悪いと、交感神経と副交感神経のバランスは崩れ、自律神経系を乱すほか、運動機能の低下をもたらすとのこと。歯が大事と強調する。健康のためには、信頼できる主治医が必要とも言う。田原氏にとって主治医の存在は大きい。

毎朝、自宅のマンションの敷地を約30分かけてのんびりと歩いているという。約2700歩。朝の散歩も含めて1日4000歩以上、歩くことを心がけていると言う。「現状維持」の考えがよいのだろう。

「定年になって孤独になった」という話をよく聞くが、組織のしがらみから解放されたと考えればよく、孤独を味方につければ何でもできるとも言う。人と関わる趣味は脳を活性化させると、家庭菜園で農園の人や同じ趣味の人と、自然と話がすすんだ知人の事例を紹介している。

定年後も働いて社会とつながることも、特に男性の場合はよいと勧める。定年後の時間について、22歳から65歳まで86,000時間働くが、定年後、1日14時間自由になるとすると、65歳から85歳まで102,200時間になるという数字を紹介する。趣味や旅行だけでは使い切れない。健康だから仕事ができるのでなく、仕事をするから健康ということなのだろう。

オンラインのコミュニケーションは高齢者の可能性を広げると、クラブハウスや、堀江貴文氏の定額制の音声・動画型プラットフォームを利用していると言う。『古事記』や『日本書記』といった古典の読書も勧める。「シンギュラリティ」を扱った本にも興味があるとも言う。いろいろなことで社会とのつながりが大事とのことだと思う。

本書は、亡くなった二人の妻のことなど田原氏の家族のことや、今の田原氏の日常についても記述している。死ぬまで楽しく生きたいという田原氏の信条が語られる。死ぬまで訴え続けることとして、①言論の自由、②政権交代のため野党を強くすること、③日本を絶対に戦争をしない国にすることであると言う。まだまだ老け込むわけにはいかないと言う。

87歳の田原氏に負けないよう、あらゆることに興味を持って生きていくことが楽しいと思う本である。定年後の人にとって参考となるのみならず、若い人にもヒントを与える。田原流の「堂々と老いる」ための指南書であるが、田原流の「堂々と生きる」ための指南書となっている。



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