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お年取り

数え年で何歳と言うときは、生まれた時に1歳で、その年の暮れになると、もう1歳、年を取るとされていたから、大晦日には、日本国民全員が1歳、年を取ることとなる。

そのため、太陽暦が採用されてからも、12月31日の大晦日には、年取りの行事が行われる。各家庭でも、特別なごちそうを用意するのが通常であろう。歳神様をお迎えするための最高のごちそうである年取り魚である。

一般的的と言うべきか、一番多いのが、鮭、信州でも東北信では新巻鮭を食べることが多いのではないかと思う。しかし、関西では、鰤であると聞く。三陸地域のなめたガレイも有名である。

信州松本は、その他の風習は関東に近いが、年取り魚だけは、鰤、それも塩鰤である。昔は、富山から人の肩に担いで北アルプスの峠を越えて運ばれるため、1本が米1俵であったそうである。そのため、どれだけ庶民の口に入ったかはわからない。

聞いたところによると、第二次大戦前まで、海のない信州松本での庶民の年取り魚は、実際は、鰯であったということを聞いたこともある。神棚には鰯をお供えをする。海の魚を食べることは簡単ではなかった。

鰤は、今でこそ、冷凍になって輸送されるくるが、昔は塩で保存されて運ばれた。今でもあえて塩鰤にして食べるのが本来である。塩鰤は、ゆでて食べることが多かったと思われるが、ゆでると塩辛くなくなるものの、味が抜けてしまうので、焼いて食べるのが美味である。

輸送手段が発達しても、鰤そのものの値段は高いので、出世魚をあえて食べなくてもよいと言う人も多くなってしまった感もある。でも、お年取りにハマチの刺身を食べるのもどうかと思う。

30年くらい前までは、年末の魚屋に数多く鰤が並んでいたが、最近は、鰤の切り身がとても少なく感じる。1本とか半身とか言って、魚屋に注文している家もあったと思う。そもそも街中から魚屋が消えてしまい、スーパーやショッピングモールへ行かないといけない。さもなければ卸売り市場まで行くほかない。

繰り返すこととなってしまうが、魚屋があえて塩をすり込んでつくってくれる塩鰤の切り身を焼いて食べるの一番な気がする。天然ものなら、身が締まっていてさらにおいしい。塩イカとともに信州ならではないだろうか。また、鰤のあらは、煮物にして食べるので、捨てるところはない。

なお、中南信でも、諏訪は甲州の影響で鮭だと聞く。伊那、飯田は鰤だと言うので、そこら辺の境はあいまいである。どちらにしても、信州は、鰤を運ぶことができる東の境であったのではないかと思う。




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