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祖母姫、ロンドンへ行く!(椹野道流)

この本、なにがきっかけで手に取ったのか、まったく覚えていません。書店で目についたのかもしれませんが、書店には目立つように飾られた本が幾多もあり、これだけが目に飛び込んできたとは考えにくい。新聞の書籍広告ででも見覚えがあったのか……。

いずれにせよ、この本の面白さは「大当たり」レベルでした!


本書は、おそらく今から30年くらい前に、筆者が祖母の希望するロンドン旅行へのお供をした記録です。このお祖母様は、なかなか資産家らしいのですが、それに見合って相当な我が儘な「お姫様」でもあるようです。だから「祖母姫」。

全体には20代の孫娘が、金持ちでお姫様育ちの祖母をロンドンへエスコートする珍道中記なのですが、ときどきホロリと来ます。それは祖母の教えを思い出している現在の(おそらく50代の)筆者の胸の内をよぎる寂しさだったり後悔だったりするのでしょう。祖母との旅行で撮った写真が一枚も残っていないことも悔やんでいます。若い頃には「いらない」と思った写真が、年を重ねてから懐かしくなるものです。

例えば宿泊先である最高級ホテルのアフタヌーンティーで、スコーンと紅茶を楽しむ祖母を写した一枚とか。映画『風と共に去りぬ』を思わせるホテルの大階段で写した一枚とか。

その場で確認して撮り直しができるデジタルカメラやスマートフォンのカメラと違って、当時は使い切りカメラ(レンズ付きフィルムとも言う)で写したものです。旅行から帰ってプリントして初めて、きれいに撮れたと喜び、ピンボケだと悔やんだり。その思い出もいっしょに失われてしまったことを、人生後半に差し掛かった筆者が悔やんでいます。若いときには、いらないと思った写真なのにね。

ホテルと言えば、お金持ちだけに、泊まっているのはロンドンの最高級ホテル。部屋もさることながら、本当に素晴らしいのは部屋を担当するスタッフたちです。最高級のサービスにふさわしい言葉遣いや行動、立居振舞。そのひとつひとつに神経が行き届き、宿泊客のために全身全霊で尽くしていることが伝わってきます。

もちろんそれは仕事であり、宿泊客から受け取る宿泊料金の対価として提供されるサービスです。まあ、いわばお金のため、なのです。
しかし宿泊料金とサービスの質とのバランスは、どこが適正と決まっているものではありません。厳密に比較できるものでもありません。だから手を抜いてもわからないといえば、わからない。でも、それをしないで可能な限りの心遣いをするプロの姿勢には頭が下がる思いでした。

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