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つなぐ人 奥津爾さん

ダイナースカードの会員誌「SIGNATURE/シグネチャー」で不定期連載として、「つなぐ人」を取材・執筆しています。

料理家ですが、食に携わるからこそ、
伝えたいことがあり、書いています。


ここで言う つなぐ人 とは、生産者と料理人・消費者を、つなぐ人。主に問屋や仲卸で、目利きと言われる人たちです。日本の流通の中で表には出てこないけどとても大切な仕事、人。
日々、少なからず関わる中で、今、新しいつなぐ人が求められているのでは?と感じるようになりました。

生産者がもたらした食材を見極めるだけでなく、生産者と共に価値を高め、料理人や消費者に的確かつ ひとつ上の提案をする人。皿に落とし込むまで見守る、新しいつなぐ人。

そんな仕事を伝えられたら、と書きはじめました。いわゆる御用聞きとは全く違う仕事であり人です。

1回目は、滋賀県南草津の精肉店「サカエヤ」の新保吉伸さん
2回目は、静岡県焼津市の鮮魚店「サスエ前田魚店」の前田尚毅さん

2020年4月号 新保吉伸さん
2020年12月号 前田尚毅さん

そして3回目。今回のつなぐ人は奥津爾さん。

2022年1&2月号

雲仙市で在来種かつ自然栽培の野菜を中心にした直売所『タネト』を奥津典子さんと共に運営されています。

今回は、これまでのつなぐ人とは少し角度を変えて、在来種、種、自然農を核に、地域を巻き込みながらつないでいくキーマンとして。

バラバラだった地域の、在来種、自然農、オーガニックの農家、料理人、消費者が、めざめ、ゆるやかにつながっていく静かなうねりを紹介したいと思いました。

そのうねりの舞台は、長崎、島原半島の千々石、小浜、雲仙
長崎出身の私には懐かしい場所であり気になる場所です。ともすれば消滅自治体候補と言われ、過疎に悩む町もある、と聞いていたので。

そこで、種取り農のレジェンドである※岩崎政利さんに惹かれ、東京から移住してきた人がいて(奥津さん)、彼がトリガーになって、静かなうねりがおきている・・と聞き、半信半疑で訪ねたことから始まりました。

●タネトに集まってくださったみなさん


東京からの移住者が変えていく・・と聞くと、都会の人が 田舎にぽんとやってきて、都会的センスでひっぱっていく姿をイメージされるかもしれません。鶏口牛後なんて言葉も意地悪く浮かびます。
もし、それなら、私は取材したいとは思いませんでした。

でも、これは違うな、と思いました。
いつもこの方を書きたい、という前にうんうん唸って考えます。(当たり前ですが) 事前にご著書や関連書籍や記事を読みます。今回は奥津さんのブログなどこれまで発信されたものは読み、よおおく考える中で、私が思ったのは、(僭越ながら)東京生まれ東京育ちの奥津さんが、きっとここ、島原で、「探していた本物」を見つけたんじゃないか?ということ。

すげー、なんだこれ!って純粋に感動するガチの本物たちに出合ったんじゃないかと。

種採り農家、田中たねの農園
感動のソルベ、R CINQ FAMILLE
鈴木ファーム、自然栽培のオリーブ


花が咲き乱れ蝶が舞う人参の!畑、今まで食べていた野菜は何だったのかと思う、採れたての在来種の野菜たち、生でびっくりするくらいおいしいオクラ、どんな香水もひれ伏すと思う香り高きハーブ、東京でも間違いなく行列ができるスイーツを飄々と笑顔で作るパティシエ、びっくりするほどうまいクセになる麺を高い技術でつくる製麺所、地域の食材と真摯に向き合う料理人、さらには、美しい海、泣ける夕陽、100度を超える日本一の源泉、その地熱で蒸すここ料理。

それで、移住から8年が過ぎた今も、毎日、「ものすごおおおくうまい野菜入荷しました!冬野菜爆発!」と心の底から叫んでるんだよな、この方は・・と。

長崎人である私も知らなかったすごいモノ、人。ほれこんだからには絶対にみんなに伝える!ここからつなぐ!と決意している姿と、奥津さんに惚れられたみなさんのことを、〝群像として〟伝えたかった。

合わせて、SDGsが言われる中にあっても、するすると零れ落ちるように絶滅していく在来種の野菜、その種。失われていく野菜の多様性。
私はどんな野菜が食べたいか?取材中も前後も、何度も自分に聞いていました。そこも伝えたかった。

ともかく取材でお会いしたみなさんが、嫉妬したくなるほどかっこよくて、軽やかに大真面目で! 言葉にすると陳腐だけど、憧れを感じて。だからこそ、プレッシャーにつぶれそうになりながら、書きました。

 だいたい、毎回、まあまあ暑苦しくw書いています。つなぐ人は、私が心打たれるとこから始まっているので。
今回も、8ページ、6000字、長いです。

販売されている雑誌ではありませんが、ダイナースカードをお持ちの方には届きます。かなりいらっしゃるので、見つけて、手にしていただけたら、この上なくうれしいです。

めっちゃかっこいい写真は、栗林成城さんによるもの。朽ちたオクラの写真、しみます。

最後に、シグネチャー@ダイナースさんと、敬愛する伊藤美智子編集長に心からの感謝を。

腐らずただ枯れる、朽ちるのだそう。


※岩崎政利さんは、タネトがある千々石の隣、吾妻町で、40年以上にわたり、50種類を超える在来種の野菜を自家採種・自然栽培で育てている「種とり農家」さん。奥津さん曰く「宮本武蔵とか坂本龍馬のような歴史に残る人」
種とり農とは、畑の野菜の中から母になるものを選び、収穫せずに花を咲かせ、枯れて種ができるまで育て、そこから種を採取し、その種を保存し適切な時期に蒔いて次の代を育てるやり方の農業。気が遠くなるほどの細かい作業を積み重ねて、当たり前の自然のサイクルを守ろうとしている。これにより、地域の気候風土の中でもまれ、耐え、生き抜いた種が守られる。古いものは江戸時代から作りつながれている。つまり在来種。かつてはその地域の艱難辛苦を乗り越えた種は寺に預けられたという。種は宝だったんですね。

現在多くの農家は、F1 の苗(または種、first filial generation, filial 1 hybrid)を植えて作物を育てている。F1とは安定した収穫結果が得られるように改良された苗(種)。異なる種類をかけあわせた第一世代は強い、という特性に基づき生み出された。第二世代はそうならない。そこで収穫が終わると畑をリセットして、新たなF1を植える。

ただし、この記事も、私も、種取り農や自然農を礼賛し、慣行農業を否定するものではない。どちらも!大切だ。

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