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誰もが自信を失った、GW

GW明けのバタバタが終わり、ひと段落…
大学の同期のグループLINEに
出産の連絡が入り、ワイワイと話が盛り上がり
その延長で、昔話に花が咲く

同期二人が
「そういえばさ…笑」
と思い出した、GWの出来事は
誰の記憶にも色濃く残り
今だに「誰もが自信を失った伝説のGW」と語り継がれる…

今日はその日のことを、少し


あれは5月にしては気温の高い、GWのことだった

社会人になり、各々が仕事で忙しくなり
皆で集まる頻度が減ってきた頃
大学時代の部活の仲間からの声がけがあり
久々に同期Sの実家に泊まり
ついでに地域で開催される
人数さえいれば誰でも参加可の
ゆる〜いバスケの大会にでも参加して
皆んなでワイワイやろうということになり
僕らは某県を訪れていた

僕はちょうどその頃
ホルモン注射を開始したばかりの頃で
2本目を打ち終えたぐらいのときだった

2本目なので、まだ大した変化は無いけれど
すでに埋没して「男性」として会社で働いてもいるし
なんとなく「女子の試合」に出るのが
自分の中で抵抗があった…

その諸々の事情を同期に話すと
「そうか…配慮が足りず、ごめんね。
 でもみんなで集まれたら嬉しいし、山内が良ければ、
 試合は出なくていいから、スコアつける人みたいな感じで
 ベンチに入るということで、参加してくれないかな?」

と、提案を受け
僕は正直、大会うんぬんはどうでもよくて
みんなで集まれるのが嬉しかったので
二つ返事で参加した

Sの実家につき
大学時代から僕を知っているSのお母さんは(以下S母)
僕の変化に気づき、びっくりはしていたけれど
素直に事情を話すと
「そうだったんだね。私そういう人に会ったことがなかったから
 びっくりしてしまって、ごめんね。
 でも山内が、今が楽しいなら本当に良かったよ」
と、とても嬉しい言葉をくれた

その日の夜は
Sの実家で同期6人、ワイワイ楽しく食卓を囲み
大学時代の思い出話にふけった

そして翌日は、大会に参加
Sの高校時代の後輩さん2人が加わり
みんなで試合を楽しんだ

学生時代のように動かない身体が
これまた互いにこっけいで
愛のあるいじりが交差する
そんな楽しい時間を、ベンチではあったが
共有できたのは、僕も嬉しかった
(なんなら動かなくて良くて、ラッキーだった。笑)

僕らの試合が終わり
同期でのんびり昼飯を食べていたときだった

S母が困惑した顔で僕らに近づいてきた
「どうしたらいいかな?これって困らせちゃうよね?」
そんなことを呟きながら
中々話を始められずにいる
もじもじと指を絡ませ
言葉を探し続けた

僕らは「?」となり
その状況に耐えかねたSが、煩わしそうに
「何?勿体ぶらなくていいから、早く言ってよ」
とS母に言った

「あのね…ちょっと相談なんだけど…
 山内の連絡先を教えて欲しいって子がいるのよ…」

その言葉に、僕らの同期は反射的に
ぐるっと近くにいた他のチームの女子たちを見て
サバサバ女子のKが口を開いた
「山内モテ期かよ。で、どの娘ですか?」

その言葉に、ますますS母は声を詰まらせる

まとめ役のMは
「山内、今彼女いるし、ちょっとなんて言っていいか困りますよね」
とお母さんをフォローするように言葉をかけた

しかし、S母の口から出た言葉は
僕の彼女を気遣う言葉ではなかった

「違うのよ…隣のコートに居る、あの男の子なの…」
と遠くをこっそり指差す

「え…?」
皆、絶句…

僕は冷や汗が止まらなくなった
「あぁ、試合に出てなくても 
 やっぱり"女子"とバレてしまったのだろうか…」
好意を持っていただけたのはありがたいが
今はちょっとありがたくない
というかタイミングが悪すぎる

治療を開始し、埋没生活している僕としては
ものすごく、自信を失う…

「今日、来なければ良かったかも」
そんな気持ちに、僕はなりかけた

ところが
神妙な面持ちで隣のKが発した言葉で
全てが吹っ飛んだ

「え?ちょっと待って?
 私たち女子が、こんなにいるのに山内なの?」

正確かつ、スピーディーなツッコミに
誰もが大爆笑

間違いない、この瞬間
自信を失ったのは僕だけじゃない

同期が口ぐちに言う
「ちょっと待って?めっちゃショックなんだけど。笑」
「私たちの女子力ってなんなの?笑」

自虐祭りが盛り上がる中
いつもながらに、Mが綺麗にまとめてくれた

「みんな自信失くすから、辞めよう。
 誰も幸せにならないよ、この会話!笑
 彼が”男性”の山内に惹かれてる可能性だって普通にある。
 どちらにせよ、ベンチにいながら
 隣のコートの彼に、魅力を感じさせてしまう山内、すごい!」

そしてMは
S母にそっと
「『今”付き合ってる人”がいるので』と言ってると
 彼に伝えてあげてください」
とフォローしてくれた

「男」とも「女」とも言わず
誰も傷つけない言葉選びに
本当にできる奴だなと
改めて思った


そもそも、Mの言う通り
僕が彼に
男性と見られていたのか、女性と見られていたのか
結局のところは、わからない

当時の僕は
LGBT当事者でありながら
「男性から好意を向けられたから、自分は女性として見られている」
と、自らが固い頭を持っていたことに
この経験をもって気づかされた

一つの側面でしか見れていなかったこと
他にもたくさんあったかも…

これをきっかけに
そんなことを考えられるようになり
「物事を多面的に見るようにしよう」という教訓とともに
僕らの鉄板の笑い話として
今も思い出に、刻み込まれている


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