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シソを植えるとシソに憧れることになる。

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シソ、みなさんご存知の食材だ。そのシソに僕は憧れている。

シソといえば刺身の下に置かれていることが多いあの葉っぱである。スーパーで見かけるときには大葉と書いてある。
食材で言えば脇役、引き立て役であり決して主役になることはない。植物としても元々はただの雑草であり決して珍しい高価なものではない。なんならわざわざ買って食べていることがおかしいくらいだ。


だから僕はなんならシソを見下していた。
確かに味や香りは好きで好んで食べていたが、所詮はただの葉っぱ。正直なところ生物として、人間様である自分のほうが高等であるという気持ちで接していた。社会に出て仕事をしている僕がただ生えているだけのシソに負けるわけがない。具体的に比べてみてもその差は歴然だ。

僕はちゃんと自立して一人暮らししている。それに比べてシソのやつは大概ゴムで束ねられて同じ出身地で固まっている。ちょっとは自立しろ。
僕はちゃんと矢面に立って打ち合わせに出る。それに比べてシソのやつはいつも刺身の影に隠れてオドオドしている。ちょっとは責任感を持って働け。

そんな感じだ。
だからスーパーで見かけたときには「安いし何かしらに使うかもしれないから買っとこ。お前はついでだ。天狗になるなよ。」と思いながら買っていたし、居酒屋で刺身がでてきたときには「みんなに存在を無視されて不憫なやつめ。しゃあなしで食べてやろう。優しさに感謝しろ」と思いながら食べていた。1年前までは。


この気持ちが変わったのはちょうど去年の今頃のことだ。家のベランダの日当たりもいいし、シソは毎回わざわざ買うまでもないなと思っていたので、シソの苗を買ってきて育てることにした。それがこの写真だ。

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正直言って半信半疑だった。うまく育つのか、育ったとしても本当に売り物のようにおいしいのか。むしろ見下しているシソに対して冷たい目線だったかもしれないくらいだ。「雑草くらい生命力が強いって言われているのもどうせ田舎の山奥だったからだろう。俺でさえ生きていくのに苦労しているこの大都会のベランダでシソごときが生きていけるのかな?せめて水くらい恵んでやろう。」という気持ちで毎朝水をぶっかけてやった。

そうして最初の一週間が経った。




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めちゃ葉っぱ増えた。

一週間で倍くらい増えている。倍になることなんてあるのか?一週間なんて会社でいえばまだ社内の挨拶まわりで精一杯だ。それで調子に乗って同期と初めての花金だ〜とかいってビールを飲むのが関の山。それなのにシソは葉っぱを倍の量にしている。
葉っぱといえば光合成をして栄養をつくりだすところ。収入源のようなものだ。会社でいうならお金をもらうクライアントだ。こいつはそれを倍にしている。なんというスーパー営業マンだろうか。

いやいや落ち着け。さすがにそれはない。どうせ最初だけだろう。たまたま知り合いが営業先にいたんじゃないか。なんならコネ入社か?そう思いながらまた一週間が経った。



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めちゃ成長してる。

背丈も2倍になり、葉っぱの数は当初の4倍に近い。二週間なんてまだ座学研修程度のはず。名刺交換の仕方を教えてもらって同期内でふざけて渡し合うのが関の山。それなのにシソは背丈まで倍にしてきている。
背丈が伸びればまわりより目立って、その分日光をより多く吸収できる。もうシソは社内で一目置かれる存在になっているといっても過言ではない。たった二週間でだ。

ここからの成長スピードは異常だった。



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これは二週間おきに撮影した写真だ。二ヶ月程度で化物植物になってしまった。食べるためにちぎってもちぎっても葉っぱが生えてきた。そう、シソはもう稼ぎを上げすぎて僕を養うまでもに成長したのだ。圧倒的成長スピードである。成長スピードが早すぎて、ネギも植えてみようかなと思わせてくれた。人の考えまで動かせるほどの存在になったのだ。(ネギはあまり生えない)

二ヶ月を一気に見てみるとこうなる。

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成長の早さがよりわかるだろう。正直とても驚いた。

しかし、しかしだ。所詮は植物である。メインの成長期である夏が終わり秋になると無残にも枯れてしまったのだ。1年も持たず退社したようなもの。やはり人間である俺には勝てないのか、なんて思っていた。そうして徐々にシソの記憶は薄れていった...


..........


そんなある日、ちょうど1年前にシソを植えたことを思い出した。ふとベランダを覗くとこんなことになっていた。

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芽が出ている!!

シソはただ退社していただけではなかったのだ。ちゃんと自分の遺伝子を残し、後輩を生み出していたのだ。そう彼らは次世代の営業のエースである。シソは成長の早さがすごいだけでなく、若手が育つ土壌さえも作り出していたのだ。自分のことだけでなく、業界全体のことを考えていたのだ。とても感動した。


シソさん。僕はあなたのようになりたい。最近の僕はひたすら家に籠もって、昼に起きてどうぶつの森をしているだけの人間だ。緊急事態宣言が出て二ヶ月が経とうとしているのに、何も成長できていない。二ヶ月あればシソさんならどれくらい葉っぱを増やせるだろうか。どれだけ背丈を伸ばせるだろうか。


こうしてシソを植えて1年後、僕はシソに憧れるようになった。
家にいる時間が増えて自炊をするようになった今だからこそ、暇な時間が増えて自分は毎日何もできていないとあせる今だからこそ、シソを植えてほしいと思う。

シソ、僕が憧れる食材だ。

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