見出し画像

つらつらと『養子』から『シングル里親』までのことを。

 とにかく、偶然だった。

 2016年。福島から東京に戻ってきて、たまたま担当していた番組で、たまたま『養子』を取り上げた回をお手伝いすることになり、ちょうどそのとき1本だけ作ることになっていた『ねほりんぱほりん』で取り上げたらいいのではないかと思った。その『養子』回、非常に評判が良かった。年末の放送だったのだが、「各局が特番を放送するなか、『ねほりん』は通常回で神回」という言葉が特に記憶に残っている。制作者としてうれしい言葉だった。

 その2年後、担当番組が終了となり、『ねほりんぱほりん』チームに加わることになった。そうして制作したのが『児童養護施設で育った人』。『養子』の時に出演してくれたケイタくんから「児童養護施設もいろいろあるみたいなんですよ」と言われたことが引っかかっていたこともあったし、『養子』の放送後にプロデューサーとその話をしていたときに「家族の物語3部作をつくれ!」とげきを飛ばされていたからだった。

 「3部作かぁ、最後はどうするかな?」そんな思いで取材をはじめたのが『虐待加害者』だった。一番難しそうなテーマ。そして加害者の心理を知らなければ、子どもたちの苦しみを減らすことはできないのではないかと考えたからだった。ただ、2019年に放送した『わが子を虐待した人』は、「胸糞悪い」という声が圧倒的多数だった。なかには「わからないことがわかった」とか、「自分だってちょっと何かあればそうなるかもしれない…」という声はあったけども。いや、たしかに『虐待加害者』は悪いことをしている。でも、当事者の人たちの話をねほりはほり聞いて思ったのは、その人たちだって人生のどこかで何かが違っていればそうならなかったかもしれない、ということだった。個人の責任だけではなく、社会として虐待を未然に防ぐシステムが必要なんだろう。そこまで感じてくれた人もいたけれど、そこまで届かなかった人が多数だった。制作者として未熟だったのだと思う。

 でも、そんなことを思っていたら、児童養護施設の時に取材をした施設の職員の方から、児童相談所で働く人を紹介してもらった。『ねほりんぱほりん』での『社会的養護』の取り上げ方に賛同してくれてのことで、『児童相談所職員』というテーマを提案された。まさか行政の職員を取材できるとは思っていなかった。もし身バレすれば本人が何らかの懲罰を受ける可能性がある。そんなリスクを冒す人はいないと思っていたから。だから、とてもうれしかった。自分が取材をしてきたことを認めてもらって得ることができたチャンスだったから。このときにはすでに現場を離れていたのだが、担当してもらったディレクターに同行して、いっしょに話を聞いて番組を制作した。そんなたまたまから生まれたのが、2020年に放送した『児童相談所職員』だ。

 『養子』『児童養護施設で育った人』『わが子を虐待した人』の3部作と、『児童相談所職員』の合計4作。これ以上『社会的養護』というテーマで『ねほりんぱほりん』を制作することはないだろうなとやりきった気持ちでいた。ただ、気になることが残っていた。それは、児童相談所を取材しているときのこと。そこに寄せられる相談内容に私は驚かされた。具体的には書けないが、とにかく想像していないような事例ばかりで、その対応を決める会議で子どもたちが置かれた状況を聞き続けるだけでも大事なことのように思えた。いま、この国のどこかにこんなつらい思いをしている子どもがいることを知ってもらえるのではないか、と。どうにかこれを番組にできないかな?でも、プライバシーの問題があるし、そもそも子どもがOKでも未成年だから親の許可もとらないといけないとなると絶対無理だよな。そんなことをぐるぐると考えて閃いたのが、放送を前提とした電話を開設することだった。それがカンニング竹山さんが電話で話を聞く『今君電話』となる。子どもだけではないけれど、大人だって同じようなことがあるかもしれないしなと思いながら番組の制作をはじめた。

 そうして生まれた『今君電話』も、たまたま何回かつづけることができ、あるとき電話をかけてきたのが『シングル里親』だった。今年、妻を病気で亡くし、ひとりで2歳の里子を育てているというシンさん。自分で育て続けたいと思う一方で、里子だから、別の里親に預けることもでき、両親そろった里親のもとで育てられたほうがいいのではないかと悩んでいた。そんなことがあるのかとハッとさせられ、今後『里親制度』がより広く知られて活用されるようになれば、同じような思いをする人が出てくるのかもしれないと気づかされた。それならこういった悩みをより広く知ってもらうために、『シングル里親』というテーマで『ねほりんぱほりん』を制作できないか?幸い、シンさんと亡き妻は『ねほりんぱほりん』のファンだったこともあり、スムーズに取材することもできた(『児童相談所職員』のときと同じように、別のディレクターにはいってもらいつつ、自分でも取材した)。そうして今月『シングル里親』が放送された。『養子』のときと同様に、多くの人に「泣いた」「感動した」「神回」という声をいただきつつ、「考えさせられた」という声も少なくなかった。この『シングル里親』の放送後の感想で特に印象に残っているのは、「家族がテーマの『ねほりんぱほりん』は、いつもいい」というようなツイートだ。これまで制作してきたどの回も、家族という言葉に苦められている人たちだった。きっと同じように苦しんでいる人たちはたくさんいるだろうから、そういう人たちが番組を見たときに少しでも気持ちが楽になってくれたらと願って制作していたし、家族のことで悩んでいない人たちには自身の家族観を考え直す機会になったらいいなとも願っていた。それが家族で苦しんでいる人たちの苦しみを減らすことにもつながるだろうから(もちろん自分自身も改めさせられているわけだけど)。

 2016年の『養子』からはじまり、『児童養護施設で育った人』『わが子を虐待した人』『児童相談所職員』、そして2022年の『シングル里親』。どれも、いろんなたまたまがつながって制作することができた。制作者として、やれてよかったなと思うし、これらをやるために番組を作り続けてきたのかなと思う。そして、これらのことに出会うためには、福島局での原発事故の取材があったからであり…なんて言っているとキリがない。笑

 ただ、『ねほりんぱほりん』の良さは、肩ひじ張らずに見られるところ。テレビ番組として楽しんでもらいながら、何かちょっとでも『種』を蒔ければ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?