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24-25 セリエA第5節 ローマ対ウディネーゼ

監督解任、CEO辞任とピッチ外で多くの波紋を呼ぶ動きがあったローマ。渦中のクラブが第4節終了時点で首位に立つウディネーゼをホームに迎えた試合を振り返ります。
クルヴァのボイコットなどもあり異様な雰囲気の中行われた試合のハイライトはこちら。
試合内容としてはローマの完勝だったこの試合。ローマの工夫にスポットを当てて振り返ります。


・1週間でマンツーマンディフェンスを落とし込んだユリッチ

 ユリッチの監督就任後、この試合まで1週間と短い期間ではありましたが、自身が好む配置の一つである3-4-2-1を用いて試合に臨みました。
前節でデ・ロッシが用いた3-5-1-1を下地にいくつかの変更点を加えたような戦いだったと感じました。
 一番の変更点は、敵陣でのボール非保持時のアプローチです。
ユリッチはマンツーマンディフェンスが代名詞であるガスペリーニの弟子として有名ですが、ユリッチ自身もマンツーマンディフェンスを好みます。
 前節、デ・ロッシが用いた3-5-1-1では前線の枚数が少ないことから前からプレスを行っても逃げ場が複数あり守備のアプローチが低い位置からになりがちでした。後半はジェノアが4-4-2に配置を変え、サイドで数的優位を作ったことがきっかけで押し込まれる展開になり、試合終了間際に追いつかれ勝ちを逃してしまいました。(詳しくは前節の記事に書きましたのでこちらも併せてご覧ください。)
 この試合では、ウディネーゼも3-4-2-1で挑むミラーゲーム。マークがはっきりしていることもあり、敵陣での守備はマンツーマンディフェンスに終始していました。
3点リードした試合終盤でも前からマンツーマンディフェンスに行く積極的な姿勢は最後までウディネーゼを苦しめました。

 ローマ陣内では5-2-3のブロックへと守備体系を移行し、1人剥がされると全てずれるマンツーマンディフェンスのリスクを回避しますが、守備免除3人は今後厳しくなるのではないかという懸念点はあります。この試合ではドフビクのプレスバックや被カウンター時のペッレグリーニのケアなど、要所で前線のサポートがありましたが、押し込まれる展開で5-2-3を維持するのは難しいと思うので、このあたりは次節以降みて行きたいと思います。

・ボール保持、ボール非保持の策がハマりウディネーゼを攻守で圧倒したローマ

試合開始時の配置 右エンドがローマ 左エンドがウディネーゼ

◦ボール保持時

 立ち上がりから高い位置を取ったピジッリが中央へのグラウンダークロスでチャンスを作るなど、安定したボール保持と立ち位置を入れ替えながらのローマの攻撃がウディネーゼに効果的に刺さります。

 自陣では5-4-1、敵陣では5-2-3で構えるウディネーゼに対して、ローマは3バックの幅を広げ間に中盤を落とすインテルが取り入れているような後ろの形をつくります。

ビルドアップ中、局所的に1-4-4-1のような形を作るローマ

 この試合で特徴的だったのは、左のウイングバックに入ったエルシャーラウィを積極的に絞らせることで、相手中盤に対してシャドー2枚+エルシャーラウィで数的優位を作り、ライン間へのパスを積極的に引き出していた点だと思います。
 中盤で捕まえられないところに最終ラインが出ていくと、ディフェンスラインにギャップが生まれやすくなります。
 実際に先制点はディフェンスラインの間に落ちたピジッリが、内側に絞ったエルシャーラウィへパスを出したところから生まれました。一度目のパスは通りませんでしたが、エルシャーラウィに寄せたカバセレ、一度目のパスカットをしたビヨルと、背後のケアをしたクリステンセンの間にディフェンスラインのギャップができ、そこを上手く使ったことで抜け出したドフビクがボールを受け、難しい角度でしたが鋭いシュートをファーへ決め切りました。

 左サイドからのインスイングのクロスもこの試合前半で多く見受けられ、この辺も狙いとして持っていました。

 デ・ロッシ就任時との一番の違いは、自陣でのボール保持において相手のプレスを誘引して擬似カウンターを狙う動きがなくなった点だと思います。
 ユリッチはこの試合では、無理して繋ぐくらいならロングボールを蹴る方針を取りました。
 ボール保持が安定してからはショートパスを主体に選手同士の立ち位置を入れ替えながらチャンスメイクを行っていて、デ・ロッシの戦術を上手く受け継ぎつつ自身の好む戦術と溶け合わせているように感じました。

◦ボール非保持時

 前述のとおり、3-4-2-1のミラーゲームとなったこの試合。ローマは各選手のマークを決め、ウディネーゼ陣内ではマンツーマンで相手をみることで敵陣でのボール奪取およびショートカウンターを狙います。

敵陣では、各自マークを徹底する。

 ウディネーゼもマンツーマンで来ることを確認してからは、ゴールキック時にビヨルを下げずにドフビクがオコエまでプレスに来られないようにするなどの対策をしますが、カバセレ、クリステンセンにはペッレグリーニ、ディバラが寄せに行き、周りの選手もマークにつかれているためロングボールで逃げることしかできず、ウディネーゼは自陣での安定したボール保持ができません。
 前半途中から、トヴァンが右に流れてボールを受けようとしますが、アンヘリーニョがしっかりついていくことでトヴァンの狙いを看破します。
 この時、ボールを受けに落ちていくトヴァンやブレンネルに対しては、アンヘリーニョ、マンチーニがタイトについていきボールを受けても前を向かせないようにマークします。
 敵陣でのマンツーマンディフェンスがハマることで高い位置でのボール奪取が可能になり、安定したボール保持につながり、積極的に前からプレスを掛ける姿勢が2点目のPK獲得につながりました。
 後半開始時、ウディネーゼはルッカに代えてデイビスを投入し、デイビスにサイドに流れる役割を持たせ、ローマのマンマークを外そうとしました。しかしエンディカはデイビスへのマークを完遂。内に絞ったブレンネルにもマンチーニがしっかりマークにつくことで、ウディネーゼが持っていた立ち位置を変えることでマークを外そうとする狙いを封じました。

 デイビスが潰れ役となりブレンネルが抜け出したシーンでは、マンツーマンディフェンスに不慣れなこともありアンヘリーニョのカバー対応にミスがありましたが、ペッレグリーニが素晴らしいケアを行いブレンネルに時間をかけさせトヴァンにキーパーと1対1の局面を作らせないことに成功しました。トヴァンのシュートは強烈でしたが、ローマの守護神スヴィラルがビッグセーブを披露しウディネーゼの大きなカウンターチャンスを防ぎます。

 ローマが用意してきた戦術が攻守両面でハマり、好調のウディネーゼ相手に、今シーズン初勝利を果たしました。

・各選手ひとこと評価

◦ローマ

・GK スヴィラル 6.5点
毎試合安定したハイパフォーマンス。セーブ機会自体は少なかったが2-0の状況でトヴァンのシュートを止めていなかったら試合展開はまた変わっていたはずなので本当に大きいセーブだった。

・DF マンチーニ 6.5点
左ウイングバックが絞り、左重心の組み立てだった設計上逆サイドへロングボールを蹴る機会はなかったが(1試合通して0本)、その分クロスを蹴ったりクロスに入っていくなどいつも通りの攻撃参加で脅威になった。守備対応も安定し、敵陣ではブレンネルへのマークも徹底していた。

・DF エンディカ 6.5点
昨シーズンは、3バックの中央は難しそうだと思っていたが試合を重ねるごとに安定さが増している。敵陣で相手フォワードをマークしつつロングボールにはいい反応で的確なボールリカバリー。地味にキーパス1本と縦パスも申し分ない。デイビスが潰れ役になってカウンターを受けたシーンはエンディカだけのせいではない。

・DF アンヘリーニョ 6.5点
エルシャーラウィが中に絞る設計は中盤の数的優位だけでなく、アンヘリーニョが開かせて良さを出すためでもあると感じた。ビルドアップは安定しているし、タイミング良く上がるのもエルシャーラウィとの縦関係の良さを感じる。マンツーマンの逆サイドの対応は次の試合以降しっかり絞ってほしい。

・MF チェリク 6.0点
左重心だったためあまりボールに触っていないが、パス精度100%、キーパス2本と攻撃面でも十分な働きをした。守備面は安定しているため攻撃面でこのパフォーマンスができるなら申し分ない。スーレをブロックした試合終盤はご愛嬌。

・MF クリスタンテ 6.5点
監督の要求する意図をくみ取り実行する力があることを再認識した試合だった。マンツーマンディフェンスを遂行し83分での交代ながらチーム4番目の走行距離10.8㎞をマーク。走れと言われたら走るタイプだった。ディフェンスラインの間に落ちながら、左サイドのサポートでボールリカバリーをするなど縁の下の力持ちとして働いた。

・MF ピジッリ 6.5点
オフザボールのうまさを開始1分で痛感した。元々持っている足元の技術に加え縦の意識も高く、ウディネーゼが守勢に立たされたのはピジッリの縦パスが効果的だったことが大きい。カードコレクターの系譜であることだけは懸念材料。スタミナは発展途上だが、技術面では使いたくなる魅力ある選手。

・MF エルシャーラウィ 7.0点
内側に絞る役割がこんなにハマるとは思っていなかった。相手中盤の脇でボールを受けカバセレを釣り出すだけでなく、サイドでボールを受けてインスイングのアーリークロスを狙うなど多彩な攻撃を繰り出すきっかけとなった。守備面でもポゼッションゲイン9とエンディカに並ぶボールリカバリー数を記録し、安定したボール保持につながる役目も果たした。

・FW ディバラ 7.5点
シャドー2枚はボール保持時にある程度自由に動いていたが、ディバラは毎試合のように適切なタイミングで中盤のサポートを行い、ボール保持の安定をもたらした。PK獲得により、待ち望んだ今シーズン初得点も上げた。

・MF ペッレグリーニ 6.5点
彼がボールを持つとブーイングが起こる厳しい環境の中での試合だったが、チェリクと同数のチーム内トップであるキーパス2本をはじめ、被カウンターの状況でのトヴァンをケアしたところなど落ち着いてプレーしていた。この日のパフォーマンスはブーイングされるべきものではなかった。

・FW ドフビク 8.0点
ようやく順応してきたストライカー。縦パスを受けて落とすことも増えてきたし、難しいシュートコースをしっかり決め切るのはさすがのひとこと。バルダンツィへのほとんどアシストや、オフサイドながらもチップキックでゴールネットを揺らしたシーンなどとにかく躍動していた。ディバラのPK獲得もこの人の前プレから。プレスバックもするし頼もしすぎる。

・MF パレデス 6.0点
安定していたとは少し言いにくいが、ディフェンスラインの間に落ちるプレーは彼の得意分野。一度自身の不用意はロストからクリスタンテがカードを貰うことになったため、途中出場でのプレーとしては厳しく見られてしまう。コネ、パレデス、ピジッリ、クリスタンテで回せる中盤は3つのコンペティションを戦う上で大事な戦力。

・MF バルダンツィ 7.0点
ローマ加入後初得点おめでとう。ずっとコンディションが良かったが、目に見える数字として結果が出た。守備ブロック形成時には、ブロックに入り5-3ブロックを作ってくれたことで2列目の守備のスライドが安定した。ゲームチェンジャーとして大事な存在になっている。

・DF エルモソ -点

・MF コネ -点

・MF スーレ -点
コネとスーレはもっと見たい。

・ユリッチ 7.0点
この1週間どれだけ大変だったかは、試合終了直後の表情をみればわかる。試合に集中し、用意してきた戦術を選手達に完遂させ、今シーズン初勝利を掴んだのは称賛に値する。
勿論クラブに対して色々と思うことはあるが、こぼしたミルクを泣いて悔やんでも無駄なので、これからのユリッチ体制を見ていきたい

◦ウディネーゼ

・GK オコエ 5.5点
5セーブしているものの、3点目は止めたかった。1失点目と2失点目はノーチャンス。失点は彼だけの責任ではない。

・DF カバセレ 5.5点
開始1分で高い位置を取っていたピジッリを見られず決定機を作られただけでなく、誰が見るか定まっていなかったところはあるが、ライン間で浮くエルシャーラウィへの対処が後手になった。

・DF ビヨル 5.0点
PK献上も痛かったが、ドフビクがマンツーマンでマークにつく中ビルドアップの面でも中々貢献できず。1失点目のプレーで、インターセプトのこぼれ球がエルシャーラウィに跳ね返ってしまったことはアンラッキーだった。

・DF クリステンセン 5.5点
1失点目はできればシュートコースを完全に消したかった。ディバラへの対応に手を焼いた印象だが、空中戦の強さは安定していた。

・MF エヒジブエ 5.5点
守備面では対面のエルシャーラウィが中に絞ることで守備で浮くケースがあり、攻撃面ではエルシャーラウィに見られている関係上中々ボールを受けることができなかった。前半唯一のチャンスだったクロスボールのこぼれ球は決めるには難しいボールだった。さすがの運動量でカウンター時に何度も追い越す動きを見せた。

・MF カールストロム 5.5点
ブロック守備を敷く関係上仕方ないが、数的優位になった相手の2列目に翻弄された。内心、トヴァンに降りてきてサポートしてもらいたかったかもしれない。ビルドアップの面でもマンツーマンディフェンスが効果的で本領を発揮できず。

・MF エッケレンカンプ 6.0点
カウンター時にはトヴァンやブレンネル、カマラと連携して攻撃の形を作っていた。ふかしてしまったシュートのシーンは、せめて枠内に飛ばしたかった。クリスタンテに寄せに出たスペースを活用されるシーンなどもあったが、それだけチームの守り方に悩んでいたという印象を受ける。

・MF カマラ 6.0点
ローマが左重心だったこともあり数自体は少なかったが、カウンター時の推進力は異次元。彼の推進力によりローマのラインは一気に下げさせられた。強烈なカウンターが今シーズンのウディネーゼの持ち味でもあるため、脅威であったことは間違いない。

・MF トヴァン 6.0点
前半唯一のチャンスともいえるクロスを上げたのもトヴァン。後半の強烈なシュートを浴びせたのもトヴァン。ウディネーゼの攻撃の中心はこの試合も危険だった。あのシュートが入っていれば間違いなく難しい試合になっていた。

・MF ブレンネル 5.5点
ファイナルサードまで押し込まれた時も守備に戻る献身性もあり、チーム最多のシュート本数を放つもゴールに絡めなかった。デイビスが潰れ役となったシーンでは、マンチーニに競り負けるものの切り替え早くデイビスのサポートに入りボールを引き受けた。

・FW ルッカ 5.0点
エンディカに抑え込まれた点や、カードを貰っていた点などから前半のみの出場に。デイビスがサイドに流れてから多少動きが出てきたこともありこの試合ではいい印象がないままベンチへ下がることに。

・FW デイビス 6.5点
後半から出場し、サイドまで流れることでマンツーマンで来るローマの最終ラインを引き出すなど前半にはなかった動きをつけた。キーパス3本と両チーム最多の数字を45分間だけで叩き出したが、フィニッシュに中々絡めず。

・MF ロブリッチ 6.0点
投入直後に一番のビッグチャンスが訪れた。絡んだもののものにできずその後バルダンツィに試合を決める3点目を取られ難しい試合に。持前の展開力を発揮できなかった。

・MF ゼムラ 6.0点
カマラに代わって入ってきた推進力の塊②。クロスを上げられるほど押し込めなかったこともあり違いを見せることはできなかった。

・DF トゥーレ 6.0点
大勢が決したあとに投入された。セリエA初出場ながら地に足のついたプレーを披露。206cmという高さを活かした空中戦を見たかった。

・FW ブラボ 6.0点
トゥーレと同様に体勢が決まった後に投入された期待の若手。サンチェスの離脱中に評価を上げて出場時間を増やしたい。

・ルニャイッチ 5.0点
好調だったチームだが、勢いを継続することができなかった。前半の修正を後半に行いたかったが追加点を奪われる時間も悪く、ほとんどチームにいいところがないまま試合が終わってしまった。とはいえカウンターの鋭さには脅威があったため、非保持時のアプローチを増やして今後のリーグ戦を戦いたい。

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