24-25シーズン ASローマの展望
ユーロも終わり各クラブがプレシーズンマッチを開催する時期になりましたが、未だいまいち新シーズンの形が見えてこないローマについて書きました。
○24-25シーズンの展望
・アンバランスなスカッド
23-24シーズンは多くのレンタル選手(貸し借り両面)を抱えながらの戦いでした。そのため、新シーズンに持ち越せる戦術的要素が限定的である点は懸念材料です。特に攻撃面でシーズン21ゴールを上げたルカクの穴をどう埋めるのか気になります。
アンバランスなスカッドを見ていくために、まずはレンタルで獲得した選手について整理していきます。
レンタルから完全移籍で獲得した選手は、アンヘリーニョ1人でした。ルカク、ジョレンテ、クリステンセン、レナト・サンチェス、アズムン、ハイセンの6名は獲得せず。保有元への返却が決まっています。
レンタルで貸出していた選手に関しては、ベロッティを450万ユーロでセリエA昇格組のコモへ売却しましたが、クンブラ、ダルボエ、ショムロドフ、ソルバッケンに関しては7/25時点ではローマ所属の状態です。
来シーズン、レンタルバックした選手を仮に全員スカッドに組み込んだとしても、返却した選手と同様の活躍は正直見込めません。2枚レンタルだったセンターフォワードとセンターバックがまず足りません。
さらに、ルイ・パトリシオ、スピナツォーラが契約満了に伴う退団をしてしまったので、ゴールキーパーと左サイドバックの枚数も足りません。(キーパーは、AZに所属していたライアンをフリーで獲得しました。)
7/25時点でのトップチームのスカッドを表にしてみました。(4-3-3基準で考えているので、サイドバック、センターバック、アンカー、インサイドハーフ、ウイング、センターフォワードの区分で分けてます。
表にすると分かりやすいですが、ポジションごとに不足や余剰が生まれていて、これを1ヶ月後のシーズン開幕までに整えなければいけません。
獲得、放出選手については様々な噂が出ていて日々不安になるばかりですが、公式発表があるまでは信じられないのでこのメンバーから補強したい部分を考えてみます。
(売却に関しても、構想外や売り先を探している情報がたくさんありますが売れなければ仕方ないので現状はいると仮定します。)
まずクオリティ云々の前の話で枚数だけで見ていきます。
左サイドバックの絶対数が足りていないため、このポジションの補強は絶対です。左サイドバックは1枚と+αで両サイドバックを担える選手がいたら理想だと思います。
センターバックの枚数は4枚ですが、スモーリングとクンブラは割と怪我体質なのでこの4枚だけでは不安です。ジョレンテの買取をするものだと思っていましたが買収しなかったためこの4枚で新シーズンに臨む可能性があります。
右サイドバックは今夏獲得した16歳のサンガレをトップチームに組み込むなら3枚いますが、今シーズンからいきなり戦力としてカウントしにくいと思います。そのため現状は2枚と仮定し、両サイドバックを担える選手がいれば理想です。
負傷離脱のことを考えると、各サイドバックそれぞれ3枚いたら嬉しいですが、そんな資金力はないので両サイドバックできる器用なタイプが1枚いたらいいなと思います。
中盤、前線については枚数だけで見たら問題なさそうですが、中盤はインサイドハーフの選手が多く、アンカーはクリスタンテもできますが枚数でみるとレンタルバックのダルボエが若干未知数なところもあるため、新シーズンもアンカーはパレデスに頼ることになりそうです。
・戦力を考えながらみる補強ポイント
新シーズンのローマの目標は、CL圏内でカンピオナートを終えることだと思います。欧州カップ戦に関しては、23-24シーズン以上の成績が求められます。(EL準決勝以上)
CL圏内に入るためには、現時点のスカッドで構想外にせざるを得ない選手がいるのも事実です。スカッドの構想について考察を行いました。
構想外の選手についてですが、カルスドルプに関しては先日行われた練習試合にも出場していないため、構想外であることがほぼ確定しています。ショムロドフもEU圏外選手という点や能力的にもおそらく構想外です。
さらに、プリマ上がりの4選手とレバンテから獲得したサンガレについては、大きな期待を寄せていますが、年齢や経験値的にもう少し時間が必要だと思います。チームの陣容が整ったらドライローンに出して経験を積ませるのもありです。ジョアンコスタに関しては、ディバラのゼロトップを採用するならタイプ的にも使いたいです。
赤選手4人は新シーズンでの序列が低そうなメンバーで、補強が進んでからというのが絶対ですが売却も視野に入れる可能性があります。
しかし、赤選手の中でも選手ごとによって置かれている状況は微妙に異なります。ダルボエ、ソルバッケンは先日の練習試合で出番をもらっていて、ポジションの枚数的にも決して豊富ではないためデ・ロッシはスカッドに組み込むことを基本線としていると思います。特にソルバッケンは、右だけでなく左ウイングも担えるので補強も不透明な現状では構想外にできないと思います。
ザレフスキも4-3-3での使い道が難しいですが、スペースを与えたボールキャリーとキック能力は魅力でターンオーバー要因としては計算できると思います。
エイブラハムは適切なオファーがあれば売却が基本線と言われていますが、オファーしたミランが、現金化したいローマに対して選手の譲渡を付帯して購入金額を抑えるオファーを行ったことにより破談。ストライカーの新戦力獲得も進んでいないので不透明な去就となっています。
色付けした表を改めてみると、サイドバック、アンカー、左ウイング、センターフォワードが構想上不十分であることが分かります。
赤選手全員を残留させたとしても、両サイドバック、センターフォワードの補強はマストですし、練習試合でも試していたディバラ偽9番を実現させるには、ドリブラータイプのウイングが必要になると考えています。
○24-25シーズンの戦術予想 ディバラ偽9番によるゼロトップ
デ・ロッシは新シーズンの戦術として、ディバラの偽9番を行う可能性がある。というローマ関係のニュースを読みました。23-24シーズンにやっていた右ウイングをフリーマンにする戦術は、歪みを作って中央や左に数的優位を作れる反面、右サイドで数的優位を作れなくなる瞬間や右サイドバックに高い位置を取らせるリスクもありました。
面白そうではあるものの、あまりやらなさそうだと思っていたら練習試合でディバラのゼロトップを試していたそうです。
デ・ロッシの現役時代には、スパレッティがトッティを偽9番にしたゼロトップを採用しカンピオナートで2位、コッパ・イタリア優勝の成績を残しました。デ・ロッシは監督就任後、たびたびディバラをトッティに準えて評価しています。ゼロトップを選手として経験し、ゼロトップを任せるに相応しい選手がいるなら、セロトップの採用に至るのは自然な発想です。
もともとスパレッティの編み出したゼロトップは、ストライカーの相次ぐ戦線離脱による苦肉の策でした。ルカクが去ったストライカーの穴も埋まっていない現状とも状況が似ています。
もちろん、ゼロトップを採用することでセンターフォワードにターゲットマンが置けなくなり、ロングボールを納めることが難しくなるネガティブな面もありますが、個人的には右ウイングをフリーマンにするよりも攻守両面でポジティブな要素があると思っています。
あくまでも7/25時点のスカッドで考察します。
○ゼロトップを採用した場合の現時点での予想配置と右ウイングフリーマンと比較したゼロトップのメリット、デメリット
・メリット① 両サイドに選手を高い位置で張らせることができ、ボール保持の安定につながる
中盤に数的優位を作り出せること自体は2つの戦術の共通点ですが、右ウイングをフリーマンにしたときのデメリットの一つに、右サイドの高い位置を常に取る選手がいなかったことがあげられます。
サイドで高い位置を取るだけで、対面のサイドバックやウイングバックにその選手を見ておく守備のタスクを与えることができます。サイドで高い位置を取る選手は、1対1の仕掛けを得意とするドリブラーを置くと守備のタスクを重くすることができます。
右ウイングがフリーマンだと、右サイドで常に高い位置を取ることができない他、右サイドバックがその役割を担わなければならず、対面の守備に対してドリブル突破のプレッシャーを掛けられないシーンが生まれてしまいます。
抜かれるリスクが低いと、守備側はボールホルダーに対して距離を詰めやすく、仕掛けられない選手ではボールを下げるか勝算の薄いドリブルでの仕掛けを敢行しなければならず、守備側のほかの選手は次のプレー予測がしやすい状況を生んでしまいます。
そのため、両サイドに仕掛けられる選手を置くことで、その選手がボールを持った時にできる時間を使い、2列目の選手や同サイドバックがアクションを行うことで相手を押し込み、ボール保持の安定化を図れます。
この時、センターフォワードがいないことで2列目の選手が飛び出すスペースがある点、守備側のセンターバックからすると2列目から飛び出てくる選手のマークにつきにくい点が副次的なゼロトップの効果として現れます。(もちろん、競り合いの強いターゲットマンがいないというマイナス面もあります。)
このシーンではクロスを上げる以外にも、後ろに戻してやり直しをするパターンや仕掛けを試みるパターンやバイタルの選手にパスを入れるパターンなど、サイドに張る選手がいることで多くの攻撃パターンが生まれ、相手に対し複数の狙いを見せながら攻撃を行うことができます。
ディバラが右ウイングの位置から離れた際はこのパターンができなかったため、ディバラをゼロトップにすることでバイタルでの決定的な仕事を担ってもらい、右サイドでもボール保持の安定化を図ることができます。
・メリット② 立ち位置を変えながらゴールに向かったプレイがしやすい
右ウイングにディバラを置き、フリーマンにしていた時は中央や左サイドで数的優位を作りやすかった反面、ポジション被りや選手の渋滞が発生してしまうデメリットもありました。
しかし、ゼロトップならディバラが空けるスペースが中央のためサイドの選手も中盤の選手もゴール方向へのドリブルやランニングがしやすくなります。
机上の空論ではありますが、崩しの例を。守備側は4-4-1-1のミドルブロックを敷きつつ、中盤はマンマーク気味で守ると仮定します。(割とよくある4-3-3対策です。)
上の図では、クリスタンテにはマークがついていて縦にボールを差し込めません。ここでディバラがハーフスペースに顔を出します。
守備側がマンマークを継続すると、落ちてきたディバラが中間ポジションで自由にボールを受けることができ、センターバックが対応に出るとディフェンスラインにギャップが生じます。
このギャップを埋めるには他の最終ラインの選手が絞らなければいけませんが、そうするとウイングの選手がフリーになり、そのスペースを守備側のサイドハーフの選手がカバーするとマイナスに大きなスペースができ、というように守備を後手に回すことができます。
この場合はほとんどセンターバックが降りてくることはないと思いますが、降りて来ないなら、中間ポジションでディバラがボールを前向きに持てる状況を作れるのでそのまま仕掛けるだけで危険な状況を作り出すことができます。
・メリット③ 右サイドのリスク管理がしやすい
メリット①とリンクしている部分はありますが、ウイングの選手がいることでサイドバックの選手がリスクを負って高い位置を取る必要がなくなります。サイドバックの選手にはボール保持安定のためのポジションをとらせることができます。このリスク管理がしっかりしていれば、右サイドの仕掛けもしやすくなりますし、仕掛けをみせれば相手のディフェンスラインを下げることにつながります。
また、ブロック形成時にはウイングの選手にサイドを任せられるので、インサイドハーフがサイドまで守備に出るケースが少なくなり、自陣内で4-4-2のブロックから5-3-2のブロックへ以降するときの中盤の横ズレが起きにくくなります。(ディバラのゼロトップを行うなら、ファイナルサードの守備は5-4-1ブロックにするかもしれません。)
守備のマーク面では中盤を中盤で消そうとした際に、昨シーズンは相手の中盤が3枚だとクリスタンテが中盤1枚をマークしつつ、サイドにボールが出たらそこのケアも行っていたため右サイドはよく使われてしまっていました。しかし、ゼロトップにして4-1-4-1のブロック形成にするだけで右サイドのケアを中盤の選手がする必要がなく、中盤のマークに集中することができ守備のズレも起きにくくなります。
・デメリット ロングボールを納められるターゲットマンがいない
ディバラのゼロトップということは、当然センターフォワードタイプを置かないので自陣からのロングボールを納めることは難しくなります。自陣のビルドアップで苦しくなった時に昨シーズン頼りになったルカクへロングボールを蹴る逃げ方ができません。
そのため、ビルドアップの整備と出口の設計はかなり綿密に練らないとハイプレスにつかまって自陣でロストするかボール保持を捨ててロングボールを蹴るかといったようなゼロトップが機能しなくなる状況を招いてしまいます。
この問題は、昨シーズンと同様の右ウイングフリーマンをやってもロングボールを納めて深さと時間を作ってくれたルカクがいなくなるため、昨シーズンのようにはうまくいかないと思います。そのため、ビルドアップの整備に関しては、ゼロトップのやるやらないに関わらず新シーズンを戦う上での重要な課題だと思います。
○最後に
ゼロトップを実際に運用するかどうかは正直わかりませんが、ゼロトップをするにしてもセンターフォワードはスカッドにいないと得点力がほしい状況での手段がなくなりますし、デ・ロッシは個人依存の攻撃からの脱却を目指している以上、ディバラのゼロトップがオプションの1つ程度にしかないのだと思います。
なんにせよ補強が立ち遅れている感は否めないので、どうしても現有戦力だけで形になりそうなものを考えてしまいます。
新シーズンも頑張ってほしいものです。