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24-25 EL グループフェーズ Matchday1 ローマ対アスレティック・ビルバオ

今シーズンからレギュレーションが変わった欧州コンペティション。
ユリッチとしては初の欧州コンペティションとなったこの試合。両チーム明確な狙いを持ったこの試合を振り返ります。ハイライトはこちら。


・敵陣でのボール奪取→カウンターを狙いたい両チーム

試合開始時の配置。左エンドがアスレティック・ビルバオ、右エンドがローマ

ローマはユリッチ体制2試合目でウディネーゼ戦同様に3-4-2-1の配置。敵陣ではマンツーマンディフェンスを行い、高い位置でのボール奪取とショートカウンターを狙いにします。
アスレティックは戦前予想の4-2-3-1ではなく、ローマの3バック+ダブルボランチに守備が噛み合うように4-3-3でこの試合に挑みます。この狙いは試合開始後に明らかになりました。立ち上がりボールを保持するローマに対して、ローマ陣内ではローマの3バックとダブルボランチをマンマークし、ローマのビルドアップは前半開始直後は苦しく、立ち上がりにはボール奪取後のカウンターでシュートやクロスなどフィニッシュワークまで繋げました。

アスレティックのベクトルはとにかく縦。ローマのマンツーマンを警戒してか、ロングボールを多用し守備から入る姿勢で、用意してきた守備を徹底します。背後にイニャーキが抜けるとシュートまで持っていく力があるため、ローマも警戒しなければなりません。

・ボールを持たせるアスレティックと工夫してボールを持つローマ


前述のとおり、ローマにボールを持たせる選択をしたアスレティック。立ち上がりこそローマは苦労しましたが、2つの狙いを使ってボール保持を行い、アスレティック守備陣の様子を見ます。

◦ボールサイドに守備が寄る状況を確認、ドフビクが駆け引きを行う状況で裏のボールの活用


アスレティックは中盤2枚+3トップに明確なマークをつけましたが、最終ラインはゾーンでボールサイドへのスライドを行います。
上記の守備対応をみたローマは、ウイングバックを逃げどころにしつつ、逆サイドのウイングバックがフリーの状況ではそのウイングバックが背後を狙い、センターバックやボランチが裏へ蹴っていきます。
ドフビクも常にアスレティックのディフェンスラインと駆け引きを行い、背後への動きを何度も見せることによりアスレティックのディフェンスラインを下げさせるとともに、アスレティックの中盤に背後を意識させ、ローマのビルドアップ部隊へのプレッシャーを軽減させることに成功します。

立ち上がりのアスレティックの守備
背後を使う意識を見せ相手の重心を下げることに成功。

◦スヴィラルを含むビルドアップと各選手の細かい立ち位置

 ビルドアップが安定した最大の要因は、ローマのゾーン1でのビルドアップの工夫が挙げられます。
 ゾーン1ではマンチーニ、エルモソとともにスヴィラルを含んで後ろを3枚にし、エンディカとクリスタンテで1列上がり3-2の形を作ります。
結局3-2の形ならアスレティックの守備がハマるかと思うところですが、コネ、ディバラ、バルダンツィと3枚もマークがつけない選手が出てくるため、中盤の選手は前に出られず。モウリーニョ期からの課題だった最後方のボール保持安定が改善されました。

スヴィラルを含めて最後方で数的優位を作る

 エンディカを1列上げるもう一つの理由は、エンディカとスヴィラルの距離が近いとエンディカがスヴィラルにボールを戻した際、エンディカへのプレスがそのままスヴィラルに掛かってしまう可能性があり、そのリスクヘッジの意味合いもあります。実際、この試合でも1つグルセタのプレスにスヴィラルのボールが当たってしまいヒヤッとしたシーンがありました。

・前半の工夫が活きたローマ。後半の修正が活きたアスレティック

 上記の工夫が活き、前半にローマは先制に成功します。ドフビクの裏を狙ったボールのクリアを収めたグルセタに対してエンディカがタックルに行きボール奪取。コネ→チェリク→ディバラ→コネと繋ぎ寄せに来たアスレティック守備陣を躱し、逆サイドでフリーのアンヘリーニョへ展開。アンヘリーニョが丁寧にトラップし、ディフェンダーの背後に消えたドフビクに的確なクロスを供給。ドフビクが冷静に頭で合わせゴールネットを揺らしました。

 後半のアスレティックは、ローマの重心が若干低くなったことを見て裏だけでなく足元も使い、ローマ陣内でボールを持つ時間をつくり始めます。背後はエルモソの裏(イニャーキのところ)を狙い、エルモソの機動力、空中戦の弱みを突いている印象でした。
 自陣では、5-2-3の形になり2ライン間の距離を詰めるローマに対してアスレティックの中盤でボールを回しながらサイドを使い、クロスを狙っていきます。
 守備の基準は前半と変わりませんが、前線のマークは整理したアスレティック。グルセタはエンディカだけをマークしスヴィラルにボールを持たせます。スヴィラルが開いていることを認識しているローマは、前半同様にスヴィラルを使いますが、距離のあるバックパスに対してはグルセタがスイッチを入れ、あらかじめ開けていたチェリクやアンヘリーニョの位置をめがけてスヴィラルがボールを蹴った瞬間にベルチチェ、ゴロサベルが距離を詰めボール奪取を狙います。
 60分には、ニコ、エレーラの投入と早めの手を打つアスレティック。62分にはローマもバルダンツィに代えピジッリを投入し、ボール非保持時の形を5-3-2へとはっきり変更します。
 アスレティックは60分以降、徐々にスヴィラルに対してプレッシャーを掛ける事が多くなり、スヴィラルがボールを蹴りこむ時間帯が増えます。
運動量が落ち、重心が下がったローマに対して前からくるようになったアスレティック。足が止まりかけたローマに対して試合終盤ながら効果的なプレスを継続します。
 べレンゲルを投入して以降のアスレティックは、配置を4-2-3-1に変更。守備の基準も1列上げ積極的にプレスを掛けるようになります。

後半途中からプレスのギアを上げるアスレティック

 85分、アスレティックがローマのゴールを脅かす展開にはならなかったものの、ニコが敵陣左サイドで得たファウルを活かすことに成功します。
 ファーへの長いボールを、エルモソ、アンヘリーニョの2人に競り勝ったヌニェスが頭で中へ折り返すと、パレーデスがクリスタンテとマンチーニに競り勝ち、これも頭でゴールへ流し込みました。
 後半途中からメリハリをつけたアスレティックの積極性が実を結んだか。アスレティックが追いつくことに成功します。

 同点になってからは両チームボールの落ち着かない展開の中戦いますが、後半追加タイムでアスレティック陣内でフリーキックのチャンスを得ましたが、デザインするもアイデアに欠けクロスを上げることができません。

 この後スコアは動かずドローの決着に。
 前半、アスレティックの狙いを看破し優位に試合を進めたローマと後半の修正で守備の整理と段階を踏んだ修正案が実を結び同点に追いついたアスレティックと見ごたえのある一戦でした。

・各選手ひとこと評価

◦ローマ

・GK スヴィラル 6.0点
失点シーンはほとんどノーチャンス。ポジショニングの細かいミスはあったかもしれない。ビルドでも役割を果たすなど足元のうまさが活きる試合だった。

・DF マンチーニ 6.0点
裏への球出しが効果的だった前半と、ニコを含め相手アタッカーに抜かれることがなかった安定した守備を披露。ニコへのファウルが失点へつながったが、アブドゥルハミドのカバーをしながらの対応だったので彼を責めることはできない。

・DF エンディカ 7.0点
3バックの真ん中で密かに覚醒してきた。対人もめっぽう強く、デュエル勝率は100%、タックル成功は4回(成功率100%)と圧倒的なスタッツを残した。今シーズンは彼が通年稼働できるかで成績が大きく変わる気がする。

・DF エルモソ 6.0点
攻撃面だけで見れば7.0点。球出しも良く足元はかなり上手い。相手がラ・リーガのチームという事もあり、エルモソの弱点である機動力と空中戦を狙いにされていた印象。

・MF チェリク 6.0点
ポゼッションが圧倒的だった前半でクロスを一度は合わせたかった。ビルドアップの逃げ場として、ディバラのサポートを受けながら奮闘。後半の守備強度がほしい時間帯に座り込んでしまい交代に。軽傷であることを祈る。

・MF コネ 6.5点
この試合も対人の強さを発揮。先制点につながるシーンでは潰れながらボールをバルダンツィに引き渡した。ユリッチのマンツーマンを敢行する上で必ず重要なピースになる。

・MF クリスタンテ 6.0点
チーム最多の11㎞を走り、ボールの落ち着かない状況でも空中戦勝率58%とまずますの勝率を残した。後半はニコのマークを担当するも、ニコのプレイエリアが広いこともありついていけない状況もあったが、5-3-2のブロックを作る守備ならある程度は仕方ない。

・MF アンヘリーニョ 7.0点
絶妙なクロスでのアシストはもちろん、献身的な運動量で前半の裏抜けターゲットになるなど多くの役割をこなした。バルダンツィとの連携も良く、アスレティック守備陣の合間を縫って中へ切り込むなど詰まりかけた局面を良く打開した。

・FW ディバラ 6.5点
創造性に長けたプレイが局所で輝いた。いつも通りビルドのサポートも行い、ボール保持に安定をもたらした。前半のみで交代してしまったことはかなり心配だが、大きな怪我ではなさそうなのでひとまず安心。

・FW バルダンツィ 6.0点
球離れがかなり良くなり、チームが前進する時の助けになっている。ドリブル成功はなかったものの、ファウルを2回貰うなど一定の役割は果たした。

・FW スーレ 6.0点
ディバラの負傷により後半頭から出場。相手のミスで貰った決定機は決め切りたかった。ボールを受ける引き出しは多いので今後に期待したい。

・MF ピジッリ 6.0点
重心が下がったチームに守備時は中盤として、攻撃時はシャドーとしての役割を求められた。難しいタスクで、相手の時間が多かったことから持ち味は十分に発揮されなかったが、ボールを持ったときに技術力の高さが垣間見えた。

・MF アブドゥルハミド 5.0点
この試合がローマデビューとなった。トランジション面や強度の面、パス選択やパス精度の面で改善はあるが、ユリッチもそれを分かって出場させたみたいなことを言っていたので、この試合が彼にとって学びのある試合になってくれることを期待。足はかなり速い。

・MF パレデス -点

・FW ショムロドフ -点

・ユリッチ 6.5点
前半の内容はお見事。後半もゴールを脅かしたのは同点弾くらいだったので勝ち切りたかったが悲観するほどの内容ではない。試合間隔が短くなっていくこの時期、チーム運用能力が今後試される。

◦アスレティック・ビルバオ

・GK アギレサバラ 6.0点
ドフビクのヘディングは仕方ない部分が大きい。スーレのシュートを冷静にセーブした。方針的に足元で繋ぐことはほとんどなく、ローマのシュート数も4本と少なかったので出番があまりなかった。

・DF ゴロサベル 5.5点
チームのスライド上仕方ない部分もあるが、失点シーンではアンヘリーニョに多くの時間を与えてしまったため、丁寧なボールを供給されてしまった。バルダンツィを気にしてアンヘリーニョまで強く当たれなかった。

・DF ビビアン 6.0点
ドフビク相手にパレーデスと2人で背後の対応を懸命に行った。流血により交代してしまったが、交代したヌニェスが同点弾のアシストをしているので交代がハマったと言われてしまうと可哀想。

・DF パレーデス 7.0点
失点シーンはドフビクを見失ったが、その部分は攻撃でカバー。この試合唯一と言ってもいい決定機をものにした。空中戦勝率100%(4/4)と競り合えば絶対勝つマン。

・DF ベルチチェ 6.0点
前半はラインが下がるチームとともに引きすぎてしまったが、後半に守備を整理されたことでチェリク、アブドゥルハミドに対して出ていけるようになった。

・MF プラードス 5.5点
前半立ち上がりの守備アクションは良かったがバルダンツィの立ち位置をケアしすぎて守備がハマらなくなってしまった。ガラレタが安定していたこともあり60分で交代。

・MF ガラレタ 6.5点
マークの割り振りはなかったがディバラ、バルダンツィを要所で見るなど広めのタスクを遂行。後半はボール保持の軸となり後半だけで見たらポゼッションを上回る原動力になった。

・MF ウナイゴメス 5.5点
コネとのマッチアップはコネに軍配が上がったように思う。後半は枠内シュートを放つも威力は控えめに。まだ21歳なので今後が楽しみな選手だと感じた。

・FW イニャーキウィリアムス 6.0点
チームの狙いであるエルモソ裏を立ち上がりから取り続けた。彼だけでシュート4本を放つなどフィニッシュには絡んだが、枠内シュートはなし。この辺りはローマが救われた。

・FW グルセタ 5.5点
エンディカの立ち位置の工夫で守備基準を見失い、エンディカとのマッチアップでは完敗するなどあまり良いところがなかった。前半終了間際のプレスがスヴィラルにかかりそうだったのは良い狙いだった。

・FW ジャロ 5.5点
チェリクを消しながらマンチーニに寄せる役割を担った。チームがボールをあまり持たない戦い+エルモソ裏を狙う関係でほとんどボールに絡めず。ニコを入れるために60分で交代。

・MF エレーラ 6.0点
ローマ陣内でボール保持ができるようになり、投入された。35歳と結構な年だが、足元の技術は安定している。彼とガラレタの組み立てに後半のローマは走らされた。

・FW ニコウィリアムス 6.5点
仕掛けこそあまり活きなかったが、スプリント能力と持前のクイックネスでローマに負荷を与えた。アブドゥルハミドが不安だと感じるや否や、右サイドでの打開を狙うなど頭の鋭さもあった。同点につながるファウルを貰うなど最低限の仕事は果たした。

・DF デ・マルコス 6.0点
カードを貰っていたゴロサベルに代わって投入された。繋ぎ役として機能したが、ショムロドフに追いつけずカードを貰った。

・FW べレンゲル 6.0点
攻撃の厚みを持たせて、守備基準を1つ上げるために投入された。攻撃面ではマンチーニに苦戦していた印象だが、守備面ではマンチーニに対して出足の早いプレスを敢行。アスレティックのボール保持が増えたことに間接的に関与。

・DF ヌニェス -点
投入直後のセットプレイで2人との競り合いになったが、競り勝ちよく折り返した。

・バルベルデ 6.0点
前半の狙いを看破されたところで終わらない修正力。後半途中からギアを上げられて実際にローマは苦しんだ。オリンピコの奇跡を食らったバルサの当時監督だったが、これで苦手意識を払拭するか。


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