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桜吹雪の中、古家の改修工事が始まる。

気持ちの良い風が吹いている。古家の側には山桜や垂れ桜が満開で、花びらが風に舞っている。

朝8時前から、大工の棟梁、現場監督、解体業者の方々が現場入りする。
簡単にご挨拶を済ませたら、家清めのために用意した日本酒と塩を棟梁に渡し、家の四隅に撒いてもらう。それから、すぐ側にある小さな神様の社にも工事の無事を願う。
一連の動作のあと、神様に供えた塩とイリコ一尾を、棟梁は無言でポイッと口に含んだ。何気なく行われた自然な所作だった。僕も習って口に含む。こうして家と共に自身を清めるのかな。分からないけど、そんな気がした。

すぐに工事が始まる。まずは増築部分の汲み取り便所と風呂を解体する。屋根が剥がされ、古い電気配線や建具が取り外され、壁が打ち崩され、柱が倒されて、あっという間に基礎ブロックだけになった。同時進行で棟梁は台所の床板を外して、内部から着手していく。
プロの仕事はすごい。その正確で無駄のない動きはとても美しくて、何時間でも見ていられる。
最近は古民家DIYが流行っているけれど、この流れるような仕事を見てしまうと「やっぱり餅は餅屋だ」と思う。
僕は改修費用の足りない分は自分でやれると思い込んでいたけれど、それは驕りなんだなと思った。
素人がどんなに工夫を凝らして時間をかけても、何十年と経験を積んだ職人には敵わないな。

ただ、家の改修に充てられる費用は限られている。
無い袖は振れない、嘆いてもしょうがない。
職人さんたちの邪魔をしないように注意しながら、彼らの仕事を良く見させていただいて勉強をする。これからは拙いながら自分でも多少のメンテナンスができるようにならなければ。

台所に増築されていた壁がなくなり景色が開けた。まるでオープンキッチン、いましか見れない景色だ。
桜の花びらが風にのって家の中へ舞い込んでくる。古家が気持ちよさそうに呼吸しているみたいだ。