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愛することがある人は、何度も立ち直れる

2022年が終わろうとしている。今年読んだ本を振り返り、感銘を受けた本を紹介する。

13歳からのアート思考
末永幸歩
ダイヤモンド社

黄色いこの本は、我が家の雑多な本棚の中で、ピカピカと太陽のように輝いている。クリエイティブな仕事をしている人、アートが好きな人だけでなく、生きづらさを感じている全ての人に読んでほしい。

私はぐちゃぐちゃの絵を描いていた時期が長い子どもだった。赤ちゃんがクレヨンを握り、手の動きや色の重なりを楽しむ、動作としての絵。

幼稚園の年中位になると、みんなアニメのようにちゃんと目鼻口を描き始めるのに、私は画用紙の中でただ手を動かすのが幸せだった。ただそれだけで良かった。

ある日、私の絵を見たお友だちに、「まだそんな赤ちゃんみたいな絵を描いているの?」と、言われた。
その時の風景を、まだ鮮明に覚えている。ショックだった。目鼻口なんて、私の世界には必要なかったから。

その時に私の自由な感性は死んでしまったのだと思っている。

以降、私はアニメのような絵を必死で真似した。ちゃんと目鼻口があって、漫画みたいなカワイイ絵が上手とされていたので、そうなるように必死に頑張った。だって、やっぱり線を描いたり色を扱うのは大好きだったから。そこそこ上手にやれちゃうから。

知らないうちに、自分の感性を既にある枠の中に押し込めて、「上手だね。」「かわいいね。」という他人の評価ばかり気にしていた。

こういったアートに対する枠みたいなものを取っ払うことが出来たのは、現代アートに出会ったからだ。

島袋道浩さんというアーティストがいる。
スワンボートで海を目指したり、タコに東京観光をプレゼントしたりする人。彼のシュールでポエティックなパフォーマンスは、いつだって私の心をくすぐる。

彼との出会いは、「マイクロポップの時代:夏への扉」という本に掲載されてた、「同棲:金魚とヒヤシンス」という作品がきっかけだった。

水耕栽培のヒヤシンスの入れ物の中に、金魚が入っている写真と、その写真の説明文による作品だ。
ヒヤシンスの根が伸びて、窮屈そうな金魚が斜め上を向いている。

それは、彼が当時住んでいたアパートの中で、デッサンのように行われていた行為だったらしい。

金魚とジャガイモを同棲させていると、ジャガイモのデンプンによって、金魚がすぐに死んでしまった。ジャガイモのほうも金魚のエサやフンのせいか、腐り始めていた。

お互いが一緒にあることで殺し合うことになっていたという事。

こんなに簡単に死んでしまった、殺してしまった事を反省し、殺さずに同棲させるにはどうしたら良いかという事を考えて、作品が発展していった。

「金魚とヒヤシンス」は、その一連の流れの最後の方の作品で、ヒヤシンスだとデンプンで水が汚れる事はないのだけれど、ヒヤシンスの根によって金魚が泳ぐスペースがなくなっていく。

そして、ヒヤシンスは暗いのが好きで、金魚は明るいのが好き。

金魚が動けなくなり、死んでしまうのは嫌だから、別にする最後の瞬間に撮影したものらしい。

彼は最初から、金魚とヒヤシンスの写真を撮影したかった訳ではない。

彼の問いである、「殺さずに同棲させるにはどうしたら良いか」を、探求していった結果、金魚とヒヤシンスというカップリングに至った。
そして、このカップリングも、結局はお別れを選択する。

金魚と何を同棲させるかなんて、日常生活を送る上で不必要な問いだ。
他人からしたら意味がないような事であっても、彼は探求し続けた。

そして撮影された最後の写真。探求の中で見つけた彼なりの答えを文章化する事で、何層にも重なったレイヤーとなり、鑑賞者にあらたな問いを生み出している。
自分と誰かの関係性、誰かと誰かの関係性に思いを馳せ、それが、かけがえのない人生の答を得るきっかけにもなり得る。

アートは、アートを知ることは、より良い人生を生きるのに絶対に必要な事だ。

と、言うことが「13歳からのアート入門」に書いてあります。
なるべくネット記事などで先に答えを知ってから読むのではなく、本を読みながら自分の答えを見つけていってほしい。

創作活動をしている人、これから何かを創り始める人、人生の転換期を迎えている人、アートに興味ある無しに関わらず、ありとあらゆる人に読んでほしい。まじで素晴らしいから!!

「自分の愛すること」を見つけ出し、それを追い求め続ける事。
「自分の内側にある興味」をもとに、「自分のものの見方」で世界をとらえ、「自分なりの探求」をし続けること。

勇気も時間も努力も必要だけど、きっと大丈夫ですよ!と背中を押してくれる。

この本に出会えて、本当に良かった。

自分の愛する事があれば、くじけても、何度だって立ち直れる。
探求の根を深く伸ばしていれば、表現の花は枯れたりしない。


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