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箱根クライマー駅伝

30歳まで関西人だった自分にとって、箱根駅伝は日本で最も退屈な正月行事だった。それが今や毎年、青山学院の応援に駆けつけているから、人間の好みほどいい加減なものはない。

9時42分に乙女峠から金時山の頂上に立ち、箱根湯本までの尾根を縦走することに決めた。19キロの行程。名付けて「箱根クライマー駅伝」

まずは山頂の金時茶屋で、『まさカリーうどん』900円を頂く。茶屋を去る際、金時娘のおかみさんが「食べてください」と、金太郎飴をくれた。山での一番のカンフル剤は、温かさである。

金時山の天下の険を下ると、明神ヶ岳への尾根が現れ、5月の新緑が出迎えてくれる。

空中庭園を歩いているような浮遊感。天下の険を忘れさせる不思議な力があった。

11時45分、明神ヶ岳に到着。振り返ると金時山。奥には美しい箱根山が望める。

本来なら金時山と富士山の二人羽織が見えるようだが、富士山は雲の中。でも、この日に限っては、箱根山と金時山のみ眺望できるほうが良かったかもしれない。

明星ヶ岳へ向かう途中、50代くらいの女性2人に「富士山は見えますか?」と聞かれた。「雲の中です」と答えると、残念がっていた。芭蕉の句が浮かんだ。

「霧しぐれ富士を見ぬ日ぞおもしろき」

箱根の関を越えたとき、霧で富士山が見えないほうが面白いと詠んだ句。そうだ。富士山は目でなく心で見るもの。

ここからは樹林帯のアップダウンが続き、明星ヶ岳を越えて13時25分に塔ノ峰に到着。途中の車道では、女性2人が車を停め「乗って行かれますか?」と声をかけてくださった。

お言葉に甘えたかったが、ここが山行のつらいところ。4時間54分、箱根クライマー駅伝を完登し、箱根湯本の温泉の発祥である『和泉館』で汗と疲れを流した。


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