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高水三山

新宿からオフィスに向かう神宮外苑のイチョウが見頃を迎えた令和元年12月13日(金)、会社を辞めた。

みんなから「おめでとう」と声をかけられる転職。‬でも、ホントは辞めたくなかった。それでも次のステージに上がるには喪失が必要だった。‬こんな自分勝手な男でも、山はそっと包んでくれる。だから翌日、奥多摩に向かった。

昭和のはじめ、高畑棟材さんが命名したと言われる高水三山(高水山・岩茸石山・惣岳山)。

新宿から奥多摩駅に向かう途中、いつも気になっていたのが「軍畑(いくさばた)駅」。戦国時代、三田氏と北条氏がこの地で戦を繰り広げたことから由来し、この勇ましい地名を登山のスタートにするのは憧れだった。

快晴の9時55分、多くの登山者が下車。高水三山の他にも、日の出山や御岳山の玄関口。

駅から高水三山の登山口までは2.4キロのアスファルト。奥多摩ブルーを貫く日射しが強く、すでに汗が吹き出る。レインウェアを脱ぎ捨て、夏と変わらない半袖に変身。

奥多摩の入門コースと呼ばれる高水三山だが、泥道で思いのほか道も悪く、アップダウンが激しい。小学生からお年寄りまで多くのハイカーで賑わっていたが、初心者を連れて来ようとは思わない。

だが不思議なことに、高水三山は空気が神聖だ。霊感のない自分だが、なぜか山の霊気には敏感。これほど人が多いのになぜ?
その答えは少しずつ明らかになっていく。

1時間も登れば常福院が現れる。駅から近いとはいえ、急な斜度の山中である。よく巨大な寺院を建てたものだ。

常福院のすぐ先が高水山の山頂。その名の通り、高水三山の主峰に当たるが眺望がなく、ここで引き返しただけでは登山として少し物足らない。高畑棟材さんが「高水三山」とセットで山を連ねたのは言い得て妙。

岩茸石山へ歩を踏み出すと、すぐに祠があった。高水三山の霊験あらたかな山気が凝縮されている。かつて多くの修験者や、土地の人々が何かを願い登ったのだろう。ここでも急登。登山はこうでなくてはならない。

スタートから1時間15分、標高793mの岩茸石山。団体やハイカーたちで遊園地のごとく賑わっている。奥多摩を望む景色があるから無理はない。ここで昼食を取っている人が多かった。

最後の惣岳山へも途中で眺望が開ける。ただし、林業のためのチェーンソーの音が響き、少し情緒は失われる。

11時40分、最後の惣岳山へ。ここは完全に樹林に覆われ、眺望はゼロ。

止まる理由はなく、翔ぶが如く風林下山。急登を全力で駆け下りた。

2時間17分の山旅。前の会社や仲間への未練が消えたわけではない。でもガムシャラに未来へ疾走するしかない。高水三山が優しく背中を押してくれた。

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