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親魏倭王、本を語る その03

【黒死館殺人事件】
ミステリー=推理小説に三大奇書と呼ばれる作品群がある。小栗虫太郎『黒死館殺人事件』、夢野久作『ドグラ・マグラ』、中井英夫『虚無への供物』である。
このうち、小栗の『黒死館殺人事件』だけ読んだことがあるが、たいがい奇抜なミステリーを読んできた自分でも太刀打ちできなかった。その理由はふたつある。ひとつはストーリーがよくわからないこと。確かに殺人があって最後に犯人が明らかになるが、謎解きのプロセスが明らかでない。もうひとつはストーリーとペダントリーの主客逆転で、探偵役である法水弁護士が語る数々のうんちくが物語を覆いつくし、十割中七割がうんちく(=ペダントリー)、三割がストーリーという状態になっている。この過剰すぎるペダントリーがストーリーを覆い隠してしまい、先の「ストーリーのわかりにくさ」につながっている。衒学趣味が強いヴァン・ダインでもこれほどのレベルではない。
小栗の作品は青空文庫で読めるので、「聖アレキセイ寺院の惨劇」などの法水ものの短編を一通り読んでみたが、これらにもペダンティズムは強く出ているものの、『黒死館殺人事件』ほど読みにくくはない。 とにかく読みにくい作品で、よほどの好事家でないとお薦めできない。


【古典ホラーの二大名作】
ホラー=怪奇小説はあまり読まないのだが、今まで読んだ海外ホラーでは、『ねじの回転』と『丘の屋敷』が自分の中では双璧である。 『ねじの回転』はヘンリー・ジェイムズの中編で、ある貴族の幼い兄妹の家庭教師として雇われた女性が、兄妹を狙う悪霊に孤独な戦いを挑む物語。ヘンリー・ジェイムズの兄ウィリアム・ジェイムズは心理学者・哲学者で、ヘンリーもその影響を受けたのか、心理描写を巧みとした。そのため、主人公の孤独さと焦燥感がすさまじい勢いで迫ってくる。ヘンリー・ジェイムズは怪奇小説の短編もけっこう書いており、「エドマンド・オーム卿」がよく知られている。 『丘の屋敷』はシャーリイ・ジャクスンの長編小説で、古典怪奇小説が衰退し、モダンホラーが勃興する1950年代に執筆された。物語は幽霊屋敷とされる古い屋敷での、心霊現象の調査が主題だが、それに随行した一人の女性が、だんだんその屋敷に魅せられていく。その「魅せられていく女性」と周りの人間の乖離が、何とも言えない不快感(あるいは不条理感)を醸し出す。 確か、両方ともスティーヴン・キングがオールタイムベストに推していたと思うが、どちらも時代を超えて読める名作だと思う。


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