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第73回: メタメタに考える技術を養う (Feb.2023)

ChatGPTを試して素直に驚いたので、記しておこう。
当初、SNSでは珍回答を論う書き込みばかりだったから、カスタマーサービスを省人化するだけで顧客には返って不便でしかないチャットボットの類か、学校の先進性アピールには良いが裏側でひたすらスクリプト書きに追われる先生や授業時間をエラー修正に費やされる生徒には不満しか残らないRobot Teacherの類かと、あまり気に留めていなかった。ところが、なかなか興味深い回答例が目につき始め、つい試さずにはいられなくなった。

まず何より驚いたのは、受け答えが「きちんと」していること。曖昧な質問をしても意図を汲んで「これこれこういうことを知りたいのでしたら」と返事が始まる。少なくとも日本語と英語で試した限り、いずれの場合も人間とコミュニケーションするのと全く遜色ないレベル。むしろ、ここまで素直に端的な回答が返ってくることは、相手が日本人でもインド人でも外国人でもなかなかない。一定、リサーチを要するような質問であれば尚更、これまで何種類かのキーワードを試しながら30分以上ネットを行ったり来たりして、構成を考えた上で文書化していたような作業が、たった数秒の思考時間さえ待ってあげればロジカルに整理された丁寧な口調で述べられる。コピペで十分に正式文書として通用する。

早速、各種の論文記述試験に合格できるか、という検証も始まっているようだが時間の問題だろう。現に「インドビジネスに成功する鍵」を問うてみたところ、簡潔な説明付きで10項目の回答が得られた。全く間違った部分はない上、下手なコンサルや現地経験者が妙な偏見を含めて語るよりもずっと網羅的でフェアな指摘が並ぶ。さてこうなると、ヒトは何を考えてどう時間を使うかを考えねばなるまい。意図的にはぐらかしているのか適性に欠く担当者しかいないようなコールセンターは早晩淘汰されるだろうが、行政の窓口や議会の答弁なども即座の一次回答と正式回答の見込み時期、正面から質問の意図に向き合った最終回答の下書きには、これらのテクノロジーを採用すべきだろう。

いや、むしろ「対話力」「質問力」を鍛えるのにボットを使うのが良いかもしれない。目前の相手と母語はおろか、万事において「当たり前」の基準が異なる当地だから、このギャップを埋める会話から始めるのことがビジネススキル以前に求められる。他方で、傍から見ていて日本企業駐在員とインドの従業員・労働者などでも全く会話が成立していないシーンを見掛ける。訪問先企業の初対面の相手に対して、流暢な英語で伝えたつもりになっているのも典型例だ。そもそも自らの問いが望む結果を得る為の質問になっているどうか、微塵も疑わずに勝手に満足しているのには驚かされるが、ひとりふたりの事例でないことからすれば、そうなっている共通の要因があるに違いない。周囲の空気を読んで歩調を整えつつ、決まりきったプロセスを繰り返すことばかり訓練されている学生・若手は危機感を覚えた方が良い。

紙媒体が電子化され粗方の情報は手元で瞬時に得られる時代になって久しいが、自分が欲しいパーツを探して見極め、拾い集めて編集するのはヒトが行うべき作業として残されていたはず。しかしボットの進化で、この初期的なキュレーション作業はヒトから取り上げられたことになる。逆にちょっとやそっとでは見破れない程度に根拠を伴う偽情報も自動生成されるだろうから、微かな違和感を抱けるか、流さずに追求できるか、で騙され易さも変わるだろう。「君の将来のライバルはインド人だ」と称して「英語と数字と論理思考」を鍛えるべきとこれまで説いてきたが、よもや正確性とスピードで勝てないAIが相手となるなら、それ以外の競争力も培わねばなるまい。

となると改めて「グローバルを目指すなら、まずはインドへ向かえ!」だ。圧倒的な人口だから行儀よく並んでいたら一生待っても自分の番は来ない、生まれもって定められた条件があるなら尚更、いくら真面目に努力を重ねても超えられない壁がある。従って常に虎視眈々、いかに少しでも前に出るか臨戦態勢を採り続ける習慣が身についている。渋滞中の運転などは正にそのものだが、ビジネスや日常生活では会話・対話を通じて周囲の期待を測った上で自らの行動を定めるから、やたらと人に聞く、納得できるまで何度も対話する、のが普通でそれを咎める者はいない。そうやって見出した一瞬の隙を突いて同時に火中に手を突っ込んだ者のみが土俵に立つことができ、その者同士で更に火傷しながら栗を奪い合う競争環境、と表現したら少しはイメージが沸くだろうか。ぬるま湯に浸かって茹でガエってる暇はない。

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