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映画レビュー「夜明けのすべて」

これが日常。
坦々と日常を描いた作品だが、胸に押し迫るものがあった。
素直に感動した。
そして、平凡に生きることがいかにありがたく幸せかとも思わせてくれた。

三宅監督は一昨年末に「ケイコ目を澄まして」という愛しい作品を与えてくれたが、今回は年明け。
どちらも16mmmフィルムで撮影された映像が瞼に焼き付く。
セピアっぽい少しざらついた感じが温かさを感じる。
鮮明でない映像の方が人を美しく表現するのか。
そんなことも思わせてくれた。

ネタバレなしに本作を説明するのは難しいので、少しだけ。
PMS(月経前症候群)の藤沢さん(上白石萌音)と
パニック障害を患う会社の同僚の山添くん(松村北斗)との日常を描く。
藤沢さんのPMSは以前から発症していたが、
山添くんは2年前にラーメン屋でいきなりパニック障害になった。
なんの予兆もなかった。

素人からみれば同じような病(病気ではないか・・・)でも症状は異なり、
それは本人しか分からない。
本人もなぜそんな症状に陥るのかは理解できず、人知れず落ち込む。
そんな2人が次第に助け合っていく。
分かりやすく言えば、ただそれだけ。

恋愛関係に発展することも、大げさな事件が起きることもない。
当たり前の日常が過ぎていく。
それがなぜか愛おしい。

お互いを思いやることで他人にも優しくなり、職場での人間関係もよくなる。
周りも過度に気を遣わず自然体に近い。
どこにもありふれた風景。
少なからず辛い過去を背負っているが、後ろ向きにはならない。
前を向く。
それが生きる勇気と感じさせてくれる。

普通であることが普通とはいえない。
普通でないことが普通なのかもしれない。
電車でパニックになる人、
急に怒り出す人を冷静に受け止めれるか。
鈍感な僕はそんな姿をみてようやく理解し、普通でない日常に感謝する。

誰しも真っすぐ生きている。
夜が来れば朝が来る。
星座が美しい夜中に落ち着く人がいれば、夜明けの光に希望を見出す人もいる。
すべてが正しい。

本作を観て、少し優しくなれる気がした。

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