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250名のハイブリッド授業は楽しかった

 この授業については定期的にまとめていこうと思ったのに,11月以降更新できていなかった。中途半端は良くないので,年度末ギリギリではあるが,まとめの記録を残しておこう。ちなみに,授業について書き始めた時の記事はこちらになるが,この時はまだ匿名で記録を付けていた。私が名前を出すようになったのは12月からである。

 私が担当した後期の教養科目(講義科目)は,対面でもオンラインでもどちらでも受講できるハイブリッド形態の授業だ。昨年度より受講生が増えた理由の一つはここにあるだろう。今学期に本学の一年生が対面で受けた授業は,平均1.3科目(※あくまでもアンケートの回答結果)と低い。やはり対面で授業が受けられる,ということに魅力を感じた学生は一定数いると思われる。その場合の魅力とは,対面の方が自分の学習スタイルに合っている,対面であれば友達が出来るかもしれない,友達に会えるといった積極的なものから,ネットやパソコンなどの学習環境がオンラインに向いていないなど消極的な理由もあるだろう。

 対面+オンラインで3週間授業を実施した後の感想をここでまとめたとおり,最後までこの形態にして良かったと思ったし,これからも間違いなく続けると思う。その理由を大きく二つにまとめると次の通りだ。一つは学生の理解度が対面だけの時より向上したから。そしてもう一つは私が授業をやっていて楽しかったからだ。ここでは,この二点について詳しく説明していこう。

対面時よりも理解度が向上する理由

 この点については,①出席率が上がる,②録画映像を後から視聴できる,③授業中の質疑応答が増える,といった三つの要因があると考えている。

 私が担当した授業は火曜日の朝一だ。冬は通学したくないような吹雪の日,極寒の日だってある。または前の晩に遅い時間まで課題に取り組み,寝坊してしまうことだってあるだろう。対面でしか受講できなければ,「まぁ,一回くらい休んでもいいや」となる人も,オンラインでも受講できるので,「今日はZoomにしとこ」となる可能性が高いのだろう。私の授業の出席率と出席者に占めるZoomの割合の推移を表にまとめた。

出席率推移

 講義科目でここまで出席率が高いのは驚きである。そして,Zoom率がグッと上昇している3つの転換点には,それぞれ原因がある。まずは第6回授業(11月10日)。3日前の11月7日,北海道は新型コロナの警戒ステージを3に引き上げたのだ。
 次に第8回授業(11月24日)。前週の11月18日,北大は行動指針をレベル2に高め,一部の対面授業はオンラインに移行した。受講生の中には,同じ曜日の対面授業がオンラインになったので,この授業のためだけに電車で一時間かけて通学するのは止めにしたという人もいた。
 そして最後に第13回授業(1月5日)。年末に帰省したから対面は遠慮した,帰省先の実家から受講しているといった学生が見られた。
 なお,最後の第15回授業は期末試験を行った。Zoomで受験する場合は公平性を保つために一定の条件を課したためか,ほとんどの人が対面で試験を受けた。

 授業を担当している者としては,はっきり言って一回でも休まれると困る。われわれ教員は,15回のうちどこで何を学んで,ここでアウトプットさせてみて,などと授業の到達目標に向かってステップアップしていけるように授業スケジュールを組んでいるのだ。たとえば,連続ドラマを一回見逃してしまうと,次回見たときに内容がわからない,ついていけなくなるといったことがあるだろう。それと同じで,毎回出席してしっかり学び続けてもらうことが教員の責任を果たす上で重要なのだ。

 しかし,ハイブリッド授業では,Zoomが自動で授業を録画してくれるのだ。最近のテレビでもあるように,授業でも見逃し放送ができるというのはなんとも素晴らしい。私の授業アーカイブの視聴回数は下の表にまとめたとおりである。

アーカイブ視聴回数

 さほど多くないかもしれないが,欠席したので自習する人や復習のために視聴する人が少しでもいるのであれば,録画映像を公開する意義はあるだろう(ほとんど手間はかからない)。

 そして最後に,授業中の質疑応答が増えるという点を説明しよう。講義の場合,学生に与えたい知識量が多くなって,どうしても教員が一方的に話す時間が長くなりやすい。「はい,じゃあここまででわからないことある人は質問して」と言っても,そこまでの講義を頭の中で整理してパッと質問をする(しかも大勢の前で),というのは学生にとっても容易ではない。教員も学生の顔を見渡しはするものの,時間もないし何となく伝わっているかなという体で授業を進めてしまう。
 それがCommentScreenを使っていると,その場で思いついた質問を気軽にパパッと投げかけてくるので,講義が非常にやりやすい。重要な質問にはすぐに答えられるし,後から説明する部分と関わるなら後から出てくるよと言うかスルーしても良い。学生の頭に浮かんだ疑問や意見が常にスクリーンに流れてくる,それを見ながら講義ができる,有り難いことこの上なしだ。CommentScreenについては,以前こちらにまとめている。
 なお,CommentScreenへの投稿は主にZoom参加者がしているようだ。授業中にスマホを弄ることは禁じているが,CommentScreenなら良いと許可している。対面受講者に聞いたところ,そうは言われても授業中にスマホは出しづらいと言う人もいた。そのせいもあるかもしれないが,授業後に毎回必ずいろいろな対面受講者から質問が来た。時には並んでまで。恥ずかしながら,こんな光景は教員人生で初めてだった。なぜだろうか。授業中にCommentScreenで飛んで来る質問に答える姿を見て,この先生は気軽に質問しても良いんだという雰囲気ができあがったのかもしれない。

 以上の要因から,私は対面だけの時よりもハイブリッドの方が理解度が上がったのだと考えている。もちろんまだ1回しかこの形態で実施していないので断定は出来ないが,次年度以降も継続して様子を見ていきたい。

授業が楽しい

 さて,私がハイブリッド形態を続けようとするもう一つの理由を取り上げよう。もはや説明するまでもないように思うが,授業をやっていて楽しいのだ。
 この授業を通じて友達になった受講生同士が学生らしい会話をしている様子,授業中は真剣に話を聞いてノートを取り,ディスカッション時は待ってましたとばかりに議論が弾む様子。Zoom参加者は,授業前の雑談や休憩時にコメントで話しかけてくれる,授業中はたくさん質問してくれる。そして何より学びに対する姿勢が真剣で,課題レポートの質も高い(採点は大変でヒイヒイ言いながらだったが,興味深く読むことができた)。対面授業が楽しくなかったということではない。オンライン受講者を交えたことで,受講生との一体感,一緒に授業をやっているという感覚が得られやすくなったのだと思う。

ハイブリッド授業の質を追求すべきではないか

 私は,講義形式の授業はこのようなハイブリッドが標準形態になって良いと思っている。学びのスタイルは人それぞれあって良い。学生にとっては,時間の価値がよくわかるようになるだろう。出かける準備をして教室まで時間をかけて移動し,90分拘束されて授業を受ける。それだけの価値がある場合もあれば,空いた時間を別のことに有効活用できる場合もあるだろう。授業を担当する教員も,そこから学ぶ学生も共に互いの時間を無駄にしないよう,授業形態を改めて考える必要がある。

 早く対面授業に戻りたいと願う教員も学生もいる。しかし私はもう戻る必要はない,戻ってはいけないと考えている。教員も学生もやりたいことはいっぱいある。オンラインと対面を上手く組み合わせることで,時間を節約できるようになるだろう。そうであれば,やるべきことはハイブリッド授業の質を高めていくことだ。
 しかし,そこへ踏み込んでいくには,大学の方針が必要だ。大学が様子見をしている状況では,教員も覚悟ができない。同時に学生には,オンラインでも受講できる環境を整えるよう要請すべきだ。通信環境や受講デバイスが整わなければ,オンライン授業は成り立たないのだ。経済的に苦しい学生もいるので,そんなことはできないという声を聞くこともある。しかしその配慮は間違っている。たとえば,ネットは大学の教室を使えるようにするとか,パソコンやWifiルーターを貸与するなどがあるべき配慮というものだろう。目の前により良い教育があるのはわかっているけど障害があるから諦める,のではなくて,障害を取り除いてそこへたどり着く努力をすべきである。

 ということで,私は来年度も引き続きハイブリッド授業を行う。来年度は演習授業もハイブリッドでやってみる。私はオンライン授業にはZoomを使っている。頻繁にアップデートされていて良いのだが,授業用に開発されたツールではないので,対面授業のようにやりたいことを全て出来るわけではない。課題もあるが,上手く活用して,さらに良いハイブリッド授業が出来るよう学生と一緒に工夫していきたい。

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