人工骨頭置換術後の腸腰筋インピンジメントについて考える
導入 - なぜこの記事を書こうと思ったのか -
前回の記事でも書いたのですが、BHAを施行された後に股関節屈曲角度がなかなか改善しない患者様がいます。
股関節屈曲60°程度で、鼠径部の疼痛が出現し過緊張になるため、骨盤挙上などの逃避行動が見られるような方です。
X線での画像では術側の上前腸骨棘から大転子の短縮(要するに頚部が短い)がはっきりと分かるような方です。
エンドフィールに関しては骨性からの軟部組織性という感覚で、患者様の訴えとしては股関節の奥に詰まり感があり痛みにより力が入ってしまうとのこと。
加えて、大腿骨を少し牽引しながら股関節屈曲を行うことで可動域や疼痛の改善を認めている状態です。
考え方としてはインピンジメント(骨性)による疼痛で筋収縮(軟部組織性)のエンドフィールを感じることになっているのでは、と思っています。
そして牽引することでインピンジメントを起こしている箇所の軟部組織やステムと臼蓋の位置関係が改善されることによって疼痛が軽減しているのではないか…と考えています。
具体的なインピンジメントを起こしている軟部組織や、そもそもインピンジメントを起こしているのかは不明です。
しかし調べていくうちに「人工骨頭置換術後の腸腰筋インピンジメント」が起こる可能性があることがわかりました。
今回はこの症例をイメージしながらインピンジメントについて記事を書いていきたいと思います。
腸腰筋インピンジメントとは
腸腰筋インピンジメント(IPI)は、THA後3.7~4.3%の確率で出現するとされています。多くは腸腰筋腱と寛骨臼コンポーネント縁間の干渉により疼痛が生じるとされてます。
診断としてはCTなどの画像検査を用いてカップ前方の臼蓋の突出を評価したり、腸腰筋ブロックによる疼痛消失をみて確定することが多い。
治療としては、
腸腰筋と骨頭の間にある滑液胞(腸恥滑液胞)に薬液を注入
腸腰筋ブロック
寛骨臼コンポーネント再置換
腸腰筋切離
などがあげられます。
その中で、滑液胞に薬液を注入するのは約50%で症状が再燃するとされています。また、腸腰筋ブロックも長期的な除痛は得られないとされており、結果的に外科的な治療が必要になるといわれています。寛骨臼コンポーネントの再置換に関しては再手術時の負担が大きいことも考慮してあまり選択されることは少ないみたいです。明らかにカップに異常がある場合には選択されると思いますが…。
そのため、結果的に腸腰筋インピンジメントに対する治療としては、腸腰筋切離が選択されるようです。
なぜカップ前縁と腸腰筋腱がインピンジメントを起こすのか?
理由としては以下があります。
カップが大きすぎる
カップの前方開角が小さい
カップが大きすぎるというのは理由が明確ですね。
はじめにこのカップの大きさをどう決定しているのかを確認してみます。
まず術前計画として二次元テンプレーティング(X線写真)と、CTと専用ソフトを用いた三次元テンプレーティングの2種類で行われているようです。
二次元テンプレーティングでのカップの大きさを決定する方法
X線写真のみでは寛骨臼の前後径が不明なためカップの大きさを決定するのが困難です。そのため、女性では48~52mm、男性では54~58mmを使用することが多いようです。
反対側が正常な場合は健側とカップのテンプレートを合わせてみて大きさを測定し、その大きさ+6~8mm程度のカップサイズが選択されることが多いようです。
CTと専用ソフトを用いて三次元テンプレーティングでカップの大きさを決定する方法
寛骨臼の前後縁を確認し、前後壁を破壊しないような位置にカップを設置します。カップの中心は寛骨臼窩の後方に位置します。正しい位置が決まれば、カップの大きさは自然と決定されます。
この2つのことから、3次元もしくは、水平面でのCTがあれば今のカップが適切な大きさであるかを確認できますね。2次元のX線では大きくてカップの前縁がインピンジメントの原因になっているのかは明確化することができません。(大きさを見て明らかに大きい場合は水平面から撮り直してもらうとかの依頼してみる)
カップの前方開角を決定する方法
そもそも前方開角について言葉として知らなかったので調べてみました。
臼蓋は前下方を向いているというのは既知でしたが、その前方に向いている角度のことを前方開角というみたいですね。角度としては15°から25°が正常とされています。
両側の上前腸骨棘を結んだ線に対して垂直に引いた線を基準線とした角度になります。
カップもこの角度に合わせて決めるみたいですね。
前方開角が小さい場合(0°〜15°以下)では、カップが骨頭の前面を覆うようになってしまうため、股関節屈曲時に前方の組織でインピンジメントが起きてしまいます。
逆に前方開角が大きい場合(40°以上)では、カップが骨頭の後面を覆うため、股関節伸展時に後方組織とのインピンジメントが起こってしまいます。
腸腰筋切離はどうするのか?
付着部である小転子付近での腸腰筋切離の報告もあるようですが、再発例も報告されているとのことです。
切離はインピンジメント部で行うことでより確実な除痛効果を認め、良好な成績を納めていることからインピンジメント部での切離を選択するとのこと。
まとめ
上記の内容はTHAで、臼蓋のカップが寛骨臼に固定されていることでインピンジメントが起きる可能性があると言われている内容になります。
BHAはアウターカップと臼蓋軟骨間も動くので。しかし以下の場合でBHAでも同じような理由でインピンジメントが起こるのでは?と思っています。
アウターカップが大きすぎる
アウターカップと臼蓋軟骨間の動きが悪い
前方開角が小さい
また、第48回日本人工関節学会というもので、BHAでも腸腰筋インピンジメントを認めた症例についての発表があったみたいですね。
(内容をみたいけど調べてもでてこない…どなたかご存知ではないでしょうか…)
ひとまず次の出勤時にこの知見を持った状態でレントゲンを見てみます。
参考
人工股関節置換術後の腸腰筋インピンジメントに対して腸腰筋切離を行った2例
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai/68/1/68_37/_pdf
BHA・THA 人工股関節置換術パーフェクト 羊土社
https://www.yodosha.co.jp/yodobook/book/9784758118965/
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