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一生、カタチに残ってしまうモノだから

企画メシ第7回のゲスト講師として、数々の人気映画のスタイリングも手掛けるスタイリスト伊賀大介さんをお迎えして、スタイリングの企画が開催されました。

企画メシとは、電通のコピーライター阿部広太郎さんが主催する企画講座。この講座は、2部構成で、前半はゲスト講師へのインタビュー、後半が事前に提出した企画への講評の時間となっています。この記事では、前半のインタビュー部分をまとめています。


ひたすら、質問して、確認して、くり返す。それが伊賀大介の師匠への食らいつき方

高校1年生のときに、スタイリストになると決めていた伊賀さん。高校時代に、どっぷりカルチャーを武器に専門学校生活を過ごしていました。

そんなある日、専門学校の先生に、「あなた、本当に社会をなめてるから、社会にでたほうがいい。」と独学で日本のトップスタイリストに登りつめた熊谷隆志さんを紹介されます。

そこで、「お前、やる気あんの?」と熊谷隆志さんに声を掛けられたんだそうです。伊賀さんは、その話を受けてすぐに両親を説得を試みます。そして、専門学校を辞め、次の日から熊谷さんという師匠のもとにつくことになりました。そして、3年間で4日しか休みがない濃密な時期がスタートしました。

怒られても、怒られても、わからないことがあったら、とにかく質問する。聞かないでいると、後悔の残るスタイリングがカタチに残ってしまうから。そんな仕事はできない。

いきなりプロの現場に、素人が入り込むことになった伊賀さん。プロの現場で、裾上げを間違えたりすると、一生カタチに残ってしまう。だからこそ、師匠への食らいつき方は、ひたすら、質問して、確認して、繰り返していたんだそうです。


対話してみないとスタイリングは、はじまらない

「話してみないと、どういうスタイリングにすればいいかわからない」という伊賀さんは、対話をとても大事にされているんだそうです。流行している服を「絶対にいまこれ着たら、かっこいい。だから、これでいいでしょ。」という不遜な仕事は絶対にしないと強く語っていました。

たとえば、レコードジャケットを、ミュージシャンの世界観を壊すカタチにしちゃいけないと常に意識をしています。その歌、歌詞、曲、作品を作るのにすごい努力して、ものすごい長い時間費やしているかもじゃないですか。僕らスタイリストは、最後のワンタッチに関わるんです。レコードジャケットは、残るんですよ。
録音する音楽よりも、ビジュアルが世の中に残ったりする。だから、最後のタッチのところで、彼らの世界観を壊すものになってはいけない。すごく曲にあっている、というか気に入ってほしい。俺たちのレコードなんだなというものに、なるべく近づけたい。

だから、「アーティストがどういう表現をしたいか」と「伊賀大介のやりたいこと」の交わるところを提案する。一人一人に対して、話を聞いて、スタイリングを考えるというかなりオーダーメードに近い感覚。

対話ができれば、「それよりはこれがいい。」や「それいいかもね。」となる可能性がある。「なにを考えて、伊賀大介はこの服を選んだんだろう?」が伝わらないとスタイリストの仕事ではないという、プロ意識がそこにはありました。


言い続けること、好きの境界線のハードルを高めること。そうすれば、やりたい仕事はやってくる

仕事は。やらなきゃいけないもの。それだけでいっぱいいっぱいになってしまう時があります。しかし、伊賀さんにとって、ひとつひとつの仕事がすごく自分ごとになっていました。できるだけ、自分ごととして仕事をして行くのが幸せなはず。自分ごとの仕事を引き寄せるためには、どうしているのかを伊賀さんが話してくれました。

やっぱり、言い続けることですかね。あとは、好きの境界線のハードルが高いほうがいい。ちょっと好きくらいだと、本当に好きな人に悪いなと思っちゃいません? だから、「それは、どう考えても俺でしょ!」という感じで自分を鼓舞できるように好きの境界線のハードルを高めておくんですよ。

そうやって、周りにも公言して、自分の好きの純度を高めて、周囲に伝えていく。テレビ東京で放送されたドラマ『宮本から君へ』の仕事は、「これ、絶対俺だろうと思っていた。これは俺じゃなかったら、違うと思うよ。」とずっと言い続けてきた結果、話が舞い込んできた仕事の一つなんだそうです。


プロになって、勝負できる必殺技を持っているか

伊賀さんは、独立する気もなかったときに、突然師匠から「お前、独立だから。」の一言で、決まったんだそうです。そんな伊賀さんは、アシスタントの独立に対してこんな想いを持っていました。

やるんだったら、ドラフト1位指名をもらうレベルまでになってからじゃないと、独立はさせたくない。でも、ドラフト1位で入っても、とにかく試合にでないと勝負にならない。だから、あなたじゃないとできない雰囲気をつくること。そして、プロになって、勝負できる必殺技をつくってもらいたいですね。今のうちに。

その雰囲気や必殺技をつくるために、伊賀さんは普段の仕事の中で、アシスタントの方たちとこう接しているんだそうです。

その人が、その仕事をやる必然性が、個性とか武器に繋がってるのがいいですよね。仕事をしていくと、その人の色が、少しずつ仕事に出てくるんですよ。そこをできるだけ、褒めてあげる。
あとは、補助線を引くことを意識しています。「こういう人と繋がると、いいのかもしれない」という出会いをさりげなくつくっています。補助線を引き終わったら、そのあとは、もう自分で頑張ってもらうしかないですよね。


インプットするという感覚を超えた、伊賀大介の知的好奇心

インプットという感覚ではなく、ほかにすることがないんです。笑
酒を飲むか、映画をみるか。という感じ。あとは、インプットすると、じぶんの経験値があがってきて、昔の作品を今見てみると、見える世界が違ってくるんですよね。

たとえば、黒澤明監督の「7人の侍」という作品を、昔見たよりも、今の観た方が圧倒的に面白いんだそうです。それは、伊賀さんがさまざまな映画作品に関わってきたり、「複眼の映像」という本を読んで、経験値をあげているからなんだそうです。この本には、「いかに脚本家になって、黒澤明監督とどう仕事をしたのか。インカム、モニターがな買った時代にどう映画を撮っていたのか。」が書いてあり、これを読んだ後と前では、作品の見え方が全然違うと。

また、映画のテーマは、だいたい5年ごとに変わってくるという話も出てきました。たとえば、Me tooというセクハラへの告発運動が全世界で広がっていったことで、すぐに『オーシャンズ12』が『オーシャンズ8』へ。『マーベル』も『ワンダーウーマン』になり、映画で描かれるものが社会の空気感でどんどん変化していっているんです。

だから、その時代のポップミュージックやラップミュージックがどういうことなんだろうなどを紐解くと全てが繋がることがある。それが、めちゃくちゃ面白いんだそうです。全然間違った解釈をするときもあるけど、友達と話して、理解を深めていく。そうすると時間が足りなくなり、インプットとかではなく、面白くなるからわかりたくなる。だから、時間がなくても映画や本、音楽を身を投じているとのことでした。


映画のスタイリングで、食べていける人、文化を育てたい

仕事に対する自負をもちながら、後身を育てていこうとしている伊賀さん。伊賀さんは、じぶんの仕事の時間軸を5、10、20年後の先を見ながら仕事されていました。そこには、こんな想いが込められていました。

映画とかカタチに残っちゃうので、できることは全部やっておきたいんです。ギャランティや環境などを全部含めて、「俺だけよければいい。」ではダメだと思うんです。
これからスタイリストになる若い子たちが、映画の衣装だけで食べていけるようにしていかなければいけないという使命を持ってるんですよね。文化を育てるみたいな。
ただでさえ、こどもが少なくなるので、特にちゃんと見せてあげたいんです。そうじゃないと、「なんでこんな大変な仕事をしなければいけないの?」と思われて、この仕事なくなっちゃうじゃないですか。


伊賀さんの企画を受けた後に、映画の見方がかなり変わりました。「なんでこの俳優さんは、この衣装なんだろう?」や「作品の序盤と終盤で、服が違うことには、きっとこんな意味があるんだろう。」など、今までよりスタイリングを意識しながら、映画を観るようになりました。観ることで、経験値があがる映画の楽しみ方を教えてもらえた。そんなスタイリングの企画でした。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございます!企画メシで、阿部さんや伊賀さん、企画メシ仲間たちからもらった熱量を、少しでもおすそわけできてたら、嬉しいです!

今回のスタイリングの企画のレポートも、ちょっと違った切り口でまとめたものもあります!こちらもぜひ、読んでみてください!

・企画メシ2018インターンの渡邉くんが書いてくれたレポートがこちら
・Careerhack編集部まっさんさんが書いてくれた記事がこちら

そして、今回の表紙のイラストも、ヤギワタルさんが描いてくれています。スーツでビシッと決めようとしているスタイリングのイラスト。いつもありがとうございます。ヤギさんのそのほかの作品はこちらから、ぜひ見てみてください。


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