詩「愛の詩の一息」

「愛の詩の一息」

詩の一行を書きつける前に
鳩尾からこみあげてくる一息を
ふっと吐くとき 漏らすとき
誰の声かと わたしは
ふりかえって
その声で書きつけるのだということを
わたしは知る

恋と熱病との違いを
あえて知らないままでいて
病を感染してしまうやもしれぬ
熟れた肺臓の
その一息で
倒錯した愛のための一行を
わたしは呼吸を止めて書く

呼吸と愛と
風船の赤いゴムの匂いのする
饐えた一息
よく熟れた肺臓は
わたしの読むのを待っていて
タバコの煙とコーヒーに汚れた
饐えた一息で
わたしが書くのを知っている

その一息が
夏の腐った花弁をかすめた 一息が
西風にのってあなたの鼻腔に届くとき
午睡の下敷きとなって
痺れた上腕の中から
じんわりと詩は肺臓ヘ流れ
あなたはわたしの詩を知って
よく陽に灼けたノートブックに
その一息で、書くでしょう

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