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自己紹介③「ホストになる」

 そういう言うことで、私は東京の有数の繁華街のホストクラブでホスト見習いとして働くことになりました。

私は入店した経緯が特殊だったこともあり、いい意味でも悪い意味でも、目をかけられました。

(当時のホストクラブの内情についてはそれだけで本が一冊かけてしまうほどの面白いエピソードがたくさんありますが、ここでは割愛させていただきます)。

もう毎日が逃げ出したいほどの嫌なことの連続でしたが、借金を返さなければならないので我慢するしかありませんでした。



 暴力や精神的な虐待も続けられると慣れてくるもので、普通に我慢できるようになってきました。

それにいじめてくるのはホストの一部の人たちだけで、彼らは自分たちがいじめられたことの仕返しを私にぶつけているだけなのだということも察することができるようになってきたし、大部分の先輩ホストは私には無関心でした。

そんな中でも、私に優してくれるホストがいました。Мさんです。



Мさんはとある地方都市出身で、なんとある業界のトップの実績と知名度をほこる有名人の従弟ということでした。

本名の 苗字もその有名人と同じだったし、後になってもっと親しくなった後で、その有名人のサイン色紙をもらってきてもらったので、おそらく真実だったと思います。

彼自身はその地元の地方都市でトップの進学校に通っていましたが、大学にはいかず、ふらっ上京したとのことでした。

たしかに彼は記憶力が抜群で聡明なところがありました。

もしかしたら、私のインテリ崩れの風体に親近感を持ったのかもしれません。

他にも高学歴を売りしていたホストがいましたが、Мさんほど親しくはなりませんでした。


 とにかくМさんは、私にいろいろなことを教えてくれました。

5歳ほど年下でしたが、私はМさんからホスト業界について多くことを教わりました。

それどころか、ホスト業界に限らず、女性全般について、女性の扱い方、女性への接し方など、多くのことを教わりました。

店長であるRさんも厳しいながらもホストの基本(挨拶の仕方、服装や身だしなみ、接客態度、酒の薦め方などなど)を丁寧に教えてくれましたが、店にどうやって利益をもたらすかという表面的なことが多かったのに対して、Мさんはもっと奥深い、精神的な部分というか、本質的な部分を私に授けてくれました。

 

Мさんの女性の接し方や話し方。

同僚との付き合い方、普段の立ち居振る舞い。すべてが私の手本となりました。

このときМさんから学んだことが、それ以降の私の女性についてあらゆることの基本となっています。


 その詳細についてはまたの機会にさせていただくとして、ひとつだけ紹介させていただくと、それは「女をメスにしろよ。そして、お前もオスになれよ」ということでした。

つまり、女性から理性的・社会的な存在としての自己の殻を完全に取り除かせて、欲望が抜き出しにできる動物的な存在を露出させる、そのためには自らも動物のオスにならなければならない、というぐらいの意味だったと思います。



 私が働いていたホストクラブはかなりグレードの高い店で、お客である女性も相応の地位や財力を持った女性も数多くいました。メディアで知られた有名人もいました。

世間的にはお堅いイメージをもっている彼女たちも、ホストクラブに来るとまったく別の顔を見せはじめます。

SかМかの違いはありますが(つまりホストに対して支配的にふるまうか、従順にふるまうかの違い)、彼女たちは普段は押し隠している自分の欲望(性的だったり、支配欲だったり、暴力性だったり、非日常性だったり)を剥き出しにして、ホストたちにその心の奥底にある欲望をぶつけるのです。

店内の場景は性的な興奮と感情の暴発、酒とお金が入り混じった壮絶なものだったで、Мさんの教えは正しいのだといつも実感していたものです。



 Мさんの教えもあり、最初はヘルプ(お好みのホストの代わりに女性客を接客する)ばかりだったのですが、私を指名してくれるお客もあらわれはじました。

しかしすぐに頭打ちになりました。

店長やМさんの教えをちゃんとノートに記録して、それらを正確に記憶して、それらを実践していったはずですが、どうもお客である女性たちとの距離感みたいものが埋まりません。

原因は自分でも薄々分かっていました。

それは何をしゃべったらいいのかわからないという不安、

自分のことはいったいどう思われているのかという不安、

「いったい自分はこんなところで何をしているのか」とか、「こんなことをしている自分は本当の自分じゃない」といった思い

が抜けなかったのです。


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