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「ファッション業界のサステイナビリティ施策は、生き残る為の唯一の手段である」事に気づいた

2年ほど前だろうか、原宿ラフォーレのヴィヴィアンのウィンドウに「Buy Less Choose Well」のメッセージが掲げられた。

当時それほどサステイナビリティの重要性に気づいてなかった僕は、あー、ファストファッションに対しての過激なメッセージだな、と推測した。そして、大きな誤解だった事にようやく気づいた。

1990年頃から、日本のファッション市場が2/3の規模になっている事は良く知られている。15兆円が10兆円っていうやつだ。だが、供給点数が約倍になっている事はあまり知られていない。20億点が40億点に増えている。日本国民全員が、年間に30枚以上新品の洋服を買わなければ消費できない数量だ。そして、商品単価は40%減になっている。昔は1万円で売られていたものが、今は6千円と言う事だ。一方で、商業施設はどんどん増えており、同期間でざくっと1.5倍の床面積だ。首都圏に限るともっと増えている。統計だけ見ていると、とても参入したい市場ではない。参入している側から言うと、何が大きく変わらなければ、生き残れないと言う事だ。

そして、大きく変わる為に、日本のファッション業界は劇薬としてのファストファッションを受け入れた。そして自らもファストファッションを真似し、価格競争に参入した。ファストファッションが仕組みとして必要とする、トラフィックの多い一等地の巨大な店舗を、日本のデベロッパー各社は喜んで差し出した。政府国策の尋常ならざる支援を受けている不動産会社は、無尽蔵に商業施設を作り、アンカーテナントにグローバルファストファッションをタダに近い家賃で入れる。その後は日本のファストファッションを目指すアパレルにあの手この手を使って高い家賃で出店させる。そして見込んだトラフィックが継続する訳もなく、みんな苦しむ。

グローバルカンパニーは合理的な経営をするので、当然見込みがないとなれば撤退する。オールドネービー、アメリカンイーグル、フォーエバー21。アメリカ勢の方がより短期的に合理的なので、どんどん撤退する。撤退した後の焼け野原で、残されたプレイヤーは更に苦しむ。

日本のメディアはファストファッションの撤退に伴う閉店セールで、「1枚百円です!」などと煽る。消費増税の還元で何%引き、キャッシュレスで何%キャッシュバック、何億円のお年玉、ハウスカードの常時何%割引。日本一の経済新聞系列の番組でさえ、バッタ屋が1000円で仕入れても、売れなければ100円で売りきると言うことを美談として伝える。

世の中、おかしくないだろうか?なぜ割引が無ければものが売れない世界をみんなで作ってるんだろうか?

真っ当な価値の商品を真っ当な価格で売り、お互いが利益を享受する。それが商売の基本だと教えられてきた。真っ当な価格で売れない商品は仕入れなければ良い、真っ当な価格で売れない量は仕入れなければ良い。在庫も残らないし、キャッシュも残るし、利益率も保てる。唯一影響を受けるのは売上だ。その、売上至上主義を捨てれば、良い世の中が少しは見えてくるのでは無いか。

フェラーリは、新モデルを生産する際に、顧客のニーズより1台少なく計画すると言う。究極のサステナブルモデルだと思う。作り手もお客様も社会にもハッピーを与えている。リセールバリューだって、上がる。

売上至上主義さえやめられれば、色んな事が真っ当に戻る。良いものが作れる、供給が減る、在庫が減る、値引きが減る、利益が残る、研究開発に投資できる、新しい事業にチャレンジできる。自国で十分に稼ぎ、伸びゆく海外マーケットにチャレンジできる。

日本人の本来の美徳である、「母親から引き継いだ着物を娘に引き継ぐ」慣わし。ヴィヴィアンがとても綺麗に言い換えてくれた。「買う量を減らしなさい、よく選びなさい、長持ちさせなさい。量では無く質だ。みんな、めちゃくちゃに服を買いすぎている」

環境に良い素材を使うとか、資源を循環させるとかも重要だ。だが、その前にやるべき事がある。作りすぎない事だ、売り過ぎない事だ。作りすぎなければ、経営も良くなるし、環境にも良い。売りすぎなければ値引きも起きない。そんな市場を創る事を、日本のファッション業界の経営者は本気で考えるべき時期だ。もっと言うと、変わる事ができる唯一のチャンスかもしれないと思う。



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