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企業行動論講義note[02]「どんだけ欲望が充たされたか、それが価値である:欲望充足の主観的強度としての価値」

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この内容は、第1講の〈その2〉に当たります。
なお、このnoteはクリエイティブ・コモンズ・ライセンス「表示-非営利-改変禁止」です。

みなさん、おはこんばんちわ。やまがたです。

前回の[01]「生きるとは欲することである:ビジネスの出発点としての欲望」では、ビジネスの出発点となる〈欲望〉に関する基本的な点についてお話ししました。

今回の[02]では、この講義の最重要概念でもある〈価値〉〈価値創造〉について考えます(価値創造については、[03]でお話しします)。

〈価値〉という言葉は、別に珍しくも何ともありません。日常的な会話でも頻出はしないかもですが、それなりに使う言葉です。しかし、その捉え方、定義はまことに多様です。学者のなかでもさまざまに分かれています。そのなかでも、この講義では〈価値〉を主観的なものとして捉えます。これについては、のちほど説明することにしましょう。

[ここでのキーワード]
価 値:欲望充足の主観的強度。ある主体が抱いている欲望が、何らかの効用給付(財)からもたらされる効用によって、どれだけ充たされたのか。
価値創造:他者に〈価値〉をもたらすことで、自らも何らかの〈価値〉を得ることができている状態。

【参 考】価値をめぐる2つの立場
〈価値〉という概念を考えるとき、「主観主義的立場」「客観主義的立場」の2つにわけることができます。前者は価値が受け取る側(享受者)の主観的な評価によって決まるとする考え方で、後者は価値がモノやコトといった対象それ自体に備わっているとする考え方です。この整理もきわめて大雑把なものです。今ここで価値をめぐる議論の歴史をたどる余裕は、残念ながらありません。この講義では、基本的に前者の「主観主義的立場」を採るということだけお伝えしておきます。

「価値がある」ってどういうこと?

[01]で、私は「生きることは、欲望することである」「欲望を充たす内容を効用と呼ぶ」ということをみなさんにお伝えしました。

繰り返しになりますが、「食べる」という行為で考えてみましょう。

[食べる]
欲 望:「おなかがすいた」「おいしさを味わいたい」など
効 用:「口に入れて、おなかの空き具合がみたされる」「おいしいと感じられる」など

例えば、みなさんの今日の朝ごはん(お昼ごはんでも晩ごはんでもかまいません。おやつでもけっこうです)、いかがでしたか?

もし、あなたの抱いていた欲望が効用を通じて充たされていたとしたら、おそらくポジティブな感情状態になっているのでは?

「価値」とは、まさにここで生まれるのです。

わかったような、わからんような気分になった方もいらっしゃるかもでしょうから、もう少していねいにみていきましょう。

人間の欲望はつねに充たされるとは限りません。ただ、何らかの効用を得ることができて、それによって抱いていた欲望が充たされたら(あるいは、充たされなかったら)、そこでひとは〈評価=価値づけ〉をします。

ここまでくると、〈価値〉という概念について、ちょっと予想がつくんじゃないかなと思います。この講義では、〈価値〉を以下のように捉えることにします。

価 値:
ある主体が抱いている欲望が、何らかの効用給付(財)からもたらされる効用によって、どれだけ充たされたのか=欲望充足の主観的強度

この価値の概念は、きわめて重要です。特に、「主観的である」という点。

主観的であるということは、別の言い方をすれば「人によって異なりうる(違う可能性がある)」ということです。

例えば、山縣は能を観るのが大好きです。このnoteは受講生以外にもオープンにしてますので、もしかしたら「私も能が好き!」っていう方もいらっしゃるかもしれません。が、大学生で「能を観るのが大好き!」っていう人は、残念ながらそう多くはないように思います( ;∀;)

一方で、私は(講義で事例として採り上げますが)テーマパークにあまり関心がありません(笑)「夢の国」や「○○J」に行きたいと思ったこともほぼなく(前者には、すごーく前に行ったことはありますw)、ましてや年間パスポートを欲しいと思ったこともありません。けれども、(コロナウィルス蔓延の状態では、そもそも開園していませんが)年パスを買ってでも行きたいと思う人は当然いることでしょう。

あるいは、私が好きなものの一つに“万年筆”があるのですが、わざわざそれなりの金額を出してまで、「何でそんなん買うん?」って感じられる方も少なからずいらっしゃるはず。

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ここにこそ、〈価値〉という概念のポイントがあります。

経営学でも〈価値〉という概念は、まぁまぁよく出てくるものの一つです。特に、マーケティングや私も強く関心を持っているサービスデザインなどの領域では頻出します。そもそも、マーケティングは消費者の欲望の多様化とともに発展してきたわけです。そう考えると、〈価値〉を主観主義的な立場から考えるのは自然なことといえるでしょう。

ひとはそれぞれ違います。だからこそ、さまざまな価値が存在しうるのです。音楽や文芸作品、絵画、演劇などでも同じです。さまざまな価値が存在しうるからこそ、世の中は楽しくなるのです。

【価値と貨幣】
じゃあ、さまざまな価値が存在しうるとして、それを手に入れるためにどうすればいいのかという問題が出てきます。違う効用によってもたらされる価値を比較することは、厳密にはできません。

そのための共通手段として、人間が歴史のなかで生み出してきたのが〈貨幣〉です。〈貨幣〉は、一般的に以下の3つの機能を持っているといわれています。
(1)価値の測定尺度:
違う効用がもたらす価値を、いったん数値化して測定・比較できる。
(2)価値の交換媒体:
多くの人がそれを交換に用いることで、さまざまな効用給付を得るための共通媒体となりうる。
(3)価値の貯蔵:
劣化しない(数値データだけで保存できる)ので、いつでも交換に利用できるように貯蔵することができる。
※ 最近は、あえて時限付きの電子マネーを流通させようとする試みもあります(「腐る貨幣」という表現もあります)。

価値と貨幣(貨幣数値によって示される〈価格〉)の関係は、昔も今も議論される領域です。みなさんも、ぜひ考えてみてください。

効用給付の連鎖=経験からもたらされる価値。

さて、ここまではすごく根本的・原理的な〈価値〉の概念についてみてきました。もう少し具体的なイメージを持っていただくために、前回ちょっと採りあげた事例をもとに考えてみることにしましょう。もちろん、架空の設定です(笑)

【ケース】一緒に「夢の国」へ行くという経験がもたらす価値
[シチュエーション]
※ちなみに、コロナウィルスが蔓延していない状況です。
好きな人と「夢の国」に行きたいって思い立ち、旅行の計画を立て、一緒に行って、帰ってからも思い出にひたる。

①誘う&プランを立てる
X哉はA美と一緒に「夢の国」に行きたいと考えた。もともと、A美が「夢の国」大好きなので。日程は確認して、しっかり確保。かといって、二人ともお金がそんなにあるわけでもない。行きは夜行バスで、帰りは新幹線に。何なら、ちょっとサプライズも入れてみようかと。ホテルだけは、例のところで。金欠やけど、今回はがんばる( ;∀;) そのためにバイト詰めたんやし。

②出 発
いよいよ当日。梅田の夜行バス乗り場で待ち合わせ。夜行バス、すごく快適というわけではないけど、まぁこれからなので、これくらいなら辛抱できるかな。

③バス下車
朝。無事に到着。ぐっすり寝れたってほどではないけど、それなりには。そんなことより、早く「夢の国」へ着きたい。

④「夢の国」へ
荷物をロッカーに預けて、「夢の国」へ。近づくほどに、気分がどんどん上がっていく。A美も盛り上がってる。

⑤「夢の国」
もう、まさに「夢の国」。最高。あれやこれやアトラクション満喫しまくり。グッズ買いまくり。

⑥「夢の国」からサプライズへ
○○パレードも終わって、閉園時間。じつは、まだどこに泊まるかは伝えてない。出てすぐそこに。A美、驚喜。

⑦朝、再び「夢の国」へ
夢見心地もそのままに夜は明けて、再び「夢の国」。楽しくないわけがない。

⑧名残は惜しいけれども、東京駅へ
そろそろ帰る時間。まだまだ楽しみたいけれども、門をあとに。帰りは新幹線で。夜行バスよりも早いし、楽。しゃべっているうちに新大阪到着。

⑨家への帰り路、帰ってから。
それぞれの家路に別れてからも、L**Eでやり取り。余韻は残りまくり。家についても、まだL**E。アルバムに増えていく写真の枚数たるや。

これはあくまでも架空の事例です。ぜひみなさんも、自分が体験したことのある〈経験〉を素材に、その一連の流れをこんな感じで分析してみてください。

ここで、〈経験〉という言葉を用いています。日常的な意味合いと重なるのですが、企業行動論(サービスデザインの領域での用法にもとづいています)では、以下のように定義しておきたいと思います。

経 験:ある主体が、環境との相互作用のなかで繰り広げる(展開する)思索や行為、行動の連鎖。この〈環境〉はさまざまな効用給付のネットワークとして描き出すことができる。

さて、ここで登場してくるX哉やA美にとってみれば、この一連から得られる充足 / 満足こそが〈価値〉になります。それをより細かく見ていくと、さまざまな効用給付が、それぞれに効用をX哉やA美にもたらし、それらがつながっていって、二人に充足 / 満足をもたらしていることがわかっていただけるかと思います。

ちなみに、こういうのを図式化してあらわしたものを〈カスタマージャーニーマップ〉といいます。企業行動論の講義でものちほど触れるかと思いますし、後期の企業発展論の講義や、前期のビジネス実践B、後期の特殊講義K(デザイン経営の基礎)でも採りあげます。

ここで大事なことは、「さまざまな効用給付の連鎖が、ある主体に効用の連鎖としての〈経験〉をもたらす」という点、「この〈経験〉をした主体がどんな充足を感じるのか」、ここに〈価値〉という概念の最重要ポイントがあるっていう点なのです。

この考え方は、後の講義で説明する〈サービスドミナント・ロジック〉という枠組に立脚しています。ここ数年、この枠組の重要性が徐々に認識されるようになってきましたが、今回の新型コロナウィルスの蔓延によって、その重要性は今まで以上に高まると考えられます。これについては、また追々説明しましょう。

では、この〈価値〉を創造する、とはどういうことなのでしょうか?

ここについても一気に述べたいところですが、ちょっと分量が多くなりすぎるので、今回は「〈価値〉とは何か」で話を切っておきたいと思います。今回の内容はすごく重要なので、みなさんもご自身の今までの〈経験〉をふりかえりながら、その〈経験〉によってどんな充足や満足を得られたのか、捉え返してみてください。

おさらい。

ここの内容は、この講義にとってものすごく重要なポイントです。

☆〈価値〉は受け手(享受者)が、その効用給付(の連鎖)からもたらされる効用によって、どれだけ欲望を充足できたかによって決まる。

この点を、今回はぜひ理解してもらえればと願っています。

〈価値〉があるかどうかを窮極的に決めるのは、受け手(享受者)です。これは、「発し手(提供者)が何を生み出そうが、そんなことはどうでもいい」という意味ではありません。むしろ、受け手(享受者)は自分が何を欲しているのか意識していないことのほうが多いのです。

ある製品やサービスに接して初めて「これが欲しかってん!!」って感じること、ありません?

となると、発し手である提供者は、受け手が何を欲しているのかをとことんまで考え抜く必要があるわけです。ここが、次回のテーマ「価値を創造する」のポイントともなります。

抽象的でちょっと難しかったかもしれません。でも、この〈価値〉の概念を理解してくださるかどうかが、この企業行動論にとっては最初の重要な分岐点です。

と同時に、プロジェクト型の学びをやってみたいって考えておられる方にとっても、この点はすごく大事です。「自分たちは、プロジェクト先や、さらにその先にいるお客さんに、どんな満足をもたらせるのか」という姿勢をもつことが、プロジェクト型の学びの成否に直結するからです。

なので、わからなかった場合は(受講生限定ですが)、オンタイムでの質疑応答の際にいろいろ質問してみてください!

次回は、「価値を創造する、とは、どういうことか」について考えます。

んじゃ、また次回に。
ばいちゃ!


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