見出し画像

短編小説「再会」

  短編小説「再会」    山瑠璃草

 いつものバスターミナルの バス停に並び、何気なく前を見た僕は一瞬 目を疑った。横顔は確かに君だった。こんな所で君に会えるなんて、そう思いながら君を見ていた。

 好きになった人だから、今も君が眩しく見える。素知らぬふりをしてるけど、君の方が先に気づいていたのかも知れない。そんなことを考えたりもした。
 君はもう僕の手の届かない人。腕時計を見ながら僕も素知らぬフリをして、待合室の中に逃げ込んだ。当然次のバスは見送ろうと思った。君に気づかぬフリをしたまま。
 君の乗るバスが来た。その時、気まぐれな自分がそこに居た。僕も気が付かないフリをしていたのに、君に気づいて欲しいという気持ちに変わった。そして待合室の入口を出た。

 バスターミナルに佇む、紫色のコートの君。
振り返ることもせず、発車待ちのバスのステップに片足を乗せた。素知らぬフリをしていた君だったが、今は明らかに見えなくなった僕を探している。僕は気づかれまいと待合室に逃げ、遠巻きに君を見ていた。

 けれど、もう隠れることはやめよう。僕は入口を出て、君の乗ったバスに近づいた。君は僕を見つけ、ハッとして少し顔を俯けた。
 僕は車窓の外からバスの中の君を見つめた。
君も僕を見つめていた。
君は声にならない言葉を投げかける。

 しかしそれも束の間、バスは二人を引き離すように、ゆっくりと発車した。
「僕も…、君が忘れられないんだよ!」
声に出さずに、そう答えた。

 言葉の行き違い、別れたあの日、涙と後悔
 そして今、時のいたずらか、偶然の再開。

君の乗ったバスを追う目に涙が溢れた。
やがて来た次のバスに、僕は乗った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?