会いに行けるジャズシンガー あづみさん
あづみさん、というジャズシンガーがいます。
2ヶ月に1回、梅田の小さなジャズバーで彼女のライブが行われます。
ライブステージは、グランドピアノがスペースの3分の1を占めてしまうほどのサイズ。そのため、彼女のライブでは楽器が2つだけ。ピアノとギターだったり、ピアノとベースだったり。
ステージといっても、客席から1段高くなっているわけでもありません。
バーの奥まったスペースにグランドピアノが設置されており、そのすぐ隣にスタンドマイクがあるので、誰が見たってそこが客席とステージの境界だな、とわかるだけのことです。
そして、スタンドマイクの隣に畳半畳ほどのスペース。ここはギタリストやベーシストのためのスペースです。
ジャズシンガーとたった2つの楽器で創作されるジャズライブ。
台風上陸を翌日に控えたある日、そんなあづみさんのライブを聴くために、私はジャズバーを訪れました。
雲はどんより、風もやや強く吹いており、これから起こるであろう大嵐を予感させますが、そんな中でもジャズバーはあづみさんの歌声を聴こうと多くのファンでいっぱいでした。
バーに入った私はカウンター席へ。バーといえばカウンター席、という私の勝手なイメージを先行させただけのことですが、どうもカウンター席が落ち着くのです。
ハイボールを注文し、カラカラと心地よい氷の音を楽しみながらハイボールを味わっていると、すぐ横にあづみさんが話しかけに来てくれました。
「今日は来てくれてありがとう」
バーの客の多くはあづみさんのファン、そんな中で、たった一瞬でもあづみさんを独占できるのは至高の喜びです。
実は、私とあづみさんには「自身の本の出版」という共通の夢があるのです。
あづみさんは一足先にその夢に手をかけており、今は編集者の指示のもと目下原稿を修正中。
そんな互いの夢の話をしていると2時間くらいかかりそうでしたが、あづみさんは今日のライブの主役です。
夢の話もほどほどに、ゆっくりとステージへの去って行くあづみさん。
ステージといってもピアノとスタンドマイクが設置されているスペースへと移動するだけのことですが、あづみさんがそのスタンドマイクの前にたった瞬間、そこは紛れもないジャズライブのステージへと変貌したのです。
あづみさんのジャズシンガーとしてのオーラがそうさせるのかもしれません。
実際、ステージで歌声を披露するあづみさんは、先ほどまで互いの夢の話をしていた人とはまるで別人です。
ステージ上のあづみさんは圧倒的な存在感と極上の歌声でファンを魅了。そこにピアノとベースが重なると、まるでジグソーパズルのピースがピッタリとハマるように、最高のジャズライブの完成です。
「この時間がいつまでも続けばいいのに」
そんな想いもつかの間、私のスマホに無情の仕事の電話が入ってきました。
私は途中で帰らざるを得なくなりましたが、最高の時間を過ごすことが出来たのです。
その日は台風上陸の前日、急いで帰って台風への備えをしなくちゃ、と我に帰った私でした。
帰る前にあづみさんと2ショットを撮ることに成功しました。
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