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プロレス名試合①

ここまで、プロレスの魅力、レスラーのストーリーについて紹介してきた。
今回は具体的にプロレスを知らない人にも是非ご覧頂きたい試合を紹介していきたいと思う。

世界ヘビー級王座選手権試合 HHH VS ショーン・マイケルズ VS クリス・ベノワ

こちらは世界最大の団体、WWEから。
未だにこれ以上に感情を掻き立てられる試合を自分は知らない。恐らく今後も現れないだろう。その理由は後述する。

この試合は、WWEで年に一度開催される最大の興行、レッスルマニアでのメインイベントとして行われた。

世界最大の団体での大一番の興行、さらにメインイベントかつ団体内の最高位の王座戦、勝利することは同時にレスラーの頂点に立ったことを意味する。

この戦いに臨むのは下記の3人。

現世界王者・HHH

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世界ヘビー級王者を10度以上戴冠し、技術・パワーともにトップクラスの実力を持ちながら、「知的な暗殺者 (Cerebral Assassin)」「ゲームの支配者 (The Game)」と称され、勝利のためには卑怯な手も厭わない狡猾さを兼ね備える、WWEの絶対的王者だ。

ピンスポが当たるときに水を口に含んで霧状の噴射するのが入場のお決まりなのだがこれがめちゃくちゃカッコいい。未だにお風呂で真似している。
たまにGパンにノースリーブバカデカGジャンという大胆なデニムオンデニムスタイルで登場したり、ターミネーターみたいな鎧を身に着けたりと、常人には理解できないセンスの登場をすることもあるのだが、それはまた別の機会に。


挑戦者 ショーン・マイケルズ

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通称「ショー・ストッパー」。レスラーとしての圧倒的な華や、観客をどんどん魅了させていく試合運びで、呼び名の通りまさに主役と呼ばれるにふさわしいレスラーだ。HHHや以前記事に書いたアンダーテイカーを「世界最強」とするならば、マイケルズは「世界最高」というところだろうか。

ちなみに、入場テーマ曲は「Sexy Boy」。マイケルズ本人が歌っている。(実際は音痴過ぎてめちゃくちゃ修正している)

歌詞はこんな感じ。

I think I'm cute, 俺ってカワイイよね
I know I'm sexy. そんでもってセクシー
I got the looks, このルックスで
That drive the girls wild. オンナをワイルドに乗りこなしちゃうぜ
I got the moves, テクもすごいぜ
That really move 'em. マジすげえ動き
I Send chills up and down their spine. みんなの脊髄をシビレさせちゃうぜ
I'm just a sexy boy. 俺はセクシーボーイだぜ
(Sexy Boy) (セクシーボーイ♪)
I'm not your boy toy でも俺はあんたの坊やじゃねえぜ
(Boy Toy) (坊や~♪)
I'm just a sexy boy. 俺はセクシーボーイだぜ
(Sexy Boy) (セクシーボーイ♪)
I'm not your boy toy でも俺はあんたの坊やじゃねえぜ
(Boy Toy) (坊や~♪)

正気か!!???

と言いたくなるような歌詞だが、それでも本当にカッコいいと思わせる、正真正銘のセクシー・ボーイだ。

挑戦者 クリス・ベノワ

ベノワ

180cmとWWEのヘビー級レスラーにしては小柄な体格ながら、卓越したテクニックと荒々しいファイトスタイルが魅力のいぶし銀のレスラー。

通称「ザ・クリップラー(The Crippler)」「凶獣(The Rabid Wolverine)」「歯無き攻撃性(Toothless Aggression)」。
3つ目完全に悪口。確かに前歯欠けてたけど。

実力は申し分ないものの、あと一歩で王座への道を逃し続けてきた苦労人だ。

前述の2名とはうって変わって、ド派手な入場はなく、レスラーとしての華は少し見劣りしてしまい、彼らの様な華々しい経歴もない。


試合内容は是非動画を見て欲しい。結果だけ言えば実力者3人の試合は当然素晴らしいものとなり、ベノワが世界王座を勝ちとった。


エディ

この試合最大の名場面は、試合後にある。
苦難の道の先に栄光を掴んだベノワのもとに、エディ・ゲレロが現れる。

彼もまた苦労人で、ベノワと日本・アメリカで下積み時代から寝食を共にしてきた親友であり、この日彼と同じく激闘の果てに王座を手にしていた。

決して恵まれているとはいえない体格で、長年辛酸を舐めながら、それでも腐らず戦ってきた親友二人の熱い抱擁、それを大歓声で称えるファンの姿はまさしくプロレスがリアルを超越した瞬間で、本当に感動的だった。当時12歳だった自分もめちゃくちゃ泣いた。トイストーリー3より泣いた。


試合内容・締めくくり共に素晴らしい結末を迎えたように思えたこの試合だったが、おそらく今後TVなど公の場で、この試合が語られることはほぼないと言い切れる。


その理由は彼ら2人がその後迎える悲劇的な結末に起因する。

WWEはその団体の規模ゆえ、新陳代謝が激しく、次から次へと次世代のスターを作り出そうとする一方で、パフォーマンスの落ちたレスラーは容赦なく切り捨てる、というシビアな一面もある。


レスラーの数は増えていくが、空いている枠は限られている。
エディやベノワもその例に漏れず、レスラーとしての実力・人気は非常に高いままなので、解雇などはされないものの、以前のようなメインイベントに絡むことは年を追って少なくなっていってしまった。

ただでさえレスラーという仕事は想像を絶するハードワークだ。肉体を維持するためのトレーニング、試合で身体はボロボロ、そのまま車で次の場所へ数百キロの移動、痛み止めを飲んでまた次の試合…


彼らの身体は常に限界ギリギリを行き来していた。



2005年エディ・ゲレロ急死。

死因は動脈硬化性疾患。日頃の痛み止めなどの薬物摂取が原因とされている。いつもと変わらず試合に出るつもりで、遠征先のホテルで眠るように亡くなっていたそうだ。

彼の死でプロレス界全体は大きな悲しみに包まれた。急死直後の放送では、全レスラーがリングに集合し、追悼を行った。ベビーフェイス・ヒール関係なくレスラーたちが大粒の涙を流している光景が、この衝撃の大きさを物語っていた。


親友のベノワにとってエディの死の悲しみは想像を絶するものだっただろう。追悼インタビューでもベノワは最後は嗚咽しながら泣いていた。
それでも彼は天国のエディに届くようにと戦い続けた、エディと同じように激痛を痛み止めで誤魔化しながら。




そして悲劇は連鎖してしまった。




2007年クリス・ベノワ 死去

出場予定だった試合をベノワは急遽欠場。翌日自宅で妻、息子とともに遺体で発見された。妻・息子を殺し、自ら命を絶つ無理心中だった。

痛み止めとして服用していたステロイド剤の過剰摂取、また彼が必殺技として使っていたダイビング・ヘッドバットに伴う頭部へのダメージから、彼の脳は85歳程度のアルツハイマー患者と同程度まで萎縮してしまっており、そこから引き起こされた判断能力の低下、鬱症状が動機とされている。

アメリカには無理心中と言う概念はなく、彼は多重殺人犯として扱われる。
エディのような追悼興行は行われず、HPから彼の情報は削除、その後の映像でも彼が大きく映し出されることはなくなった。確実とされていた殿堂入りもなくなった。クリス・ベノワというレスラーの歴史は表向きでは抹消されたのだ。

苦難を乗り越えて、頂点にたどり着いた男の結末がこれとは余りにも悲しすぎる。

彼は確かに許されない罪を犯したかもしれないが、彼が皆から愛される気高いレスラーであったことは変わらない。
その後WWEのCEO、ビンス・マクマホンが「WWEが彼を今後プロモーションすることはあり得ないが、彼が歴史上に存在したということを否定できない。」と語り、現在では歴代王者に名前が復活していたり、公式HPでも「クリス・ベノワ」という名前で検索はできないものの、ベノワの姿を削除せずに映像がアーカイブされている。
世界屈指の大企業という形態の中で、WWEがベノワに対して見せることができる最大限のリスペクトの現れだろう。



このような壮絶な後日譚があったことを知った上であの試合を観ると、感動以外の何ともいえない感情が湧き上がって来るのだ。16年経った今でも、ふとしたときにこの極上の試合を観て、彼らが生きていたらどんなプロレスをしていただろう、と思いを馳せてしまう。


レスラーは常に危険と隣り合わせの職業だ。文字通り命を削り、一歩間違えればそこにはエディのような死や、ベノワの様な悲劇が待ち受けているかもしれない。
ただ、レスラーは観客に同情の目を向けて欲しいとは一切思っていないだろう。彼らは我々の熱狂・感動を求めて命を削っているのだから、我々は純粋に彼らのパフォーマンスを堪能するべきなのだ。



だから僕はプロレスが好きだ。



柄にもなくめちゃくちゃシリアスな話をしてしまった。
次は面白おかしい試合を紹介したいと思う。

暇だったらこっちも読んでね↓



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