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2022年3月の記事一覧
私の好きな短歌、その50
こほろぎの鳴く声とみにひそまりて庭の茂みに雨か降るらし
土田耕平、『青杉』より(『現代日本文學大系94 現代歌集』筑摩書房 p78)
「とみに」は急に、にわかに、の意。「雨か」の「か」は係助詞、結句の「らし」(連体形)とともに推定を表す。断定ではなく推定であることで、激しい雨ではなく優しい雨であることがわかる。草の下でコオロギが辺りをうかがっている様子が目に浮かぶ。静かな落ち着いた心で自然
私の好きな短歌、その51
木枯の風吹きすさぶ夕なり机の上に洋燈をともす
土田耕平、『青杉』より。(『現代日本文學大系94 現代歌集』筑摩書房 p78)
上三句の厳しさと下二句の落ち着きの対比が、ありきたりと言えるかもしれないが、鮮やかだ。下二句は現代ではもはや出てこない句であり、それが新鮮。現代歌人が同じように詠ったら何かカッコつけているようでいやらしくならざるをえない。部屋の中までは木枯は吹かないとは言え、洋燈の
私の好きな短歌、その52
雨ながら今日も暮れたりわが宿の裏道通ふ牛の足音
土田耕平、『青杉』より。(『現代日本文學大系94 現代歌集』筑摩書房 p79)
初句「雨ながら」、自分でも使ってみたい。自分なら、「雨のなか」とか「雨降りて」とか「しぐれつつ」などを使うだろうが、この「…ながら」の、意味は通るが少し古風な感じがいい。解説の年譜によれば、この「わが宿」は、伊豆大島での療養生活の時に暮らしていた宿のこと。牛の足音
私の好きな短歌、その53
澄む月をそがひにしつつ立ち戻る渚の砂にひとつわが影
土田耕平『青杉』『現代日本文學大系94、現代歌集p81』
「そがひ」は後ろ、背面。現代では意味が通じないかもしれないが味のある響きで捨てがたい。「立ち戻る」が唐突なようだが海から帰るという場面を的確に表し、砂浜ではなく「渚の砂」と言ったことで、粒状感のある写真のような画が見えてくる。
優雅とも言える四句までから一転、孤独を感じさせる結句