私の好きな短歌、その51

木枯の風吹きすさぶ夕なり机の上に洋燈らんぷをともす

 土田耕平、『青杉』より。(『現代日本文學大系94 現代歌集』筑摩書房 p78)

 上三句の厳しさと下二句の落ち着きの対比が、ありきたりと言えるかもしれないが、鮮やかだ。下二句は現代ではもはや出てこない句であり、それが新鮮。現代歌人が同じように詠ったら何かカッコつけているようでいやらしくならざるをえない。部屋の中までは木枯は吹かないとは言え、洋燈の炎はいつもより揺れているだろう。それに照らされる作者の顔、机の上に置かれた本や紙類、ペン、本棚、窓枠、次から次へとイメージが湧いてくる。「洋燈」が、炎が、イメージを喚起する力を持っているのだ。その力を借りて一首が力を得た。

 『青杉』は1922年(大正11年)刊。刊行時作者28歳。作者生没年は1895年(明治28)ー1940年(昭和15)、享年46歳。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?