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私の好きな短歌

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私が好きな短歌を紹介します。主に大正、昭和の歌です。時々現代のものも。
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2021年7月の記事一覧

私の好きな短歌、その15

生のままセロリきざみて粕にあへかをり高しと粥すすりつつ

 岡麓、歌集『雪間草』より(『日本の詩歌 第6巻』中央公論社 p392)。

 「七面鳥」中の一首。下三句すべてが「か」で始まっている。それによってセロリの歯ごたえ、また独特な爽やかな香りが強調されているようだ。セロリは当時どのくらい普及していたのだろうか。定かではないが、おそらく歌の素材としては新しいのではないだろうか。作者はこの時73歳

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私の好きな短歌、その16

逝く人はかへり来らず月も日も留まれる者のうへにつもりて

 岡麓歌集、『雪間草』より(『日本の詩歌 第6巻』中央公論社 p393)。

 「老を嘆く」中の一首。誰しもある程度年齢を重ねれば何人かの知人の死を知ることになる。老境に入った人はなおさらだ。上二句は自然に口をついた嗟嘆そのままで、三句以下は詩的な表現になっている。詩的だが実感がこもった表現だ。「月も日も」という表現に工夫が感じられる。月日

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私の好きな短歌、その17

代田(しろた)掻く親にすがりて牛の仔(こ)の無理無体にし乳のまむとす

 吉植庄亮、歌集『開墾』より(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p72)。

 ユーモラスな歌だ。親牛が代を掻かされている最中にもかかわらず、無理やり仔牛が乳を飲もうとしている。「無理無体にし」がいい。仔牛の、ともかく乳が飲みたいという力強さが伝わってくる。分かりやすいが、将来、水田に牛を使っていたことを知らない人ばかりにな

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私の好きな短歌、その18

私の好きな短歌、その18

一日(ひとひ)にて別るる吾子(あこ)のほころびを著(き)たるままにてつくろひやれり

 三ヶ島佳子、歌集『三ヶ島葭子歌集』より(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p76)。

 作者が肺病であるために、作者と離されて夫の実家で暮らしている子と一日だけ会ったのである。上二句が、置かれた状況を簡潔に表している。服を着たままで繕っている母子の睦まじい姿が、夕刻の空を背にした影絵のように浮かんでくる。別

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