私の好きな短歌、その17

代田(しろた)掻く親にすがりて牛の仔(こ)の無理無体にし乳のまむとす

 吉植庄亮、歌集『開墾』より(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p72)。

 ユーモラスな歌だ。親牛が代を掻かされている最中にもかかわらず、無理やり仔牛が乳を飲もうとしている。「無理無体にし」がいい。仔牛の、ともかく乳が飲みたいという力強さが伝わってくる。分かりやすいが、将来、水田に牛を使っていたことを知らない人ばかりになれば、分からなくなる歌だ。今後詠われることがないモチーフかもしれず、眼前の景を堅実に写生することによって、そのときにしか詠えない作品が生まれたのだといえる。一瞬を切り取る1枚の写真のように。

 当歌集は1941年(昭和16年)の刊行。作者生没年は1884年(明治17)ー1958年(昭和33)享年75歳。

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