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『アスリーツ』あさのあつこ

何か競技(特にスポーツ)を始めたばかりの頃は記録がどんどん伸びるから、上を目指すことしか考えないけれど、ある一定のレベルになるとパッタリと記録が伸びなくなる時が必ず来る。

競技を続けるか辞めてしまうかの最初の分岐点はそこなんだろうと思う。

主人公の沙耶は中学生。陸上ハードル選手なのだが、怪我をきっかけに部活動を辞めてしまう。その時顧問の先生に「ほっとしたか?」と聞かれる。怪我をした瞬間、悔しいという気持ちではなく「安堵」した自分を見抜かれていたことに驚くが、同時にこうも思うのだった。

「あたしは、とことんハードルと付き合えない。大好きだよと抱きしめることができない」

作者がスポーツを経験してきたかどうかはわからないけど、この言葉は、何かに打ち込み壁にぶち当たった人が「辞める」という選択肢を選ぶ一つの理由なんだと思う。競技を「楽しい」と思える人はやっぱり強いと思う。

退部届を出したとき、顧問の先生は「自分に合った競技を見つけて楽しめ。自分にぴたっと嵌まってくる何かが、人には必ず一つはある。おまえはハードルではなかったんだ」という言葉を贈った。その後、沙耶は高校に進学し、別の競技(射撃)と出会うのだが、陸上とは違った新鮮な気持ちが、挫折した心の痛みを徐々に癒やしていく。

きっと、大きな喪失感を抱いている人は、それを埋め合わせるための別の何かに出会うまで、グズグズと心にくすぶるものが残っているのかもしれない。なまじっか辞めた競技に中途半端に関わっていると、いつまでも気持ちの切り替えがつかない。

この小説には沙耶の親友も登場するのだが、この二人がそれぞれ相手を思い、自分の未熟さを受け止めながら成長していく様子もとてもリアル。

全体的に丁寧な心理描写で、個人的にとても共感できる小説だった。
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★★★★☆
アスリーツ/あさのあつこ(著)
中央公論新社 (2019/9/10)
Kindle版

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