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イカナゴ減少のシナリオと豊かな瀬戸内海の再生に向けての提言(兵庫県水産技術センターリーフレット「豊かな瀬戸内海の再生を目指して」より)

さらに昨日の続きです。
イカナゴ減少のシナリオと豊かな瀬戸内海の再生に向けての提言、これに基づき兵庫県で行っている栄養塩対策についてです。

以下、特記した場合以外、引用は兵庫県水産技術センターリーフレット「豊かな瀬戸内海の再生を目指して」から、図はそちらからのキャプチャー画像です。
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イカナゴ減少のシナリオ

海域の貧栄養化(DINの低下)による餌環境の悪化によって、イカナゴは長期的に餌不足の状態にあると推察されました。また、餌不足は肥満度を低下させ、それによる産卵数の減少(再生産力の低下)が、長期的な漁獲量の減少につながっていると考えられました。

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さらに、開発した大阪湾・播磨灘イカナゴ生活史モデルを用いて、1990年代の栄養塩環境を想定したシミュレーションを行った結果、漁獲量は現状から大きく回復する結果が得られました。
一方、水温上昇はイカナゴの再生産にマイナスの影響を与えると考えられますが、調査データの分析結果および過去の水温条件で行ったシミュレーションにおいても、漁獲量の増加が見られなかったことから、1990年代半ば以降の環境下においては、貧栄養化がイカナゴ資源の長期的減少に大きな影響を与えていると考えられました。

豊かな瀬戸内海の再生に向けて

●栄養塩環境の改善
兵庫県では、イカナゴ減少量の減少のほか、養殖ノリの色落ちや小型底びき網の漁獲量減少など、貧栄養化の影響と考えられる事象が生じています。
イカナゴは漁獲対象であるだけではなく他の様々な海洋生物の重要な餌となっています。
したがって、イカナゴ資源の回復は豊かな瀬戸内海の再生と同義と言って良いでしょう。
本調査により、海域の貧栄養化がイカナゴ資源の減少要因であると考えられました。この結果を踏まえて、栄養塩環境の改善対策の早急な実施が必要です。

●モニタリングの必要性と順応的管理
海洋生態系は複雑であり施策実施による生態系の変化には不確実性があります。このため施策と並行して、海域環境と生物のモニタリングと解析を実施し、順応的な考え方に基づく検証を行いながら対策を進めることが必要です。また、そのための体制作りも重要です。

●資源管理の必要性
水産資源は環境要因のほか漁業などの社会的要因の影響を受けます。イカナゴ漁業は高いレベルの資源管理を実践しています。今後も資源水準に応じた迅速で的確な取り組みを行っていくことが必要です。

●終わりに
「イカナゴ漁獲量と栄養塩環境の関係を明らかにする」という本調査事業の目的は、「イカナゴ減少のシナリオ」を提示することで、その大筋を示すことができました。このシナリオは現時点の情報に基づいており、項目を結ぶ矢印の確実性には強弱があります。このため今後も引き続き”豊かな海の実現”を目指して調査研究を進めていきます。

謝辞

中田喜三郎 名城大学特任教授(検討会座長)、上田拓史 高知大学名誉教授、鈴木輝明 名城大学特任教授、相馬明郎 大阪市立大学教授、多田邦尚 香川大学教授、藤原建紀 京都大学名誉教授には「豊かな瀬戸内海再生調査事業検討会」の検討委員として多くのご指導を賜りました。
また、上真一 広島大学名誉教授、日下部敬之 大阪府立環境農林水産総合研究所理事には貴重なご助言を賜りました。大阪府、岡山県、香川県、徳島県、和歌山県、愛媛県からは海洋観測データをご提供頂きました。
皆様にはこの場を借りて厚くお礼申し上げます。(2020年3月)
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イカナゴの不漁の原因がかなりの正確さで明らかになったのではないかと感じます。
明石では、ため池の水を川に流すことで、ノリの色づきを改善したという記事を読んだことがあります。
都市部の河川は、コンクリートで固められていますので、栄養分が流れ込むことも少なそうです。
2020年12月、兵庫県の井戸知事から、以下のような説明がありました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー【兵庫県の栄養塩対策】
この栄養塩対策として、兵庫県としては、次の取り組みを行っている。
まず、望ましい栄養塩濃度の設定。兵庫県域の海域において、窒素とリンについて、環境基準値が設定されているが、現状では、これを大幅に下回っている状況にある。一方、陸域から栄養塩類が供給される閉鎖性海域では、窒素0.2mg/L以下、リン0.02mg/L以下では、生物生産性が低く、漁船漁業に適さないとされる水産用水基準(日本水産資源保護協会)に基づき、全国で初めて海水中の水質目標値(下限値)を設定した。これにより、海域の生態系を支える植物プランクトンの栄養である窒素とリンを適切に管理することとしている。
第二に、栄養塩の供給の強化だ。その一が、下水道終末処理施設からの供給で、播磨灘流域別下水道整備総合計画を変更し、全国で初めて、窒素の季節別の処理水質を設定し、環境基準の処理水質の範囲内で可能な限り窒素の放流濃度を高める季節別運転が行われている。あわせて、その二として、民間の工場、事業所においても、栄養塩類の供給に協力してもらうため、ガイドラインを定め、その取り組みを進めてもらう。
その三として、土地等からの栄養塩供給の推進。森林等の適正管理を行い、豊かな森づくりを引き続き行い、栄養塩涵養を行う。まさに「山は海の恋人」である。また、ため池の「かい掘り」だ。ため池の適正管理のため一年に一回ため池内の水や泥を流して干し上げる作業で、ため池の栄養分が海域に流される。
その四は、河川の大堰などの放流だ。
河川水が堰き止められているのでこれを放流することで、栄養分も供給される。
その五は、海底耕耘だ。海底に積もった栄養分を含んだ底質地を撹拌して供給することだ。
その六は、藻場・干潟の保全や創出だ。浅場での藻場、干潟の再生や石積み護岸など環境配慮型護岸の整備を進めなければならない。

【これから】
今までみてきたように、生物の生息の場の再生や創出、海域の生態系を維持するために栄養塩の管理が必要となる。そのために、今までの水質規制制度が水質基準以下をめざすことにより、瀬戸内海の水質がきれいになりすぎる程の状況を達成しているので、県では、海域の下限値を定めて、その範囲での水質管理を行うこととした。この栄養塩管理の仕組みを法制度上も位置づけていく必要がある。

そのためにも、県民や関係者の理解が不可欠だから、その普及啓発を実施する必要がある。また、モニタリングなど海域の科学的状況把握が欠かせまい。

私たちは、瀬戸内海を、単に水質の総量規制による「きれいな海」だけではなく、漁獲量に恵まれた「豊かな海」、そして風光明媚で多島海を護る「美しい海」としなければならない。

そのためにも、新型コロナウイルス感染症の状況から令和4年秋に延期された「第41回全国豊かな海づくり大会兵庫大会」を成功させたいものだ。
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全く同感です。
現行の水質規制では、水質基準以下を目指すためにきれいになりすぎる。
これを改善する、ということは、言葉を変えれば、現在よりも汚くする、というような意味合いにもなります。
我々一般市民も、その意味合いをよく理解し、きれいなほど良い、という価値観を転換しなければなりません。
私も「いかなごのくぎ煮振興協会事務局長」として、「豊かな海」実現に向けて、正しい理解を広める努力を続けます。

最後までお読みいただきありがとうございました! 伍魚福の商品を見つけたら、是非手にとってみて下さい。社長のいうとおりになってないやないかーとか、使いづらいわー、とか率直なコメントをいただけるとうれしいです。 https://twitter.com/yamanaka_kan