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本当は、嫌だった

「悪いけど、君のことが好きになった。」
そんな問いかけで、付き合うことになった。恋人ができた。

憧れていた美容師になった私は、一人前になれるよう必死になっていた。
めぐりめぐる長時間残業に先輩からの叱咤、そして同期との競争、私は疲弊していた。
辞めることも考えたが、、やめた。
憧れの美容師になるために!とかではない。
先輩や同期に考え直してはくれないかと、懇願されるのが嫌だと、思った。
だから、考えるのをやめた。

「この人どう?」
唐突に男の人を紹介されて、先輩の誘いを断れなかった私は、その人に会うことになった。彼氏がいないのは、自分だけじゃないし、なぜ私なんだろう?と、思ったが、、いや、思うだけだった。そして会うことになった。

顔面偏差値は中の上で、勤め先は大企業。
長年仕事に奔走していた私は、彼氏を作る気力もなかった。久々にお店以外での成人男性を前に緊張した。緊張をほぐそうと手振り素振りして楽しませようとする彼に好感が持てた。好きになってやろうと、思った。

彼氏ができたことがきっかけで、職場の話題は、私と彼の事ばかり。この職場で目立つことが無かった私は、初めは戸惑ったが、何より嬉しかった。仕事も順調で、お客さんとの接客サービスに好評を呼ぶようになり、同期の中では、頭ひとつ抜けるようになった。

休日の過ごし方といえば、もっぱら彼氏とのデートばかり、毎週毎週、心の拠り所にして、嫌だった仕事も頑張れていた。インドア派な彼氏に合わせてデート場所は、私か彼かの家になってった。それでも十分楽しかった。

「最近どうしてんの?、、へぇ〜デートスポットとか行かないの?」
先輩の質問にたじろぎながら答える。自信なさげに答える自分に嫌気を感じた。

彼氏と初めて喧嘩した。ただ、我儘を押し通そうとした私のせいだ。

今週末のデートは、有名なデートスポットに行くことになった。彼は、やっぱり優しかった。その日を楽しみになのか、少しばかり職場に早く着いてしまった。残念ながら先輩に近況報告する事はなかった。聞いてこなかったからだ。浮き足を抑えながら仕事をこなした。

デート当日、彼氏は帽子をかぶっていた。マスクもしてるので、なんだかお忍びデート風に見えておかしかった。騒いではっちゃけた、嫌な記憶を、いい記憶に変換するみたいに、楽しくて楽しくて、インドア派の彼氏もなんやかんや楽しんでいた。映える写真を撮った、有名なイベント広場へ行った、雰囲気の良いレストランへ行った。

お土産を職場のみんなに渡した。人気の洋菓子だが、みんなそっちのけで私のデート話に夢中だった。口角を上げて話す自分が鏡越しに見えた。

順調に幸せ街道を登った。デート場所も家だけでなく、たまにはデートスポットに行くことを承諾してもらえた。

そんなある日、LINEで彼氏が仕事を辞めたことを知る。上司と軋轢が続いて憔悴しきっていたそうだ。心配になった。次の仕事は決まっているのか、、彼のことを心配した。それからと言うもの、喧嘩が絶えなかった。彼と会わない日が続いた。そしてLINEで別れを告げた。

当然ながら紹介を、してくれた先輩に一応の報告をするのが、礼儀だと感じたので伝えた。最近の先輩は、、、頑張っていた。笑顔を作るのを。それがなんだか不器用で、その笑顔は私にしか見せなくて、、。そういえば、同期から聞いた、元彼がこの店のお得意さんで恋人になったからお店としては、お徳だねって。

先輩は、彼の専属で二人は、とても楽しそうに見えた。だから、私もその輪に入りたくて、その男に近づいた。それからだったと思う、先輩が叱咤を繰り返し、不器用な笑みをしだしたのは。


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