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『世界に一つだけの花』を久しぶりに聴いてみる

■ 懐メロを聴く

皆さんは、三回目の緊急事態宣言が発令されて、どのように過ごしていますか。
私たちも自宅が過ごす時間が多くなり、音楽を聴く時間が増えました。
昔のヒットソングを聴くことがあり、SMAPメドレーを何故か良く聴いています。SMAPの曲を改めて聴くと、本当に名曲ばかりでびっくりしたのですが、ある名曲を聴いて感じたことをお話させて頂きます。その名曲は『世界に一つだけの花』です。


世界に一つだけの花
一人一人違う種を持つ
その花を咲かせることだけに
一生懸命になればいい
                                                           作詞・作曲 槇原敬之

■ 年月を経過したことでの視点の変化に気付く

この名曲を妻と聴いたとき、当時何をしていたか、どういう感じで聴いていたか、ということをお互いに話しました。
この曲は2003年3月にシングルでリリースされており、当時、私は司法試験の勉強の真っ只中でした。当時の私は、早く試験に合格したい、という想いが強く、この歌詞を聴いても、「そうはいっても、世の中は競争社会で、勝ち抜かないと自分は社会に存在価値はない。綺麗ごとの話だ。」と本気で感じていました。そのため、この曲を聴いても共感が薄く、当時はそれほど良い曲であると思えていませんでした。

その後、司法試験に合格できず悩んだ時期を経て、弁護士になり、様々な方々と関わらせて頂くことに加え、多様性(ダイバーシティ)が大切にされる時代の流れも相まって、少しずつ文字どおり「人はそれぞれ世界に一つだけの特別な存在であり、自分が持つ個性を輝かせて生きていけば良いんだ!」という意味を、実感として感じられるようになりました。

さらに最近聴いた時は「それぞれの人は、それぞれ独自の種(視点(魂))を持っている。その種(視点(魂))は、世界に独自の意味や意義をもたらすものであり、それによって自分、さらには自分を通じた(自分から見える)世界が輝きだす。真剣に生きることは、種に養分を与えることであり、それを続けていけば、きっと種は、芽を出し、蕾になり、ついには花開く。そうなれば、結果として、自分も世界も幸せになっている。」というメッセージと感じ、非常に深いなぁ、と感激しました。

■ 複数の視点が内在し、包摂していること

昔の曲を聞いた時、過去の思いと同時に、今の自分の感想が自然で浮かんできますよね。そして、この曲にはこんな深い意味があったのか、懐かしさとはまた別の発見や気付きがあるのではないでしょうか。

この感覚を丁寧に見つめていくと、当時の受け止め方、少し経って聞いた時の感じ、今聞いた時の感想、がそれぞれ排斥するのではなく、それぞれが自分のどこかに居場所を持ち、同居していることに気付くはずです。これは、自分ではない他の人(私の妻など)の感想や受け止め方を聴いた時の感覚と少し違うはずです。
確かに当時の受け止め方は幼稚だったり短絡的だったとしても、甘酸っぱさもありつつ、今の自分にもどこかに間違いなく居て、思い出すだけでその時の感覚が自分の中に沸き立ちます。

私は、これが成人発達理論の「超えて含む」、の一つの分かりやすい例(感覚、手触り)だと考えています。
様々な経験や年月を経ることで、意識が少しずつ成熟し、歌詞を観る視点・視座が変化し、それによって受け止め方が変わっているため、以前の視点・視座を「超えて」います。ただ、それを排斥していないため「含んでいる」とも言えます。まさに、複数の視点・視座は自分に間違いなく内在され、いずれも排斥されず包摂しています。

■ 輝きが増し、花になる

この記事を書かせてもらっている最中、小林秀雄の『私の人生観』のこの一節が浮かびました。

芸術家は、物Dingを作る、美しい物でさえない、一種の物を作るのだ。人間が苦心して様々な道具を作った時、そして、それが完成して、人間の手を離れて置かれた時、それは自然物の仲間に這入り、突如として物の持つ平静と品位とを得る。それは向こうから短命な人間や動物どもを静かに眺め、永続する何ものかを人間の心と分とうとする様子をする。

この一節を改めて読んだとき、『世界に一つだけの花』も同じだと感じました。この名曲は、もはや作詞家・作曲家の手を離れ、平静と品位という佇まいを醸しながら、厳然と確固として存在しています。
そして、曲と私たちの意識が触れ合った時、曲と私たちの心を分かち合うことで、素晴らしい想念(意識)や何かが生まれます。この想念(意識)といったある種のエネルギーが生まれ、それが互いに加えられる(作用する)ことで、曲も私たちの心も一層輝きが増しているのです。
その輝きが、やがて蕾となり、花開く、何かそんな素晴らしい予感を感じた経験を、この名曲と小林秀雄の一節を通じてさせてもらいました。

皆さんにとっての思い出の名曲や一節は何でしょうか。
それを思い返す、そして今の受け止め方を素直に感じる。それだけで、自分の中に何か素晴らしい気付きや体験が自然と生まれてくるはずです。
その感覚を味わったとき、この記事をふと思い出してもらえれば大変嬉しいです。