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30歳。歳のせいか、土地のせいか。


4月中旬。祖母の自宅の庭に広がる「都忘れ」

「花鳥風月」という言葉がある。
誰もが聞いたことのあるこの言葉には、以下のような意味があるそう。

花鳥風月とは、「美しい自然の風景」という意味を持つ四字熟語で、年齢ごとに趣味が変わる様子に例えて「花を愛でるようになると老化のはじまりであり、月を愛でるようになると死期が近い」と解釈することもある。

実用日本語表現辞典

前者の意味は一般的に認識されていて、小学校だったか、中学校だったか、私もいつの間にか知っていたように思う。

後者の解釈は、その後、だいぶ大きくなってからどこかで聞いたことのある話。でも、高校生だったか、20代前半だったか、その時には「そういうものなのかな」と感じる程度だった。

今年、人生30周年を迎えた。

ここに来て7年、私はすでに「花鳥風月」の全てに興味を持ち、愛でるようになった。「実用日本語表現辞典」によると、もうすぐ死期が近いのだろうか?


30年目を迎えた今、私がいるのは高知県黒潮町。

なんと言っても、美しい海があることがこの町の自慢だと思う。
普段の静かな海もそうだし、5月に開催される「Tシャツアート展」の時期の賑やかな海だってそう。広く長い海岸線、キラキラと輝く水面、刻々と砂模様を変えていく潮風。ここで暮らしている中で最も好きな部分だと、はっきり言える。

晴れた日にキラキラと輝く海面が好き

昔から自然は好きで、海は特に好きだったし、だからこそ、ここでの生活を楽しめている。合っている。でも、黒潮町に来て、「自然が好き」というその意味は少し変わってきた。

こっちの人たちに「まぁ都会からよう来たねぇ」とよく言われる私は、実は田舎の子で。丹沢山系の麓で育ち、山好きの両親に連れられ、週末はよく山登りやキャンプを楽しんだ。

自然に触れて育ってきたから、例えば学生時代、旅行に行く時にはレジャー施設よりも海や山などの自然が楽しめる内容を好んだし、美しい景色を見ることが好きだった。「綺麗だね」「すごいね」。自然の世界に触れる度にそう思える感情があった。

でも、「綺麗だね」「すごいね」、そこまで。
それ以上にはならなかった。

たまたま夜空を見上げて、そこに満月があれば「綺麗だ」と思うし、道端に咲く花を見たら「可愛い」と思う。割と当たり前のことで、私は自然が好きだと思っていた。

でも、ここに来て、自然との付き合い方がちょっと変わったように思う。

椿の花がぽたりと地に落ち、海辺の桜が咲き出す。冬が終わり、春が始まる季節が交差する瞬間を感じる。
松原の木陰に紫色のハマエンドウの花が咲きはじめ、大好きなあたたかい浜辺が近づいていると思う。

入野松原沿いに咲いていた椿の花。冬の終わりを感じる。
伊田漁港〜灘につながる道の崖の上で咲くハマエンドウ。
浜辺ではなくても咲くんだなぁ。

仕事終わり、外に出ると広がるピンク色の夕空と、静かに佇む三日月に、心を動かされ、潮の満ち引きや月齢が気になるようになり、満月の日には暗い松原の間をかき分け、写真を撮りに出かける。そして、月の本を読み始める。

仕事終わりに外に出た瞬間の空の色がいつも好きだった
月にまつわるエピソードがたくさんで面白い

4月、祖母の家に遊びに出掛け、庭に咲く「都忘れ」を見て、可愛いと思う。「おばあちゃん、都忘れ、すっごく好きなが」という言葉を聞き、その花が急に愛おしくなる。名前の由来や花言葉を調べ始める。

佐渡へ流刑された順徳天皇がこの花を眺め
「都への思いを忘れよう」と和歌を詠んだ伝説からついた名前だそう


花・鳥・風・月。
生活の中で触れるあらゆる自然に敏感になり、「もっと知りたい」「それって何で?」と思うようになった。

移住者によく投げかけられる「黒潮町の魅力は?」という問い。

「自然があるから」という回答はもちろんだけれども、30歳の私には当たり前すぎるようになった。

そうじゃなくて、そうなんだけど。

「自然の愛し方を教えてくれるから」、それが今の私の答えだと思う。
この町やこの地域全体が、私にとって自然の遊び方の先生なんだ。

なんだか朝ドラの牧野博士に影響された人みたいな言葉だなぁと、読み返して思ったけれど、それでもいいかな。

"自然”をめいっぱい感じられるから
太陽を浴びる時間が好き。
おかげで夏になる前には毎年真っ黒になる(笑)

以前、大切な人がふと言ってくれた
「美しいものを美しいと思える、その心が美しいがよ」という言葉を思い出して、うん、やっぱりそれでいいかと思える。

30歳、「花鳥風月」を楽しめるようになったのは、歳のせいか。それとも、この地が与えてくれた力なのか。

月まで行ってしまったその先の、自然の楽しみ方はどうなっていくのかな。
ここに暮らしていれば、きっともっと美しい方向に進んでいける気がする。

Photo & Text   Okamoto Lisa

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