サンクトペテルブルク3

ドストエフスキーとグリニッジ・ヴィレッジのサモワール(1/3)

サンクトペテルブルクにあるドストエフスキーが住んでいたアパートのすぐそばに、食品市場がある。ドストエフスキーもそこに立ち寄って黒パンに紅茶を買っていたかもしれないなどと思いながら、売り場を巡った。

白衣に白いスカーフをかぶったおばさんが並んでいるところでは、にしんの薫製やイクラなどを売っている。イクラはロシア語でもイクラ。そんなことを覚えたのは、ニューヨークはブルックリンにあるリトルオデッサでのことだった。

リトルオデッサとは、ニューヨークのブライトンビーチにあってウクライナやロシアからの移民が集まり住む地域のこと。そこにも、サンクトペテルブルクにあるものと同じような食料品店があって、お目当てのイクラも売っている。

90年代、リトルオデッサで買うイクラは極めて安かった。確か、タッパーにぎゅうぎゅうに詰めてもらっても、20ドルもしなかったはずだ。だから、不謹慎な話だが、余ったイクラはニューヨークのアパートにいた愛猫の垂涎の的となった。

ブライトンビーチはブルックリンの突端にあって、大西洋に面している。それは丁度浅草の花屋敷を大きくしたようなレトロな遊園地、コニーアイランドの隣に位置している。コニーアイランドでの食といえば、ポーランドからの移民が19世紀の終わりにソーセージをパンにはさんでそこで売り出したところ人気を博し、瞬く間にアメリカ中に広がった食べ物がある。ホットドッグのおこりである。

サンクトペテルブルクは10月でもともすればとても冷え込む。ドストエフスキーのアパートの中を歩くとき、なぜかアパートの玄関で雪にぬかるんだ靴の汚れを落とす文豪の姿が瞼に浮かぶ。そして、作家は台所にあるサモワールで湧かしたお湯でお茶を飲む。

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