世界は20年後を見通せない。EUの危機が語ること
【海外ニュース】
The parliamentary website crashed briefly after a petition calling for a second referendum on EU membership had gained more than 2.2m signatures by yesterday evening.
訳:議会のウエブサイトが一時機能不全に。昨夜までに220万人を超えるEUへの残留か離脱かを問う国民投票をもう一度という誓願が。
(The Sunday Timesより)
【ニュース解説】
"Brexit"(イギリスのEU離脱)は歴史の転換点になるでしょう。
ここで、離脱と残留との争点をまとめてみます。
「そもそも、東欧やギリシャのように経済的にも弱い国々まで同じEUの傘下にいれているから、イギリスのように”持てる国”はいつも損をしている。しかも、移民まで押し付けられて。彼らは我々の国に働きにきて収入を得るのに、彼らの国はシリアからの移民ですら受け入れない。」
EU離脱派の人はそういいます。それに対して残留派の人は訴えます。
「移民が増えて、我々の雇用が本当に脅かされているの?単に移民をスケープボードにしているだけでしょう。前の戦争が終わって以来、ずっとヨーロッパは平和でいた。人々の移動が自由になり、イギリスはポンドを使っているけど通貨まで統合され、我々はひとつになろうとしている。そんな70年間にわたる努力を、移民をスケープボードにしたナショナリズムという感情論で壊してしまうのはひどいと思う。」
「今のイギリスをみてみろよ。移民だらけじゃないか。本来のイギリスなんてどっかにいってしまった。我々の伝統を守り、我々の国の政治や経済に我々が責任を持てないなんて、そもそも主権がないのといっしょだよ。EUは肥大化して身動きがとれないんだ。彼らは理想ばかりいうけど、現実はイギリスなどの先進国に貧富の差を押し付けて、あとはよろしくって態度だろう。もうEUは機能していないんだよ。」
「そんなことを言っているのは、グローバルな時代についていけない年配者やイギリスから出たことのない偏狭な考えしか持てない人よ。我々若者は子供の頃から色々な人種の人と学校に行き、一緒に働いてきた。それが日常なのよ。素晴らしいことじゃない。経済だって、人の行き来が自由だからこそ活性化される。ロンドンにお金が集まるのもEUにはいっているからでしょ。一部の過激派のテロや、イギリス自らの制度の問題を棚にあげてEUからの離脱を主張するのはナンセンス。私は自由にドーバー海峡をわたってマドリッドやパリ、ベルリンで仕事をしたり、イタリアの友達と交流したりしにくくなる世の中が来るなんて耐えられない。」
こうした議論がイギリスの人々を分断しています。
ただ、一つ冷静な質問をしてみたいのです。戦後の冷戦時代にドイツは西と東に分かれていました。
そして冷戦が終わり、東西ドイツが統合されたとき、旧西ドイツは経済的に疲弊した東ドイツとの統合で大きなダメージを受けました。
でも、ドイツ人は再び東西に国を分断しようとはいいませんでした。
「それは当たり前ですよ。ドイツ人の国が一つになったのですから。イギリスがEUと分断するのとはわけが違います。リトアニアやハンガリーなど、そもそも外国じゃないですか。そんな国の人々と統合させられることと、ドイツがひとつになったこととは根本的に意味が違うでしょう。」
「それはおかしいわ。EUだってすでに一つの国なのよ。我々はイギリス人である前にヨーロッパ人でなければならなかったの。イギリス人至上主義があるからこそ、ドイツの統合は当然だけど我々は違うなんていえるのよ。それが分離を主張する人の本音でしょう。愚かなナショナリズムが人類の知恵を踏みにじっているの。ドイツが統合したときの苦しみや苦労と同様に、EUとしてヨーロッパが統合されるときも、当然乗り越えなければならない試練はあるはず。それが嫌だという人は、自分はアングロサクソン至上主義者だと告白しているようなものじゃない。」
確かに今回の国民投票で分離に投票した人の多くは年配者でした。
そしてEUという文化の中で育ってきた若年層、さらに海外との交流の多いロンドンなどの都市部に住む多くの人は離脱には反対だったのです。
「世界の人にちゃんと事実を伝えたい。今、ロンドンの人口の8割は元々外国からやってきた人で占められているんです。しかもですよ。イギリスではこうした人々も平等に福祉の恩恵を受けられます。医療費だって心配する必要はないんです。でもね。これ我々の税金なんですよ。我々の雇用が脅かされ、同時に高額な税金の多くが移民を生かしていくために使われているというわけなんです。スケープボードにしているんじゃなく、それが現実で事実なんです。」
「冷静にロジックを持って語って欲しい。そもそもイギリス人ってなに。白人で元からこの国にいた人のこと? それってナンセンスよ。皆さん知っていますか。今のロンドンの市長のサディク・カーンさんはパキスタンからの移民の子供でイスラム教徒よ。移民の血を引く人がイギリス人としてちゃんと活躍していることの最も身近な事例なんです。我々はそんなグローバルな時代に生きている。EUから離脱なんていう人は、そんな我々の生きている時代そのものを否定していることになるんじゃないかしら。」
“Brexit” が今後どのようなプロセスを経て実現するのかは未定です。
ただ、マスコミが報道しているように、フランスやオランダ、そしてイタリアなどが2017年以降の総選挙などを通してイギリスと同じ道を選択する可能性がないとはいえません。
そして、こうした動きに刺激されて、アメリカでは移民に批判的なドナルド・トランプ氏が大統領になる可能性もみえてきました。
世界的な視野でみれば、日本と韓国、中国との戦争責任などをめぐる感情的な確執なども、こうした分断の流れとは無縁ではありません。
世界史は語っています。分断の時代には常に戦争や混沌が待ち構えていることを。
そして、異なる立場を統合する方が、分離するよりもはるかに知恵と努力が必要なことも。
20年後、30年後に何がおこるか人類はいつも盲目でした。
1920年代に世界中が民主化されつつあったとき、20年以内に世界が第二次世界大戦の奈落に落ちることを誰も予測していなかったのです。
September 11とギリシャ危機、そして”Brexit” というマイルストーンが、こうした奈落へのマイルストーンとならないことを祈りたいと思います。
2016.6.28
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?