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肉を肉で例えない

狩猟をやっていると、シカやイノシシなど、町で暮らしていたら食べる機会の少ない肉を食べる機会が多くなる。先日、ヒグマを食す機会があり、それが驚くほど美味くて、味見のつもりが腹一杯食べてしまった。

——なんて話を人にすると、よく聞かれることがある。

「ヒグマの肉って何に似てるんですか? 牛? 豚?」

ぼくは根が頑固なので、この手の質問には答えないようにしている。めんどくさいと思われるかもしれないのだけど、ヒグマの肉はヒグマの味がする、としか言いようがないのだ。

たとえば牛肉を「豚みたい」と例えはしないと思う。豚肉を「ラムみたい」とも言わないだろう。ヒグマ・シカ・イノシシも同じなのだ。ヒグマはヒグマ。シカはシカ。イノシシはイノシシ。

たとえばヒグマの肉を人にあげたところ「おいしい! 意外と牛みたいだったよ」と言った人がいた。それはつまり、「牛はおいしいもので、クマはおいしくないもの」という前提(思い込み?)があり、「おいしくないと思ったクマが、まるで牛のようにおいしかった」と言いたいのだと思うのだけど、違うのだ!!!

ヒグマはヒグマとしておいしいのだし、シカはシカとしておいしいのだ。

もしヒグマがおいしくなかったら「ヒグマが好きではない」ということで、それはそれで普通のことだ。世の中には豚肉が嫌いな人がいたり、羊肉が嫌いな人がいるのと同じように、ヒグマが好きな人も嫌いな人もいる。あえて牛に似てるかどうかを気にする必要はないのだ!!

——とぼくはいつも思う。

「わぁ、牛みたいでおいしい〜」

と言う人に、毎回「牛みたいって言わないで!」なんて無粋なことは言わないけれど、心のどこかでざわざわとしている。

似たようなパターンとして「これ言われなかったら、シカだとは思わないよ!」という『褒め言葉』もある。

シカを食べたのだからシカだと思っていいのに……。シカはシカとして美味しいんだから「このシカは美味しいね〜」でいいのに……。ラムを食べて「ラムじゃないみたい!」とは言わないでしょ? ラムはラムの味がしていいの。シカだってシカの味がしていい。

自分で殺めたシカだからかもしれないけど、ぼくは全力で「このシカはシカとして美味しいのだ!」と思いながら食べてる。

ひとりのハンターの独り言でした。

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