姉貴の娘(脚本)

登場人物

葉山まゆ(10)小学生

葉山一騎(28)会社員。まゆのおじ

木根紗理奈(31)会社員。一騎の先輩

木根悠斗(29)弁護士

葉山智絵里(33)まゆの母。一騎の姉

溝呂木卓(36)智恵理の元カレ

緒方凌介(47)智恵理の彼氏





〇コーポ矢車・外観(夕)

まゆの声「置いていかないでくだせー!」


〇同・204号室前(夕)

   ボロボロの服を着て、うさぎのぬいぐるみを持っている葉山まゆ(10

)。母親である葉山智絵里(33)か 

ら右足に巻き付いて離れようとしない。

智恵理「離せ!どっか行け!」

まゆ「いやだ!もっとまゆいい子になるから置いていかないでー!」

智恵理「うざいんだよ!」

   智恵理、まゆを引きはがし、ドアに投げ捨てる。

   ドアと衝突するまゆ。

まゆ「痛い!」

   ドアと衝突したところをさするまゆ。

   その間に去っていく智恵理。

智恵理「せいぜい仲良く暮らしな!」

まゆ「待って!もっといい子になるから!」

   階段を下りていく智恵理。

まゆ「ママ!置いていかないで!」

   智恵理の姿はもういない。

×××

   日が暮れて辺りは真っ暗。

体操座りで待っているまゆ。

男の子の声「クリスマスプレゼント、スイッ

チがいいな!」

母の声「いい子にしてたらもらえるわよ!」

まゆ「ママ……」

   ぎゅっとぬいぐるみを握りしめるまゆ。

まゆ「寒い……」

   カタカタと震えるまゆ。

智恵理の声「あなたは強い子でしょ?」

まゆ「まゆは強い子……」

   パタッと目を閉じるまゆ。

×××

  スーツ姿の葉山一騎(28)が歌を歌

いながら階段を上ってくる。

一騎「んあ?」

   家の前で寝ているまゆに気づく一騎。

一騎「なんじゃこりゃあ?」


〇同・204号室・リビング(夜)

   部屋着を着てキッチンでコーラを飲みながら料理を作る一騎。

   ソファでぬいぐるみを抱いて寝ているまゆ。

   起きるまゆ。

まゆ「あう?」

   辺りを見渡すまゆ。ゾッとする。

まゆ「ここはどこですか!」

一騎「起きた?」

まゆ「まゆの質問に答えろです!」

一騎「ちょっと待って!君が俺の家の前で寝

てたんだよね?」

   まゆ、ピタッと止まる。

まゆ「怪しい人!」

一騎「怪しい人じゃないよ!」

まゆ「怪しくない人も怪しいって言いますで

すよ!」

一騎「でも君が俺の家の前で寝てたんだよ

ね?」

   智恵理の顔を思い出すまゆ。

まゆ「そうだ、まゆ、捨てられて……」

一騎「どっかで見た事あるんだよなぁ」

まゆ「まゆは葉山まゆって言います。ママの

所に帰りますです」

一騎「俺は葉山一騎。まゆ……えーっと、そ

うだ、姉貴のとこの!」

まゆ「何をさっきから意味わからない事言っ

てるです?」

一騎「俺の姉貴、えーっとそうじゃなくて君

のお母さんの弟なのよ、俺、おじなの!」

まゆ「おじさんって事でござやがりますか?」

一騎「おじさんは嫌だけどまぁそうだね」

まゆ「ならこれ渡せって言われました」

   まゆ、手紙を取り出す。一騎、受け取りに行く。

一騎「なんじゃこりゃあ」

   一騎、手紙を見る。

   手紙には「よろしく!」と書いてある。

まゆ「なんて書いてやがりますか?」

一騎「よろしく!って……」

まゆ「やっぱりまゆは捨てられた……」

一騎「姉貴がそんな事するやつなのか?」

まゆ「まゆは邪魔なんだ、ママに捨てられた

んだ!」

一騎「そんなことは無いよ。姉貴が、君のお

母さんがそんな事するやつじゃないって俺、知ってる。約束する。まゆちゃんのお母さんが帰ってくるまで俺が守るから」

まゆ「信じて、いいですか?邪魔にしないで

すか?」

一騎「絶対、しない」

   お風呂が沸いた音が鳴る。

一騎「お、お風呂が沸いたみたい。まゆちゃ

ん、入っておいで」

まゆ「え?」

一騎「お風呂。嫌い?」

まゆ「お風呂入っていいですか?」

一騎「うん」

   ぱあぁと目が輝きだすまゆ。

まゆ「お風呂、久しぶりですよ!」

一騎N「久しぶり?」

   ×××

   風呂場ではしゃぐまゆの声が聞こえる。

   一騎はキッチンでご飯を作っている。

まゆの声「痛い!」

   風呂場に近づく一騎。

一騎「どうした!」

まゆの声「な、なんでもないですよ!」

   誤魔化すまゆ。

まゆ「い、いい湯でございますなー!」

一騎「?ならいいけど」

   キッチンに戻る一騎。

一騎「姉貴はいつ引き取りにくるのだろうか」

×××

   ぶかぶかの服を着たまゆが椅子に座っている。

一騎の声「俺のでごめんね」

机にはポトフが並べられている。

   一騎がやってくる。

一騎「んじゃ食べよっか」

   椅子に座る一騎。

一騎「いただきまーす」

   無言で食べ始めるまゆ。ポトフが入った容器を自分の元に手繰り寄せ一気にがっついて食べる。

一騎「そんな一気に食べなくても」

   一騎の言葉虚しく一気にポトフをかきこむまゆ。

一騎「う、うーん」

   苦笑いする一騎。

   ペロッとポトフを平らげるまゆ。

一騎「もっとゆっくり食べたらいいのに」

まゆ「お客さんが来るんですよね?」

一騎「お客さん?」

まゆ「外に出ないと」

   外に出ようとするまゆ。

一騎「ちょっと!」

   まゆを止める一騎。

一騎「誰も来ないよ!」

まゆ「今日はお休みの日ですか?」

一騎「いや、お休みとかそういうのないけど」

まゆ「やっぱり来るですね!」

   ぬいぐるみを持って外に出ていこうと

するまゆ。

一騎「待って!来ない!来ないから!」

まゆ「本当でございますか?」

一騎「めちゃくちゃマジ!」

×××

   リビングでTVを見ているまゆ。

   キッチンで洗い物をしている一騎。

一騎「そうだ、お布団しかないと」

   寝室から布団を持ってくる一騎。

一騎「まゆちゃん、これ自分で敷いてもらっ

ていい?おじさん、色々家事が溜まってて」

まゆ「え?」

   布団を渡され、驚くまゆ。

まゆ「まゆ、布団で寝ていいですか?」

一騎「え、う、うん」

   戸惑う一騎。

   ぱあぁと瞳を輝かすまゆ。

まゆ「急いで準備するですよ!」

一騎N「とことん変な子だなぁ。姉貴似だ」

×××

   布団を引いてぬいぐるみを抱きしめ、寝ているまゆ。

   一騎は椅子に座っている。

   机に置いてあるミネラルウォーターを飲もうとすると横に置いてあるよろしく!の文字に目が行く。

   スマホを取り出す一騎。姉貴と書かれ  

   た場所をタップする。

   着信が始まるが事無くして「おかけになった電話番号は」とアナウンスが流れる。

一騎N「今更家とも交渉出来ないしなぁ。で

もまゆちゃんの事を思うと」

   頭を悩ませる一騎。


〇同・同・寝室(夜)

   一騎がベッドで寝ている。

   ぬいぐるみを持ったまゆが扉から覗いている。

   ぬいぐるみをぎゅっと握りしめる。


〇同・外観(朝)

   屋根に太陽が当たっている。


〇同・204号室・リビング(朝)

   朝食を食べている一騎とぬいぐるみを持ったまゆ。

   スーツを着ている一騎。

一騎「あ、そうだ」

   一騎、まゆにスマホを渡す。

まゆ「これは?」

一騎「まぁなにかあった時の連絡先に。俺の予備機だけど」

まゆ「ゲームは出来ないでございますか?」

一騎「ゲームかぁ。ウーム……」

   頭を悩ませる一騎。

一騎「動画は見ていいから。ゲームはごめん。そいつもうそんなに容量ないんだ」

まゆ「そうでございますか……」

   しゅんとするまゆ。

   まゆを撫でる一騎。

一騎「まゆちゃんは強い子だから我慢できるよね?」


〇(フラッシュ)

   智恵理がまゆの頭を撫でる。

智恵理「まゆは強い子よね?」

   フラッシュ終わり。


〇同・204号室・リビング(朝)

   まゆを撫でる一騎。

まゆ「まゆは強い子……!」

   何度も復唱するまゆ。

  ぬいぐるみをぎゅっと握りしめるまゆ。

  壁掛け時計を見る一騎。7時45分を

指している。

一騎「やばい!急がないと!んじゃ俺は行

ってくるね」

   玄関へ急ぐ一騎。

まゆ「一体どこへ行くでございますか?」

一騎「どこって会社だけど?」

まゆ「まゆは、まゆはまた独りぼっちにな

っちまうですか?」

一騎「夜には戻るし、昼はカップ麺でもテキ

トーに食べて!じゃ!」

まゆ「ああ!」

   出ていく一騎。

まゆ「行っちまったですよ……!」

   へたり込んでしまうまゆ。

   涙を流すまゆ。

まゆ「まゆ、また独りぼっちですよ……!」


〇海坊主ネットワーク・外観(朝)

〇同・営業課(朝)

   10席ほどあり、どの席にもパソコン  

   が置かれている。

   一騎が座って作業している。

一騎N「まゆちゃんの件、果たしてどうした

ものか。というか姉貴も勝手だよな。娘置いて行ってさ」

   頭を叩かれる一騎。

一騎「いて!」

   一騎の後ろには木根紗理奈(31)が

立っている。

一騎「先輩」

紗理奈「業務中に上の空にならない!」

一騎「別に上の空になんか」

紗理奈「じゃあ何なのよ」

   一騎、考えて

一騎「女の事考えていました」

   ため息をつく紗理奈。

紗理奈「あんたって相当おめでたい頭してる

よね」

一騎「そいつはどうも」

紗理奈「褒めてない!」

   ×××

   一騎の横に座って作業している紗理奈。

一騎「女の子が喜ぶ料理ってなんすかね?」

紗理奈「急になによ、ってまた女の話?」

一騎「いや割と真面目な相談なんすけど。

どうしても喜ばしたいというか」

紗理奈「う~ん、私は豚の角煮とか好きだけど」

一騎「え~マジすか!」

紗理奈「何よ!」

一騎「作るのめんどくさいなって」

紗理奈「はぁ?」

一騎「もっと楽で角煮よりおいしいもん無いですかね?例えばうどんとか」

   ため息をつく紗理奈。

紗理奈「というかあんたが女の話って珍しいわね、どこまでいったの」

一騎「気になります?」

紗理奈「女ってこういうものよ!で?どこま

で行ったの!」

一騎「俺、女のそんなところが苦手なんだよ

なぁ、えーっと、一緒に住んでます」

紗理奈「え!同棲!あんたが!」

一騎「騒がしいなぁ!」

紗理奈「どういう相手よ!休憩時間に写真見

せないよ!」

一騎「あ、そういえば写真無いな」

紗理奈「は?」

一騎「写真無いんすよ。昨日来たから」

紗理奈「写真の1枚も撮ってないの?嘘でし

ょ?」

一騎「姉貴はいっぱい撮ってると思います」

紗理奈「なんでそこで姉貴が出てくるのよ」

   ×××

   時計は12時を指しており、休憩時 

   間になっている。

一騎「(欠伸をしながら)飯かぁ」


〇弁当屋宇都宮・内

   店内はOLやサラリーマンでにぎわっている。その中に一騎もいる。

一騎N「昔から姉貴は勝手なんだよ!折角

医学部に入ったのに2年で辞めて訳わか

らんボランティアしたり」

店員の声「ご注文は?」

一騎「え?」

   店員が多くの人を捌きながら一騎に話しかける。

一騎「え?あー、焼きそば!焼きそば弁当!」


〇コーポ矢車204号室・リビング

   まゆがスマホを弄っている。

   マップを表示させ、勤務先と書かれた箇所を押す。

まゆ「ここがおじさんの働いてる場所でござ

いますね」


〇公園

   ベンチに腰掛ける一騎。手には弁当が入ったビニール袋。

   袋から弁当を出してがっかりする一騎。焼きそば弁当を頼んだはずが焼きサバ弁当が入っている。

一騎N「焼きそばと焼きサバ間違えてやがる

……!」

  ため息をつく一騎。

弁当を食べる一騎。

一騎N「それにしてもまゆちゃんだな。一体

全体どうしたものか。親に頼るか?いやーきつい!」

   外で遊んでいる子供たちを見る一騎。

一騎N「そう言えば服がボロボロだったな。

買いに行くか」

   ×××

   弁当を食べ終わる一騎。公園を出てい  

   く。

一騎「焼きサバも悪くないな」

   入れ違いでボロボロの服のまゆがスマホを見ながら公園に入ってくる。

まゆN「疲れた、休憩するですよ、あ、

自販機があるですよ」

   自販機に近づくまゆ。

   財布を取り出し、小銭入れを見るまゆ。

   100円玉2枚しか入っていない。

まゆ「もうお小遣いがこれだけしかないです

よ」

   手に持ったぬいぐるみを強く握りしめるまゆ。

まゆN「でも、お前がいるから寂しくねーん

だー」

   再び自販機を見るまゆ。

まゆN「たくさんあるんで迷っちまいますよ」

   後ろにおじさんが立つ。

   自販機前で迷うまゆ。

まゆ「うーんどれにしよっかなぁ。このジュ

ースおいしそうだなぁ!」

   後ろに立つおじさんが腕時計を見なが 

   らイライラし始める。

   財布からコインを取り出し、自販機に入れようとしたとき

おじさん「クソガキ邪魔だ!」

   まゆを払いのけるおじさん。

まゆ「あう!」

   横にのけぞり、倒れるまゆ。

   商品を購入するおじさん。

おじさん「休憩時間が終わるだろうが、ガ

キ!」

   去っていくおじさん。

   起き上がるまゆ。

   100円玉が転がっていく。

まゆ「いてて、あ!」

   100円玉が側溝に落ちていく。

まゆ「落ちちまったですよ……」

   側溝を持ち上げようとするまゆ。もちろん持ち上がらない。

まゆN「まゆの力じゃどうしようも……」

   グーッとお腹が鳴るまゆ。

まゆ「一応持ってきたけど……」

   ぬいぐるみのチャックを開き、カップ麺を取り出すまゆ。

まゆ「外じゃ食べられないですよ……」

   水飲み場に行くまゆ。

まゆN「水でお腹いっぱいになろう」

   水飲み場で水を飲むまゆ。

   ×××

   ベンチに座るまゆ。ぬいぐるみをぎゅっと握りしめる。

まゆ「やっぱり寂しい!」

   瞳から一筋の涙。


〇海坊主ネットワーク・営業課(夕)

   作業をしている一騎と紗理奈。

   壁掛け時計が6時を指す。

一騎「んじゃ、俺はこれで」

紗理奈「(小指を立て)これ?」

一騎「まあそんなとこです」


〇公園(夕)

   一騎が通りがかるとベンチに座って寝ているまゆを見つける。

一騎「まゆちゃん!」

   目を覚ますまゆ。

まゆ「おじさん……」

一騎「なんでこんな!」

まゆ「おじさんの会社に行けばおじさんに会

えるかなと思って。でもスマホ途中で切れ

ちゃって」

   まゆのお腹が鳴る。

一騎「ご飯は?」

まゆ「お水一杯飲んだから大丈夫ですよ」

一騎「すぐそこにファミレスがあるんだ!今

すぐ行こう!」

   紗理奈が通りがかる。

紗理奈「一騎?」

一騎を呼ぼうとして袖に隠れる紗理奈。

紗理奈「(まゆを見て)あれが、彼女?」


〇ファミレス・内(夜)

   テーブル席に一騎とまゆが座っている。

   少し離れて紗理奈が座っている。

紗理奈「つい尾行してしまったー!」

   一騎の席にお子様ランチが届く。

紗理奈「年齢も見た目まんまって事よね?」

   店員がやってくる。

店員「あのお客様、ご注文は?」

紗理奈「ええと、オレンジジュース!」

まゆ「お子様ランチって初めて食べたです

よ!こんなにおいしいご飯初めてですよ!」

紗理奈N「お子様ランチであんなに感動?」

   ×××

   一騎とまゆが食べ終わり、会計へと向かう。

紗理奈「早!もう行くの?」

   追いかける紗理奈。オレンジジュースを持った店員とすれ違う。

店員「オレンジジュースなんですけど」   

紗理奈「それキャンセルで!」

   一騎とまゆ、会計を済まし、出ていく。

   紗理奈も後を追う。


〇子供洋服店(夜)

   一騎とまゆが服を選んでいる。

   後ろから隠れながら紗理奈が見ている。

紗理奈「もうついに隠さなくなってきたわ

ね、いやまだ小さいだけで年齢はって事も

あるだろうし……」

   レジに向かう一騎とまゆ。

   会計金額にびっくりする一騎。

一騎「え?こんなにかかるの?あ、えーっと

カードで」

   クレジットカードを渡す一騎。

一騎「女の子ってお金がかかるんだなぁ」

紗理奈「嘘でもそんな事言うんじゃない!」

   紗理奈、身を乗り出すが、すぐにひっこめる。

   びくっとする一騎。

まゆ「?」

一騎「知ってる人から怒られた気が」


〇コーポ矢車・周辺(夜)

   一騎とまゆが歩いている。電柱に隠れながら二人を見つめる紗理奈。

紗理奈「家の周辺かしら?家に連れ込んだら

アウトね」

   玄関前に着く一騎とまゆ。

一騎「家、到着~!」

まゆ「入るですよ~!」

紗理奈の声「アウト~!」

   紗理奈が出てくる。

一騎「?誰だ?」

紗理奈「近寄るんじゃないわよ!ロリコン!

あんたにそんな趣味があったなんてね」

一騎「?何言ってるんです?」

紗理奈「そこのお嬢ちゃん?こっち来なさ

い?」

まゆ「この人は何言ってやがるです?」

   一騎、紗理奈に気づく。

一騎「ってか、先輩じゃないですか!」

紗理奈「問答無用!と言いたいところだけど

言い訳くらいは聞いてあげる」

一騎「何を勘違いしてるか分かりませんが」

紗理奈「問答無用きえー!」

   紗理奈、意味不明なポーズをして一騎に襲い掛かる。

一騎「あぶね!」

   紗理奈の攻撃を避ける一騎。転ぶ紗理奈。頭から出血している。

紗理奈「いたたたた」

   出血に気づく紗理奈。ため息をつく一騎。

紗理奈「血が、血が!」

   慌てふためく紗理奈。

   ため息をつく一騎。

一騎「とりあえず家に来てください。応急処

置もしますから」


〇コーポ矢車・204号室・リビング(夜)

   テーブルを囲んで紗理奈の頭を包帯で巻く一騎。まゆは買ってきた服を並べて遊んでいる。

一騎「これでよし!」

紗理奈「ん。ありがと。にしてもお姉さんが

ねぇ」

一騎「姉貴のせいで先輩の厄介な行動にも付

きまとわれるし、散々ですよ」

紗理奈「だからそれは謝ったじゃない!それ

にあなたが勘違いさせるような事言うからでしょ!」

一騎「人の言う事いちいち真に受ける方が悪

いです!」

紗理奈「まぁいいわ。帰る」

   紗理奈、携帯を見る。画面には10時と表示とされている。

紗理奈「げ!終バスない!」

一騎「泊まっていきます?」

紗理奈「(顔を真っ赤にして)は?」

まゆ「この人、いい人ですか?」

一騎「ああ、俺が保証するよ」

まゆ「一緒にトランプしてくれます?」

一騎「そりゃいい人だからね」

紗理奈「勝手に!ちょっと!」

まゆ「じゃあ泊まってほしいですよ!」

一騎「というわけで」

紗理奈「分かったわよ!泊まります!」

まゆ「やったー!」

紗理奈「手を出したら殺すからね」

一騎「手を出してきたのはそっち……」

   お風呂が沸いた音がする。

まゆ「まゆ、お風呂行っていいですか?」

一騎「もう沸いたか。行ってらっしゃい」

紗理奈「まゆちゃん、私と一緒に入らない?」

   ドキッとするまゆ。

まゆ「い、いいですよ!まゆ、一人で大丈夫

ですよ!」

紗理奈「そ、そう。行ってらっしゃい」

   風呂場に急ぐまゆ。

一騎「昔から変な人でしたけどね、姉貴」

紗理奈「そう。親御さんには相談したの?」

一騎「俺ちょっと親とは色々……」

紗理奈「じゃあまゆちゃんはどうするのよ」

一騎「姉貴が引き取りに来るのを待つしかな

いですね」

紗理奈「まゆちゃんを守れるのはあなただけ

かもしれないけどこのままだとあなたが犯罪者扱いにされるかもしれないわよ」

   ギュッと拳を握りしめる一騎。

   グーっとお腹が鳴る紗理奈。

紗理奈「あなた達を尾行してたらご飯食べそ

びれちゃった」

一騎「芋羊羹ならここに」

   ポケットから芋羊羹をテーブルに出す一騎。

紗理奈「ありがと」

一騎「(裏面を見て)あ、賞味期限切れてる」

紗理奈「別に少しくらい大丈夫よ」

一騎「身長縮みますよ?」

紗理奈「少しくらい大丈夫よ」

一騎「あ、先輩。羊羹なんてどうでもよくて」

紗理奈「どうしたのよ」

一騎「これ、まゆちゃんに届けてもらえま

す?」

   試供品のコンディショナーを紗理奈に渡す一騎。

紗理奈「あんたの家、コンディショナー無い

の?」

一騎「自分の髪のコンディションは自分が決

めるタイプなので」

   風呂場に向かう紗理奈。

紗理奈の声「入るわね。まゆちゃん」

   ガラガラと扉が開く音がする。

まゆの声「く、来るなー!」

紗理奈の声「え?」

まゆ「来ないでくだせー!」

紗理奈「まゆちゃん、あなた……!」

紗理奈の声「一騎くんは来ちゃダメ!」

   ×××

   テーブルに座っている一騎と紗理奈。

一騎「風呂場で何があったんですか」

   下を向く紗理奈。

紗理奈「体の何か所に痣があった」

一騎「え?」

紗理奈「多分」

一騎「ちょっと待って!」

   紗理奈の言葉を遮る一騎。

一騎「俺には姉貴がそんな事するようには見

えないです」

紗理奈「じゃああの痣は何なの?あなたがし

たの?」

一騎「馬鹿言わないで下さい!」

紗理奈「悪化する前に弁護士に相談するわよ」

一騎「そんな大げさな!」

紗理奈「もうあの子はあなた一人では守れな

い!しかるべき場所に相談するしかない」

一騎「じゃあまゆちゃんはどうなるんです

か!」

紗理奈「このまま認められれば施設で過ごす

事になるでしょうね」

一騎「そんな!」

紗理奈「覚悟決めなさい!」

一騎「施設に……」

まゆの声「おじさんの馬鹿!まゆのこと邪魔

にしないって言ったのに!」

   出ていくまゆ。

一騎「まゆちゃん?」

   玄関を見る一騎。扉が閉まる音がする。

紗理奈「追うわよ!」


〇道(夜)

   息を切らしながら探す一騎。

一騎「一体どこに!」

   一騎の携帯が鳴る。紗理奈からである。

一騎「もしもし」

紗理奈の声「どう?」

一騎「そう遠くに行っていないと思って探し

てますが」

紗理奈の声「馬鹿!」

一騎「え?」

紗理奈の声「子供は無限の力をもってるの

よ!この短時間で遠くへ行く事なんて造作もないわ!」

一騎「そう言われても!」

   電話を切る紗理奈。

一騎「ああもう!じゃあどうしろって言うん

だよ!」

   携帯をしまう一騎。


〇空地(夜)

   くしゃみをしているまゆ。

まゆN「休憩終わり。早く遠くに行かないと」

   歩道に出るまゆ。

まゆ「ママ、まゆはいらない子なのかなぁ」

   車道に出て渡ろうとするまゆ。

   プーッとクラクションを鳴らした車がまゆに襲い掛かる。

一騎の声「危ない!」

   まゆを突き飛ばし、まゆを助ける一騎。

   一騎は勢いそのまま壁に激突する。

   いててと言いながら起き上がる一騎。

一騎「あぶねぇ、死ぬところだった」

まゆ「おじさん!」

一騎に近づくまゆ。

一騎「怪我無い?さっさと帰ろう。外って結

構寒い!」

まゆ「嫌だ!」

一騎「どうして」

まゆ「おじさんもまゆを邪魔者にしようとし

たですよ!」

一騎「俺はそんな!」

まゆ「施設に送ろうとしたですよ!まゆを邪

魔扱いしようとしたですよ!」

一騎「まゆちゃん!」

まゆ「まゆを邪魔者扱いしないって言ったの

に!」

一騎「違うんだ!まゆちゃん!」

まゆ「何が違うですか!邪魔者扱いされて独

りぼっちですよ!」

   まゆを抱きしめる一騎。

一騎「(泣きながら)ごめん、そう感じてし

まったならもう感じさせないようにするから!」

まゆ「離せ!」

一騎「ごめん!ごめん!」

まゆ「おじさん……」

一騎「絶対邪魔になんてしないから!」

 

〇コーポ矢車204号室・リビング(夜)

   一騎とまゆが座っている。

   ドアを開く音がする。紗理奈が入ってくる。

紗理奈「まゆちゃん!無事だったのね!ごめ

んなさい。私の言葉であなたに辛い思いを

させてしまって」

   黙り込むまゆ。

スマホを取り出す一騎。12時を指している。

一騎「お、いい子は寝る時間だ」

まゆ「もう、でございますか?」

紗理奈「シャワーだけは浴びていい?」

一騎「そっか、先輩入ってないか」

紗理奈「そう言うあんたもでしょ」

一騎「別に俺は1日入らなくても」

   ため息をつく紗理奈。

紗理奈「汚いから入りなさい」

まゆ「まゆもいっぱい汗かいたから入るです

よ!」

×××

   全員パジャマを着ている。

一騎「お、先輩、俺のだけど似合ってますね」

紗理奈「癪だけど悪い気はしないわね」

   まゆ、トランプを取り出す。

紗理奈「どうしたの?まゆちゃん」

まゆ「トランプ、するですよ!」

一騎「そうだな、やるって言ってたもんな!」

紗理奈「夜更かしすると綺麗な人に……」

一騎「やりましょう!」

紗理奈「ええ?」

まゆ「やるですよ!」

   ×××

   トランプに興じる一騎、まゆ、紗理奈。

まゆ「まゆのターンで……」

   まゆ、目を閉じて眠る。

一騎「子供には深い時間だったか」

紗理奈「もう2時ですもんね」

一騎「布団用意しましょう」

   布団を持ってくる一騎。

紗理奈「まゆちゃん眠ったからもう一度言う

けどまゆちゃんの事どうするつもりなの?親御さんに預けられないの?」

一騎「俺、大学勝手に辞めてそれ以来親とは

反り悪くて」

紗理奈「でもまゆちゃんの事を思うならそん

な事言ってられないわよ」

一騎「俺、約束しちゃったんです。まゆちゃ

んを守るって」

紗理奈「男の守るは時に呪いになるわよ」

一騎「分かってるつもりです。あと俺には姉

貴がそんな事するようには思えなくて」

紗理奈「それはあなたの思い出の中だけの話

かもしれないわよ。ま、いいわ、まゆちゃ

んを寝かせましょ」

 

〇(まゆの夢の中)校庭

   まゆがトラの着ぐるみを着て智恵理に撫でられている。周りには数多くの生徒や父兄の姿が。

智恵理「さっきの最高だったわ!まゆは将来

アイドルか女優さんね!」

まゆ「まゆ頑張ったからパパも戻ってくるで

すね!」

智恵理「パパの話は辞めなさい!」

   ビクッとするまゆ。

智恵理「ごめんなさい、ママ、お仕事行くか

らね」

   去ろうとする智恵理の服を引っ張るま

ゆ。

まゆ「いかねーでください!」

智恵理「我儘言わない。まゆは強い子でしょ」

   去っていく智恵理。周りを見渡すまゆ。

   仕方なく一人ブランコに揺れるまゆ。

〇(まゆの夢の中)智恵理の家

   普通のアパート

   智恵理が芸能事務所のオーディションの不合格通知を握りしめる。それを見つめるまゆ。

智恵理「なんでよ!」

まゆ「またダメだったですか?」

   ギロリとまゆを睨みつける智恵理。

まゆ「まゆ、また頑張るですよ。ママが言っ

てくれた女優やアイドルになるですよ」

智恵理「(まゆをビンタし、)黙りなさい!」

   吹っ飛ばされるまゆ。

智恵理「アイツのせいだわ!アイツの精子に

欠陥があったせいで!」

   泣き始めるまゆ。

智恵理「泣きたいのはこっちの方よ!」

   まゆを見つめ、ハッとする智恵理。

智恵理「(まゆに抱き着き)ごめん、ごめん

ね!お母さん悪かったね!」

 

〇(まゆの夢の中)同(夜)

   まゆが帰ってくる。鍵をかける。

まゆ「ただいま」

   ベランダに向かい、洗濯物を回収する

まゆ。リビングに目を向ける。

まゆ「またママ、お金置くの忘れてる」

   まゆのお腹が鳴る。冷蔵庫を確認して

カレーパンを手に取る。

まゆ「賞味期限が一昨日なら」

   カレーパンを食べる。

   食べ終わるが、まだ満足せずお腹をさする。

   水飲み場に行き、水を飲むまゆ。

   ドンドンと扉を叩く音がする。

   廊下に行き、扉を開けるまゆ。

まゆ「はい」

   溝呂木卓(36)がいる。

まゆ「おじさん!」

溝呂木「まゆちゃん、帰ってたの」

まゆ「でも今ママいなくて……」

溝呂木「まゆちゃんだけでもいいよ。パンも

あるよ」

まゆ「(生唾を飲み込み)でも……!」

溝呂木「ちっ!ならいいよ!」

まゆ「待って!入れるです!入れるですよ!」

 

〇同・リビング(夜)

   まゆと溝呂木がいる。

溝呂木「はい、パン」

   まゆが手を伸ばすが届かない。

まゆ「届かないですよ」

   大笑いする溝呂木。

溝呂木「しゃがんでごらん」

   しゃがむまゆ。溝呂木が後ろから縄でまゆの片腕を縛る。

まゆ「何するですか!」

   動こうとするが縄で痛みを感じる。

まゆ「痛い!」

溝呂木「(パンを食べながら)あはは!」

智恵理の声「ただいま」

まゆ「ママ!助けて!」

   智恵理が到着する。

智恵理「ちょっとあんた!何してるの!」

溝呂木「ちょっとした遊びだよ」

まゆ「ママ!助けて」

智恵理「娘に手を出さないでって言ったよ

ね!」

溝呂木「悪い悪い」

   まゆの縄を解く溝呂木。

智恵理「次やったら別れるからね!」

溝呂木「分かったよ。さっさと失せろガキ!」

   まゆを蹴る溝呂木。

智恵理「邪魔!」

   まゆにぬいぐるみを投げつける智恵理。

 

〇道(夜)

   裸足で歩くまゆ。夜空を見上げる。

   (夢の中終わり)

〇コーポ矢車・204号室・リビング(朝)

   布団で目を覚ますまゆ。

   呼吸が荒いまゆ。

   パジャマ姿の一騎がやってくる。

一騎「おはよ、まゆちゃん」

まゆ「おはようです」

一騎「少しは寝れた?」

   言葉に詰まるまゆ。

まゆ「(満面の笑みで)ぐっすりですよ!」

一騎「(満面の笑みで)そいつは良かった」

   一騎のパジャマを着た紗理奈が急いでやって来る。手には携帯電話。

紗理奈「一騎くん!あと15分後、少しだけ

時間ある?」

一騎「ありますけど」

紗理奈「OK。(携帯に向かって)すぐ向か

って!よろしく!」

一騎「いきなりどうしたんです?そんな慌て

て」

紗理奈「弁護士に来てもらう事になった!」

一騎「はい?」

紗理奈「1回で聞き取りなさい!」

一騎「いや、そういう事じゃなくて」

紗理奈「じゃあ何!男なら簡潔に述べなさ

い!」

一騎「前から思ってたんですけどね、先輩の

そういう男だの、女だのって言い方、好きになれないですね!前時代的で!まるで昭和ですよ!」

紗理奈「あら、昭和の何がダメなのかしら?」

一騎「あのえっと、それは」

   言葉が出ない紗理奈。

紗理奈「みんなそうやって言うけどね、誰も

言えないのよ、本質的に何が悪いかなんて。男らしさ、女らしさを追求して何が悪いのよ、それこそが多様性ってもんでしょ」

一騎「なんだかいいように言われてしまった

気がするなぁ」

紗理奈「男らしさ、女らしさを極めるっての

もいいものよ」

一騎「弁護士来るのか。犯罪でもした気分

だ」

   インターホンが鳴る。

一騎「もう来たのか?」

紗理奈「あの子にしては早いわね」

一騎「あの子?」

もう一度インターホンが鳴る。

一騎「ああ、ちょっと待って!」

   玄関へ向かう一騎。

   ×××

   一騎と紗理奈とスーツ姿でマッチョの木根悠斗(29)が座っている。

悠斗「私、木根弁護士事務所の木根悠斗と申

します」

一騎「やべ!名刺!」

   名刺を取りに行こうとする一騎。

紗理奈「別にいいわよ」

悠斗「姉さん、今の彼氏さん?」

紗理奈「まさか。でも悪い男ではないわね」

一騎「木根優斗!あ!弟さん?」

紗理奈「気づくの遅いわね」

優斗「時間も限られているのでさっそく本題

に参りましょう」

   じっと見るまゆ。

紗理奈「まゆちゃんもこっちに来なさい」

一騎「先輩?」

紗理奈「まゆちゃんの未来を決めるのに本

人不在なんてありえないでしょ?」

   まゆも座る。

   ×××

   それぞれ座ったまま動いていない。

悠斗「確かにこの条件ならこっちが親権を取

れる可能性はありますね」

一騎「でもこういうのって女性の方が有利な

のでは?」

悠斗「虐待となると話は別ですよ」

紗理奈「まゆちゃん、昨日見た痣はママに殴

られたところもある?」

   こくりと頷くまゆ。

悠斗「なら大丈夫ですね」

   ゴクリと生唾を飲み込む一騎。

一騎「まゆちゃん、もしかしたらママと離れ

離れになるかもしれないけど大丈夫?」

まゆ「ママと離れ離れ?」

   ドキッとするまゆ。

一騎「俺ぶっちゃけまだ腹が決まってない

所あります。このままこの子を育てられるのか。姉貴と引きはがして大丈夫か。姉貴がそういう事してたのは少し飲み込めるようになりましたが」

紗理奈「一騎くん」

一騎「命一つ預かるのにそんな無責任な事俺

は言えない。今は会社だって頑張らないといけない。それでも育てられるのかって。繁忙期だったら猶更」

悠斗「確かに簡単には言えません」

一騎「結婚もまゆちゃんごと愛してくれる人

が果たしてどれだけいるのか分からないしこんな俺でもまゆちゃんは付いてきてくれるか不安だし」

紗理奈「まゆちゃんの意見は?」

まゆ「まゆはママと離れるの嫌ですよ。でも

殴られるのはもっと嫌ですよ」

一騎「俺に育てられるのか」

紗理奈「まゆちゃんは強い子だから大丈夫よ」

まゆ「……ないですよ」

紗理奈「え?」

まゆ「強くなんかないですよ……」

一騎「まゆちゃん?」

まゆ「まゆは強くなんかないですよ!」

   大号泣し始めるまゆ。

まゆ「みんな強いとか言ってまゆを縛って!

まゆだってしたい事いっぱいあってでも我慢してるですよ!」 

紗理奈「まゆちゃん……」

   まゆを抱きしめる一騎。

一騎「ごめん。俺無神経だったよ」

   ×××

   泣き止んでいるまゆ。一騎、紗理奈、悠斗もまゆを見守っている。

   ドンドンと廊下から大きな音がする。

一騎「なんだ?」

智恵理の声「おい!いるんだろう!」

   一騎、廊下へ向かう。まゆもついていく。

一騎「はい?」

   扉を開ける一騎。

   派手な化粧の智恵理がいる。

一騎「姉貴?」

智恵理「まゆ、さっさと帰るぞ」

  まゆの手を引っ張る智恵理。まゆは一騎

のズボンを引っ張る。

一騎「何すんだよ、姉貴!」

智恵理「お前に関係ないだろ!」

一騎「そういうわけにもいかない。俺、まゆ

ちゃんの事守るって言ったから!」

緒方の声「何やってるんだ!早くしろ!」

   緒方凌介(47)が出てくる。

一騎「あんたは?」

緒方「まゆちゃん、新しいパパですよ~!」

一騎「新しいパパ?姉貴、再婚?」

智恵理「分かったらさっさとまゆをよこせ!」

緒方「早く来い!」

まゆ「嫌ですよ!この人、怖い!」

智恵理「このガキ!」

   智恵理、まゆを殴ろうとする。

   智恵理のビンタを止める一騎。

智恵理「おい、弟の癖に何のつもりだ?」

一騎「姉貴、本当に変わったんだな!俺はず

っと姉貴を信じてた自分を許せない!」

智恵理「お前にまゆの何が分かる!私は母親

だぞ!」

一騎「痣があるのも知ってる。姉貴がやった

ものだって信じたくなかったけど!」

智恵理「お前、あれだけ隠せと言っただろ!」

   紗理奈と悠斗もやってくる。

悠斗「そう言うわけで虐待が認められるかと」

智恵理「お前誰だ!」

悠斗「私は弁護士の木根悠斗と申します」

緒方「弁護士だと!おい!話が違うぞ!どう

いうことだ!」

智恵理「お前!どういうつもりだ!」

緒方「ガキが手に入ると思ったからお前に投

資したんだぞ!」

智恵理「ちょっと待って!」

緒方「帰る!貴様に出したものも回収させて

貰うからな!」

   去っていく緒方。緒方を追うように去っていく智恵理。

智恵理の声「これには訳が!」

一騎「何とかなったのか?」

紗理奈「どうやらそうっぽいね」

   リビングに戻る一騎、まゆ、智恵理、悠斗。

紗理奈「これで腹が決まったわね」

まゆ「おじさん、かっこよかったです!」

   一騎、しゃがんでまゆを見つめる。

まゆ「どうしたですか?」

一騎「まゆちゃんは俺と一緒にいたい?」

まゆ「まゆを守ってくれるって言葉、ずっと

忘れないですよ」

一騎「(頭を撫でて)ありがとう、まゆちゃ

ん」

悠斗「新しい家族の完成ですね」

一騎「家族、ですか」

悠斗「共に生き、苦楽を乗り越える存在、それが家族だと私は思います」

紗理奈「よかったね、まゆちゃん!新しいパパよ!」

一騎「この部屋も模様替えしないとな!まゆちゃん、何か欲しい物ある?」

まゆ「まゆ、新しいママが欲しいです!」

   頭を悩ます一騎。

   紗理奈を指さすまゆ。

まゆ「ママがいいです」

紗理奈「わ、私?」

一騎「先輩?」

紗理奈「私も女だ!プロポーズ、ドンと受け止めてやる!」

一騎「うーん、お友達からで!」

紗理奈「なによそれ!」

   笑う悠斗。

一騎「今、俺指輪持ってなくて」

紗理奈「そう言うのはね、ムードなの!」

一騎「給料3か月分なら今から銀行に行って

取り出せますけどね」

紗理奈「そういう事言ってんじゃない!」

  笑うまゆ。それにつられて一騎、紗理奈も笑う。

<終わり>

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?